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2020年6月17日 18:20

渡辺いっけい初主演映画『いつくしみふかき』インタビュー「今まで見たことのない自分が映っていた」

取材:記事・写真/RanRanEntertainment

舞台、ドラマで活躍中の渡辺いっけいの初主演映画『いつくしみふかき』。本作はW主演の遠山雄(劇団チキンハート主宰)の知人とその父親についての実話をもとにしている。遠山が企画してから5年の歳月を経て完成した。舞台となった長野県飯田市に、劇団員が実際に代わる代わる住み込んで、映画化に漕ぎ着けた。監督の大山晃一郎は長編映画初作品にして、本作で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019で観客賞を受賞した。父親・広志を演じた渡辺いっけいに、映画への思い、制作秘話などを聞いた。

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――意外にも、今回、映画初主演でいらっしゃるのですね

そうですね。意外ですかね?

――はい。驚きました。

有難いですよ。主役で撮ろうと思ってくれたことが。

――この役を受けた経緯をお聞かせください。

大山君(大山晃一郎監督)が助監督で入っていたテレビ朝日の連続ドラマ(『TEAM』)の現場で、口説かれたというか、彼が監督したショートフィルムのDVDを渡されて、「よかったら見てもらえませんか」とアプローチがありました。面白かったので、けっこう褒めたんです。そうしたら気をよくして、本題に入っていき「実は長編を撮りたいんです」と。彼は東映の助監督でしたが、長編映画を撮るチャンスはなかなか無くて、自主的にインディペンデントでやろうと思っているが参加してもらえますかと言われたのです。僕は僕でちょうど事務所をやめて、今までと違う役者になりたい変身願望があったので、タイミングが良く、「いいよ。やるよ」と、面白いものができるのだったらという思いで参加を決めました。

――最初からストーリーもお聞きになっていたのでしょうか?

大山君の中にプロットがあって聞かされたかもしれないですが、完成した台本も無く、ほぼ何もなかったです。その後第一稿が来るまでに時間がかかりましたし、1年ぐらいかけて、第何十稿かでやっと完成に至りました。

――ストーリーを読んでみてどんな風に感じられましたか?

これは僕と遠山(雄)君が両主役という風になっているけれど、完全に(遠山雄演ずる)息子が主役のストーリーだと思いました。主役と銘打っているけど、僕はバイプレイヤーのつもりでやっているんです。

――W主演だと思いましたが?

いや、これは息子の映画ですよ。僕の中では今でもそう思っています。彼の成長物語です。ですが、監督の大山君は2人の人間の生き様を描いています。映像にも俺は主役ではない、どこか気楽なところで参加したいといういつもの感じが出ています。意気込みが無いわけではなく、そういうたちなんです。現場で相手役のテンションとか監督さんのこうやって撮りたいというのにいかに応えるかというのだけでやりました。

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――「息子の成長物語」とおっしゃっていましたが、父と子というのも大きな軸になっていると思いますが、渡辺さんが演じた「広志」という人物についてどのように思われましたか?

台本を読んでいると、酷いなと思いました。でも、出来上がって映画を見ると、この人はこの人なりの筋が通っている生き方というか、刹那的で、人にすごく迷惑をかけているけど、だからといって生き方を変えないところは魅力的だと思います。役者の魅力みたいなものに通じると思います。ほんとにいい人と言われる役者さんはどうなの?と思っていて。僕、よく言われるんですけどね。

――(笑)

嬉しいけど、待てよ?いい人って役者としてはどうなんだろうなと思うこともある、。この人(広志)は確実にいい人ではなくて、そこに人としての魅力が出ていると思うんです。それは大山監督が引き出していると思います。

――演じている最中は感じなかったけれども映画として見たらそう思われたということでしょうか?

そうですね。難しいシーンも含めて、シーンシーンを楽しんでやれました。大山君の、このシーンはこんな感じでいてください、という指示が面白くて。なるほどねって思ってやれたことが、繋がってみると見たことない自分が映っているんです。すごく面白かったです。それは自分だけの楽しみかもしれないけど、他の人たちがどう思うかわからないですが、少なくとも僕は自分が新鮮に見えました。それだけでもやった価値がありました。

――大山監督の演出は独特だったのでしょうか?

そうですね。独特でした。大山君は人間の説明のつかないエネルギーみたいなものをわかっていて、どうやったらスクリーンに落とし込めるか彼なりに計算しながら、でも現場のライブ感も大事にして、役者さんとコミュニケーションをとりつつ、かなりの離れ業をやっているんです。自分が撮りたいリズムに持って行っていて、そうならないと何度も撮り直しをするんです。そこが踏ん張ったところだと思うし、彼の監督としての力ですよね。これからどんどんいろいろなものを撮って欲しいですね。

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――進一役の遠山(雄)さんはどんな方でしたか?

彼は、山ちゃん(大山監督)と一緒にやっていた連続ドラマで1回だけチンピラの役で出たんです。僕は、絡みがちょっとあって、面白い役者がいるなぁと思っていたんです。次の日に彼ともう同じシーンがなくなって、大山君に、「昨日のシーンの役者すごく面白くてさ」と世間話のようにしたら、大山君が、にこにこして、「劇団を一緒にやっている仲間なんです」と。僕も舞台出身で、今でも舞台役者としての自分を大事にしていて、劇団を観に行くという交流の時間があったんです。

――それが先だったのですね?

DVDをもらったのは撮影中です。大山君は早い段階で、僕に声をかけることを決めていたらしいんです。どうやってアプローチしようかと。僕が遠山雄という役者を褒めたことは“やった!”と思ったんじゃないですか?

遠山君が撮影に入る前段階でどれだけ苦労しているか知っていました。つまり、プロデューサーとしての側面です。長野に行って、無名の自分が映画を作りたいと町のみなさんにお願いして、説明会をして、最初は眉唾もので人も集まらなくて、なんだこいつはという風に思われているという話を聞いていました。「いっけいさん、一回説明会に来てくれませんか」とSOSが来ました。それで、台本はまだない時期だったんですけど、説明会に参加しました。この話を映画にしたらいいのにと思うぐらいでした。

町の人っていろいろ派閥があって、一番顕著なのが映画館が二つあるんですね。どっちの映画館の人と仲良くなった方がいいのかとか、映画館同士やはりライバルなので、あっちが協力するならこっちはできないよという話が出てきたり。町の権力者でも同じようにしがらみがあって、遠山君はなんとかみんなの顔を立てながら、お金も集め、協力も得ていったのです。いざ撮影となった時にパンと切り替えて役者としてやらなくてはならない、そこがすごく見ていてかわいそうなぐらいでした。監督もわかっていて、雄君もう切り替えてって何日かインターバルをあげて、それで撮影に臨ませたと言っていました。

いつ倒れてもおかしくないような風に追い込んで、若いからできる荒業だと思いました。

――映画は悲劇でもあり、喜劇的な部分もありましたが?

そうなんですよね。不思議な映画だと思います。怖い映画なのかなと思うとすごくほっとするように笑えるシーンもあり、すごく振り幅が大きい映画で、見ていて、気持ちが振られる映画で怪作だと思います。

――舎弟・浩二役の榎本桜さんはいかがでしたか?

あいつも気合入ってましたよね。あいつと仲いいんですよ、今。撮影の前までは交流が無かったのですが、面白い奴です。遠山君も大山君も(榎本)桜も、強かだし、でもスマートで、ちょっと不思議な奴らで好きですね。榎本君も監督をしていて、非常に評価されています。

――飯田の方での撮影はいかがでしたか?

僕は愛知県の豊川というところの生まれですけど、飯田線というのが走っているんです。それは豊橋から長野県の飯田市までを結ぶ線で、豊川から豊橋のちょっとした30分ぐらいのところを行ったり来たりするのが僕の18歳までの生活でした。反対側の飯田に向かったことがなかったのですが、いざ飯田に行ってみたら、言葉が似ているんです。電車で行き来があるから似ているんですね。国道151線もあり、道でも繋がっているんです。岐阜県も挟んで、けっこう距離がありますが、繋がりがあるところだったので、それは感慨深いものがありました。

――最後に皆さまに向けてメッセージをお願いします。

自分の今までの仕事、それはそれなりにちゃんとやっていたつもりですので、それと比較してとても面白いですという言い方はできないですけど、役者の自分自身がすごく新鮮だと感じられる自分が映っているということを、どういう風に思っていただけるのか知りたいので、できれば観て欲しいです。

――ありがとうございました。

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<ストーリー>
30 年前。母・加代子(平栗あつみ)が進一(遠山雄)を出産中に、あろうことか母の実家に盗みに入った父・広志(渡辺いっけい)。「最初から騙すつもりだったんだろ?」と銃を構える叔父を、牧師・源一郎(金田明夫)が止め、父・広志は”悪魔”として村から追い出される。進一は、父親は”触れてはいけない存在”として育つ。30 年後、進一は、自分を甘やかす母親のもと、一人では何もできない男になっていた。その頃父・広志は、舎弟を連れて、人を騙してはお金を巻き上げていた。

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 映画『いつくしみふかき』
監督 大山晃一郎
出演 渡辺いっけい 遠山雄
   平栗あつみ 榎本桜 小林英樹 こいけけいこ のーでぃ 黒田勇樹
   三浦浩一 前島秀和 塚本高史 金田明夫  

619日(金)~テアトル新宿ほか全国順次公開
公式サイト http://www.itukusimifukaki.com/

 

 

 

 

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