2013年4月12日(金)、例年より早い開花で桜の木が緑一色になってしまったこの日、渋谷区文化総合センター大和田さくらホールでは<イ・ウンミ>という大きな一本の桜の木が満開の花を咲かせた。この「イ・ウンミ STORY」も昨年に続き、2回目となった。「がむしゃらに走り続けた20代。あっという間の30代。そして、いつしか40を過ぎた。角々しさがなくなり、少しは丸くなったと思う。ある日、舞台を降りるとき、私は幸せだと感じだ。好きな音楽に恵まれ、表現すすることができる。でも、舞台の真の主人公は私ではなく、温かく見守ってくださるみなさんだと私は知っている。」とデビュー以来、第一線を走り続けてきたイ・ウンミの言葉がスクリーンに踊る。
ブルーのライトのなかに登場したイ・ウンミ。ネイビーのオフショルダーのトップスにショートカット。キラキラした光るものも、ヒラヒラ揺れるものもなにもない。とてもシンプルなスタイルだ。しかし、それだけ、<イ・ウンミ>という歌手、<イ・ウンミ>の歌声を前面に出し、ファンはそれを直に受け取れる時間を共有することができる。そして、会場から「イ・ウンミ!」と大きな拍手が鳴り響いた。流れ出したメロディー。イ・ウンミの少しハスキーな歌声の世界に魅了される時間が始まる。最初は『ノクターン』だ。「<ノクターン>というと、夜の叙情を表現したショパンの曲を思い出す方が多いでしょう。私の<ノクターン>は別れを前にした恋人たちの話ですので、少し悲しいものです。」今回は「LIVE&TALK」というだけあって、このように1曲ずつイ・ウンミ自身から曲の紹介がある。そして、字幕もあり、日本のファンも彼女の歌声と共に歌詞の世界にも引き込まれる。
「みなさん、こんにちは。イ・ウンミです。<イ・ウンミ STORY 2>を通して、こうしてみなさんにお会いできてとてもうれしいです。お久しぶりです。初めてのシカゴやLA、NYなどでの2年後ごとのアメリカツアーを終えて、3日前に韓国に戻り、そして、日本にやって来ました。時差のために少しボーッとしていますが、みなさんにお会いできて力が沸いてきます。」との挨拶。
さらに「TALK」と冠しているからにはもちろん、ジョークも含んだトークも展開された。
「私はデビュー20周年を迎えました。日本ではまだ2年目の新人歌手ですが。(笑)韓国、中国、アメリカ、日本でコンサートを開いてきました。韓国の歌手としてのコンサート回数記録も持っています。(拍手)今回、日本のファンのみなさんのためにオープニング曲として『ノクターン』を準備してきましたが、ご不満でしたか?立ち上がっていただけませんでしたね。(笑)最初からは恥ずかしいですよね。韓国と日本のファンの方の反応が少し違って…、私がまだみなさんの心を理解しきれていなくて…すみません。少しずつ慣れながら、今日のこの時間を過ごして行きたいと思います。」と、ウイットに富んだ大人のトークも満載だ。
<イ・ウンミ>といえば、愛称は「裸足のディーバ」。早くも2曲目から愛称のごとく、靴を脱いで、「裸足のディーバ」となった。ある1人の韓国人歌手の映像がスクリーンに映し出された。「残念ながら、もう亡くなっていますが、すばらしい歌手でした。新人の私をステージに立たせてくれましたし、いろいろと面倒をみてくれたやさしい先輩です。この曲は大切な先輩、キム・グァンソクさんが私にくれたプレゼントだと思っています。私も楽な気持ちで歌わせてもらいますから、みなさんも評論家のような顔をせず、歌詞をご存知の方は一緒に歌ってください。」と紹介した『30のころ』。彼女のリメイクアルバムに収録されているこの『30のころ』は韓国で386世代の代表者として韓国人に愛されたフォークシンガー、キム・グァンソクの1曲だ。キム・グァンソクという歌手の名前を知らなくても、何人もの韓流スターがファンミーティングで歌っているほどだから、この曲を聴いたことがある日本人も多いのではないだろか。「段々遠ざかる。青春は永遠だと思っていた…」こんな歌詞が心に染み入る。
去年の「イ・ウンミ STORY」は大阪公演と東京公演の合間に韓国にとんぼ返りという強行軍で行なわれた。その理由は大ヒット番組「私は歌手だ」にMCとして出演していたためだ。「いま、中国でも放送されています。いつか、日本版もできて、韓国、中国、日本の王者が一堂に会するショーが行なえるとうれしいと思っています。」と大変だったMC時期を振り返りつつ、将来の希望も。叶えられたときはきっとすばらしいコンサートになるに違いない。そして、彼女自身も番組で歌った『いい人』を熱唱。それもステージを降りて、会場を握手しながら、歩き回っての熱唱に、彼女の姿を目の前に聴けたファンはどんなに幸運なことだろう。それでも、「お一人お一人にご挨拶できず、申し訳ありません。」という言葉を口にするイ・ウンミ。
今回は、質問コーナーも設けられ、ファンからの様々な質問が投げられたが、「どんな質問でも大丈夫ですが、体重だけは秘密です。」とジョークを交えつつ、一つ一つ丁寧に答えていた。
Q1:辛いときに聴く曲は?
A1:音楽については気まぐれなんです。朝起きた時の気持ちでも違いますし、一緒にいる人でも違ってきます。でも、キム・グァンソクさんの曲や、『とんぼ』(長渕剛)を聴きながら、踊ることもあるんです。(笑)それに、スティービー・ワンダーとか聖歌も聴きますね。私自身の性格は決してそうではないですが、聴く音楽は本当にきまぐれなんですよ。次の公演のときは『とんぼ』を歌いましょうか?!歌詞は分かりませんが男性的な曲ですよね。私の肩幅も男性的ですし…。(笑)Q2:日本で食べたいものは?
A2:本当に私は意志が弱くて…。(笑)日本には美味しいものがたくさんあって、ダイエットを放棄してしまいます。特にデパ地下には…。スイーツやたくさん美味しいものがありますしね。食べ過ぎないように気をつけないと。(笑)音楽と同様、お酒も気まぐれなんです。みなさん、マッコリ、ご存知ですか?登山の後にタッポックム(鶏肉の甘辛煮)と一緒に飲むマッコリは格別なんですよ。日本酒も好きですが、手元にないことが残念です。今回は体調が万全でなくて、行き着けのお寿司屋さんで生ビールとお寿司をまだ食べてません。このお寿司とビールで日本ツアーが完璧になるんですか…。(笑)帰国する前にぜひ食べたいです。
Q3:のどのケアは?
A3:歌わないことが一番です。(笑)私のように歌うことを仕事にしているとそうも言っていられません。ぐっすり寝て、水をたくさん飲むことです。そして、首や体を温めることですね。みなさん、お酒を飲んで、カラオケはのどに一番悪いことですから、気をつけてくださいね。(笑)
Q4:トレーニングは?
A4:登山が好きですが、時間がないときは家でピラティスをしたりします。スキューバダイビングやボルダリングもしますね。ただ、爪が痛んでしまいますが。とにかく体を動かすことが好きです。
Q5:次に生まれ変わるなら、男性?女性?
A5:この体格からして…、子供の頃からほかの子より頭1つ出ていました。肩幅も広し…。(笑)ですから、男性ですね。それもイケメン!(笑)プレイボーイがいいですね。素敵な女性と恋愛をしてみたりとか。みなさん、ぜひ、そのとき、お会いしましょう。よく、聞かれることですが、歌手にはなりたくありません。幸せですが、不便なこともあるんですよ。人気が出るのと同時に…。あれ?笑っていただけないんですか?(笑)Q6:お酒を飲んだら、どうなる?
A6:酔うでしょ!(笑)体質的にはアルコールが合わないんですが…。つぶれるまで飲まない夜は夜中までウロウロしてしまいます。(笑)「世界には愛に関する歌が多いですが、その中でも<愛の痛み>、<深さ>を表現している曲はこれだけだと思います。」と「私は歌手だ」でNo1になった『Love Hurts』をパワフルに歌い上げ、「私も白髪のこの歳になって人生にはコインの裏表のように良い時、悪い時があると理解できるようになりました。」と世界中でヒットした映画「ラブ・アクチュアリー」の挿入歌『Both sides now』(ジョニー・ミッチェル)を6分30秒のフルバージョンで披露。これまでの曲調とは異なり、また別の顔の<イ・ウンミ>を感じられた2曲だった。
愛用品のネックレスやブレスレット、バッグなどがファンにプレゼントされた。当選したファンは直接、首や手首につけてもらえ、また少し距離が近づいた時間だ。
<イ・ウンミ>と<ファン>の距離感が良い感じになったと思ったら、もう、幕が降りる時間だ。しかし、まだ、あの曲が…。やはり、日本のファンはあの曲を聴かずして、帰ることはできない。ドラマ『ラスト・スキャンダル』(2008 MBC)のOST『恋人…います』。「みなさんに約束します。日本の曲をアルバムに収録して発表します。8月には大阪、東京でコンサートも行ないますので、いろいろな曲を準備してきます。あっという間の時間でしたが、1年ぶりにお会いできてうれしかったです。幸せでした。私たちの間には海や言葉の壁もありますが、このような時間、そして、音楽を通して一つになれると思っています。みなさんが私の曲を聴いて、待っていてくれる限り、私は歌い努力を続けていきます!今日はありがとうございました。」と深々と頭を下げ、集まってくれたファンに感謝の意を表した。
そして、最後の曲『恋人…います』。「どうぞ、遠慮せず撮影してくださいね!」と言って、また会場に降りて、直接ファンのスマホに歌を吹き込んだり、ファンに挨拶しながら熱唱し、「ありがとうございました。」とステージを去った。
「アンコール!」の嵐。その声に再登場したイ・ウンミ。「私、韓国ではこのくらいのアンコールでは出ないんですけど…。(笑)日本のファンの方がまだよくわからなくて…。(笑)すぐに帰ってしまうのではないかと心配になり、すぐに出てきちゃいました!(笑)」とお茶目な姿も。
「昨年はいろいろありました。8ヶ月間、「私は歌手だ」のMCを務め、新しいアルバムを出し、その準備中に父を亡くし…。この肩幅と声と<イ・ウンミ>という名前をくれた父に感謝しています。みなさん、いま、苦しいことがあっても、自分自身のなかにある力を信じてください。きっと上手くいきます。ありがとうございました。」とその最新アルバムに収録されている『あなたは美しい』を最後にファンに送った。
しかし、ファンはまだ帰れない。さらにアンコールの声。すると、「ライトを消してしまうから…。本当はここで終わりだったんですが…。今になって、アンコールらしいアンコールになりましたね。(笑)いろいろな曲をお聴かせしたくて、選曲してきましたが、いかがでしたか?いろいろなジャンルの歌を上手く歌えるんです、私。(笑)次回、お会いするときまで、みなさんにエネルギーをお送りしたいと思います。この曲を歌う私を後輩は恐がりますが。」と力強い『アウトサイダー』を言葉通り、最後の最後にファンにエネルギーを送りながら熱唱した。そして、ファンはそんなイ・ウンミに応えるようにオールスタンディングでエネルギーを送り返して、すべての幕を引いた。彼女自身、「好きな音楽は気まぐれ」、「どのジャンルでも歌える」と口にするように、バラードからポップス、ロックまであらゆるジャンルを歌いこなし、誰の曲でも<イ・ウンミ>の曲としてしまうイ・ウンミ。
8月2日に大阪、4日には東京でコンサートが開かれる予定だ。どんな楽曲が並ぶのだろうか?たとえ、どんな楽曲であろうとも、彼女の歌声をその場で耳にするファンは、たっぷり<イ・ウンミ>に酔いしれることになるだろう。楽しみだ。
セットリスト
1:ノクターン
2:30のころ
3:いい人
4:Love Hurts
5:Both sides now
6:あなたは美しい
7:アウトサイダー