イ・ビョンホン主演『悪魔を見た』試写会にて

2011/1/26 01:49

『悪魔を見た』~悪魔に復讐するために自ら悪魔になった男に最後に残ったものは~

独自のノワール観で韓国映画界を牽引するキム・ジウン監督の最新作が今春、日本で公開される。2010年夏、韓国で公開された『悪魔を見た』である。韓国公開時に復讐をテーマにした今作品の比類のない残虐性などが話題になった。いま、来月に迫った日本公開を待つ。

監督であるキム・ジウン監督は1998年、ソン・ガンホ、チェ・ミンシク、コ・ホギョン出演のブラックコメディー『クワイエット・ファミリー』で監督デビューを果たし、それまでの韓国映画とは一線を画した洗練された感覚で人気を博した。その翌年には再度、ソン・ガンホを主演に迎えプロレスを題材にしたコメディー『反則王』では観客を多いに笑わし、2003年にはイム・スジョン、ムン・グニョンが演じる姉妹とヨム・ジョンア演じる母親が織りなす耽美的なホラー映画『箪笥』を世に発表し、悲しくも恐ろしい世界観を表現した。その後、韓流スターの1人、イ・ビョンホンとタッグを組み、2005年にはノワール的ラブサスペンス『甘い人生』、2008年にはイ・ビョンホンに盟友ソン・ガンホ、初顔合わせとなる人気俳優チョン・ウソンを加え、キムチ・ウエスタンと評された西部劇風冒険アクション映画『グッド・バッド・ウィアード』を創り上げた。その作品はカンヌ国際映画祭でコンペティション部門に選定され、主演俳優3人とともにレッドカーペットを歩き、国内外から高い評価を得た。このようにキム・ジウン監督はこれまで様々なジャンルの映画を撮りつつも、そこに一貫してしるのは「一見しただけでは解り得ない人間の心の奥底に潜む感情」を描き出すことである。

今作品『悪魔を見た』は近年、キム・ジウン作品には欠かせないイ・ビョンホンとカリスマ俳優である名優チェ・ミンシク(今作品で約300人の韓国映画ディレクターの投票によって決められる「第13回ディレクターズ・カット・アワード」を受賞した)、この韓国2大俳優の初共演としても注目される作品といえる。しかし、それだけではない。この2人を主演に迎えた『悪魔を見た』ではいったいどのような人間の性が描き出されるのだろうか?そして、観客はそれをどのように受け止めるのだろうか?期待感が高まる作品である。

雪降る夜道でタイヤがパンクして立ち往生してしまったジェヨン(オ・サナ)。レッカー車を待つ間も若い女性1人ではやはり心細い。不安を掻き消すためにも婚約者スヒョン(イ・ビョンホン)に車の中から携帯電話をかける。「こんな雪が振っているなかで、あなたの声が聞けるなんて、幸せだわ。こういう自然が多いところで子供を育て行きたい。」スヒョンは「誕生日なのに仕事があって、一緒にいてあげられなくてごめんな。」と甘いささやきを返し、結婚を控えた幸せな恋人たちの会話が繰り広げられる。しかし、そのジェヨンの姿を見つめる別のもう一つの視線があった。その視線は天使の羽のついたバックミラーの付いた塾の黄色いスクールバスのなかからだった。甘美なタンゴ調のメロディーが流れるなか、この上ない悪魔である男と絶望観に苛まれ、復讐の鬼・悪魔になる男の物語が幕を上げる。

スクールバスの運転席に座っているのはさえない風貌の中年男性ギョンチョル(チェ・ミンシク)。車を降りてジョヨンに近づく。やさしい声で「パンクですね。私が直しましょう。」と。ジェヨンは男に不気味さを感じ、携帯電話で話をしていたスヒョンにも「断れ。絶対にドアを開けるなよ。」と忠告をされて、その男の申し出を丁重に断わった。ギョンチョルが自分の車に戻ったと思い、安心するジェヨン。しかし、なかなかそのスクールバスが発進しない。不審に思ったジェヨンはライトでスクールバスを照らす。すると、目の前にいたのは…。

翌日、河川敷で遊ぶ子供たちがビニール袋に入った耳を発見する。その後、捜査に当たる地元警察が川底から女性の頭部を発見する。このバラバラ殺人事件の被害者はあのジェヨン。ジェヨンの父は引退した重犯罪課の刑事チャン(チョン・グックァン)、婚約者スヒョンは国家情報院捜査官だった。

大事な娘を亡くし落ち込む父チャン、そして、仕事のために現場を離れられず、最愛の女性ジェヨンを救えなかったと自分を責めるスヒョン。2人の心はジェヨンを殺害した男に対する復讐心でいっぱいになる。元部下から数名の有力容疑者の資料を入手した父チャンはそれをスヒョンに渡す。スヒョンは休暇届を出した後、容疑者を1人ずつ力ずくで出締め上げて、真犯人を見つけ出そうと躍起になった。そして、ある容疑者の部屋に行ったスヒョンの目に女性用の下着やバッグなどが映る。そして、奥の倉庫のような部屋の扉が開き、なかに入るスヒョン。その部屋の排水溝で恋人のジェヨンの指輪を見つけ、まるで恋人を抱きしめるかのように指輪を握りしめ、涙を流す。こうして割り出された真犯人ギョンチョル。ギョンチョルはこれまでも何度も婦女暴行殺人を繰り返し、その行為から快楽を貪る悪魔のような殺人鬼だった。

亡くなったジェヨンに対し、この悪魔ギョンチョルに復讐することを誓うスヒョン。しかし、ギョンチョルに重傷を負わすものの致命傷は負わせない。つまり、一気に殺さず、痛み、苦しみを与えた上で生かしておくのだった。それを何度も繰り返す。そこにはとても怖い、苦しい思いをしたジェヨンと同じ、いやそれ以上の苦痛をギョンチョルに味わわせようとするスヒョンの想いがあった。悪魔ギョンチョルに復讐するために、自分自身も悪魔と化して行くスヒョンである。それに対して、ギョンチョルも「俺を殺さないことを後悔させてやる」とスヒョンを挑発し、応酬し、悪魔ギョンチョルの魔の手はついにある人物に迫る。そして、この物語はある時を迎えることになる。

果たして、この復讐劇はどのような結末を迎えるのだろうか?悪魔ギョンチョルは人間的な心を取り戻すことがあるのだろうか?そして、悪魔と化したスヒョンの心にはいったい何が残るのだろうか?しかし、本来、この2人は悪魔でない、人間である。「人間の心の奥底に潜む闇」、それが人間を悪魔に変えるのだろう。もしかすると誰の心にもこの悪魔の種はあるのかも知れない。私にもあなたにも…。今は理性で封印しているだけで。もし、その理性という箍が何らかの原因ではずれたとき、その封印が解かれ、悪魔に豹変するかもしれない。

『シュリ』(99)『パイラン』(01)『酔画仙』(02)『オールド・ボーイ』(03)『ブラザーフッド』(04)『春が来れば』(04)などその作品ごとに全く異なる人物像を演じきる怪優チェ・ミンシクが演じた殺人鬼ギョンチョルの残虐さと狂気、『我が心のオルガン』(99)『純愛中毒』(02)『誰にでも秘密がある』(04)『夏物語』(06)『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(09)など言わずと知れたスーパースター、イ・ビョンホンの低く甘い声と悲しげな目で描かれるスヒョンの悲しみと憎しみが描かれた『悪魔を見た』。ご自身の目で心で感じてください。

2月26日(土)から全国ロードショー。

記事  Tomomi.S

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