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2017年7月9日 22:45

中国に眠る豊かな才能が観客を魅了した夜 中国オペラ「鑑真東渡」凱旋公演初日開幕

取材:記事/RanRanEntertainment
写真提供/オペラ「鑑真東渡」日本公演事務局

中国―広大な国土と13億の民の中に豊かな才能が眠る国。7月5日に初日を迎えた中国オペラ「鑑真東渡(がんじんとうと)」(渋谷・Bunkamuraオーチャードホール)は、観客を魅了し、カーテンコールではいつまでも拍手が鳴りやまなかった。

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モーツァルト、ワーグナー、プッチーニ、ヴェルディ―。オペラといえば誰もが知る古典的な作品を思い浮かべる中、新作でしかも中国オペラというと多くの人が、その馴染みのなさに観劇に尻込みしてしまうかもしれない。しかしこの「鑑真東渡」は、そんな観劇前の印象を見事に裏切ってくれる。オペラは音楽と演劇と美術の総合芸術だが、そのどれもが高い質で構成された見事な作品となっている。

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劇場に入った瞬間観客が目にするのは白の布のコンティニュイティ(連続性)で作られた舞台だ。鑑真和上は律宗で禅の宗派ではないが、禅寺の石庭を思わせるこの白の布が美しい照明と相まって表情豊かに場面を変化させていく。このオペラが描いている仏教の言葉「色即是空(しきそくぜくう)」という言葉がまさにぴったりの、実体として存在せずに刻々と変化していく舞台デザインだ。そんな舞台に合わせて、コーラス隊が身に付けている衣装も白。時にそれは見ているものに影絵や墨絵を思わせ、鑑真をはじめとする色味を身に付けたメインキャストの姿を際立たせる効果となって現れる。白は何色にも染まる。投影された映像も、照明の淡い色味も、映し出された陰影も、白という色は美しい調和を生み出していく。白の饒舌性とでもいうべきこのミニマリズムな舞台デザインは、まるでハイセンスなモダンアートのようだ。

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脚本や演出も見事の一言に尽きる。中国の高僧であった鑑真が、遣唐使と共に唐へやってきた日本の僧・栄叡(ようえい)に懇願されて、日本へ渡る(東渡)決心をする場面から、5度の渡航の試みを繰り返し描くのだが、弟子の裏切りや、漂流した地での地元民たちとの対立、栄叡の死への悲しみなど人間関係を丁寧に描くことで観客を飽きさせることなく物語に惹きこんでいく。幽霊船と遭遇する場面などはディズニーアニメのように言葉ではなく画力で魅せてくる面白さもある。

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もちろんオペラの核となる音楽の質の高さも特筆すべき点だ。作曲は、第2回中国オペラ祭で7部門での大賞を受賞した実力派唐建平。心に迫るアリアから、迫力のあるオープニングなど緩急をつけた音楽で物語を紡いでいく。主演はダブルキャストということで、初日のこの日はトウ・モウ氏が鑑真役を務めたが、豊かなバリトンで、ときにせつなく、時に菩薩の慈悲ともいえる穏やかな優しさを感じさせる表現力で観客を魅了した。他にも栄叡(ようえい)や弟子の静海など主演クラスの歌手たちは世界トップレベルの歌声を誇り、「眼福」ならぬ中国語の「耳福」なひとときに観客たちはステンディングオベーションで応えていた。

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201612月に東京で初演され、大絶賛された「鑑真東渡」。その高い評価と賞賛により今回は日中国交正常化45周年記念事業としてスケールアップし、凱旋公演として戻ってきた。遠く昔より中国の文化はいつでも日本の文化に大きな刺激を与え続けてくれた。そして自らの命を顧みず、多くの人々に救いの手を差し伸べるため海を渡ってきた鑑真和上の精神は、素晴らしい芸術となって再びこの日本の地に戻り、日本と中国を繋ぎ、やはり日本の文化に衝撃的な感動を与えた。このオペラに触れた全ての人が同じ想いでいるだろうことは、その夜贈られた惜しみない拍手から感じられた。

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同作は6日(木)にBunkamuraオーチャードホールにて上演した後、11日(火)、12日(水)は大阪市のオリックス劇場で大阪公演を行う。

 

 

 

 

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