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2021年4月23日 16:19

Huluオリジナル「息をひそめて」中川龍太郎監督インタビュー 「あの街を撮りたいという気持ちがこの作品を作る原動力の一つ」

取材:記事・写真/RanRanEntertainment

新進気鋭の映画監督・中川龍太郎が、日本のドラマ・映画を支える俳優たちを起用したオムニバスドラマ「息をひそめて」が4月23日(金)から、Huluで独占配信される。本作は、多摩川沿いで生きる人々のそれぞれの日常や人間模様を描いたドラマ。夏帆、石井杏奈、村上虹郎、安達祐実、蒔田彩珠、光石研、三浦貴大、瀧内公美、小川未祐、斎藤工ら実力派俳優たちが出演している。中川監督に、本作に込めた思いを聞いた。

 

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――今回、多摩川沿いの物語を描いたのは、どういった思いからですか?

今回、コロナ禍での物語を作るにあたっては、新型コロナでさまざまな影響を受けている人をさまざまな視座から描く必要があると考えていたのですが、その時に自分の故郷の町の人たちがどうなっているのかということがすごく気になったんです。自分は9歳まで登戸というところに住んでいて、多摩川の川沿いの町で生まれ育ちました。そういったことから、必然的に多摩川が出てきました。実際に、この作品の撮影前には、子どもの頃に住んでいた登戸に引っ越したんです。あの街を撮りたいという気持ちがこの作品を作る原動力の一つになっています。

――全8話のオムニバスドラマになっていますが、それぞれのエピソードを作るにあたっては、かなり取材を重ねたと聞いています。

そうですね。先ほどお話させていただいた通り、誰か一人の視点ではなく多角的に描いた方がいいと思っていたので、それぞれのキャラクターは取材をして作り上げています。例えば、第4話の夕河(蒔田彩珠)のエピソードは、実際にウーバーイーツの配達員をやっている18歳の女の子に、ストーリーの下書きを作ってもらいました。第5話、6話の夫婦の話も、僕の友人で長く恋人と同棲している女性が書いてくれたエピソードを元にしています。今回は、自分以外の視点で下書きを作ってもらい、それを元に自分が脚本を書く形をとりました。

 

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――監督自身の視点からのエピソードもあるんですか?

今、聞かれて初めて気づきましたが、今回は、自分がはっきりと投影されている役はないかもしれません。いつもはあるのですが、今回は俯瞰して街を見ている話になっているのだと思います。もちろん、それぞれの語り口に自分の良さは入っていると思いますが。ただ、第7話の珠美(小川未祐)は自分と似ているところはあります。非常に社会やその時の状況に対して不満を持っていて、それを激しく表明するという意味では、性格的には自分と近いですね。

――作品タイトルの「息をひそめて」には、どのような思いが込められていますか?

このタイトルは、同じく脚本家の高田亮さんにご提案いただいたタイトルなのですが、昨年の4月、初めての緊急事態宣言が出て、マスクをしていても外に出てはいけないという時期がありました。それは、まさに、息をひそめて生きている状態だったと思います。ですが、息をひそめても、前を向くことは大事だと思うんですよ。息をひそめて潜伏していても、本質的には、投げやりになるのではなく、前を向いて生きていきたいという思いがあってこのタイトルに決めました。

 

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――監督ご自身は、このコロナ禍での1年はいかがでしたか。

自分はそれほどネガティブなことばかりではなかったですね。昨年は、映画やドラマの仕事が全て延期になってしまったので、僕はこの仕事を続けられないのかなと思うこともありましたが、逆に今まで映画を作り出したこの10年間を見直すことができました。「自分にとって大事なものとは」とか、「なんで映画を作るんだろうか」ということを改めて考える時間になったので、必ずしも悪いことばかりではなかったと思います。そして、映画を作れない中で、自分は何を撮るんだろうと思い、小さなカメラを持って散歩をしていました。そうすると自然と多摩川のせせらぎを撮っていたり、今作の第1話にも登場する僕の祖父の映像を撮っていて、自分は自分を育ててくれた河原や思い出のある祖父を撮りたいと改めて感じることができました。その経験がこの作品にも大きく生かされていると思います。

――ところで、今作はHuluでの独占配信となっています。中川監督は映画作品を撮り続けていたので、配信のドラマを撮るのは意外に思いました。

確かに、自分は大学時代から映画にこだわって作ってきましたが、今回、配信でやろうとなったときに、やはりこのタイミングだからこそ作ろうと思えたんだと思います。コロナ禍で映画館が閉まっていた時期もありましたが、でもそれでも物語を観たいという想いは人々から消えることはなかったと思います。自分も自粛中は映画を1日に3本くらい観ていました。そうやって自粛中でも映画を観れるのは、配信やDVDがあるからなんですよね。こうして配信やDVDで物語を楽しむ人もいるということに意識が向いたとき、映画だけにこだわっていたら届かない観客の方もいるはずだと思ったんです。こういう時期だからこそ、配信に挑戦してみるのも良いのではないかと思ったことが理由の一つです。

それから、この物語が配信と非常に相性がいいと思ったことも配信でやろうと思ったきっかけです。やはり映画というのは一つの視座から描かれるものだと思うので、映画にした場合は8人も主人公がいる物語を作るのは難しいわけです。ですが、実際にコロナの状況を描こうと思ったとき、その影響を受けているのは世界中なわけですから、なるべく多い視座からこのことを描いた方がいい。そうしたときに連続ドラマというのは描きたいことにマッチした形式だと思いました。8人の視点が最後に一つに繋がるというのは配信ならではの切り口だと思います。

――美しい景色と光彩で、映像は非常に映画的でもある作品だと感じましたが、撮影をする上では、配信だからこそということは考えましたか?

企画を考える段階では、映画と同じものを配信でやってもつまらないので、配信という表現手段でどうするのがベストなのかを考えましたが、撮影自体は映画でも配信でも同じです。自分という人間が変わるわけではないので(配信であっても映画であっても)美しいと思い、映したいと思うものは結局変わらないんですよ。なので、映像的には非常に映画に近いものになったんじゃないかなとは思います。ただ、これが同じ河原での話だということを見せるために、いつも以上に、自然への眼差しや光、空というものを意識したのかもしれません。8つの話がバラバラなものに見えてしまうという恐怖はやっぱりありましたから。8話全てに共通した世界が必要だと思っていたので、そういう意味で意識して撮ったところはあると思います。

――撮影で印象に残っているエピソードを教えてください。

第3話では男女の営みのシーンが出てきますが、僕はそういったシーンを初めて撮ったので、どう撮るか非常に悩ましかったです。セクシャルなものを撮りたいわけではない。ただ、セクシャルな表現が絶対に必要な場面なので難しいところでした。人生で初めての経験でしたので、忘れ得ないことなんじゃないかなと思います。

それから、第2話の七海(石井杏奈)と涼音(長澤樹)のやりとりも印象に残っています。彼女たちのやりとりは、決まったセリフがあるわけではなく、即興演技が多いんですが、僕自身、そういった撮り方を常日頃からやりたいと思っていて、今回、石井さんと長澤さんと自分のやりたいことの相性がよくてできたというシーンでした。いい感じでハマったと思います。

 

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――寮で七海と涼音が眠る前にしていたやりとりは、特にリアルな会話だと感じました。

まさにあれは即興です。大枠は決めていましたが、長い時間(カメラを)回しているから好きにやってみてと伝えて、自由にやってもらいました。例えば、洗濯物がベッドの上に置いてあったりと、会話のきっかけになるものは僕が直前に用意して置いたのですが。長澤さんは、すごく勘のいい役者さんなので、それを見て反応してくれてあの会話になりました。

――では、監督は動画配信サービスやサブスクに対しては、今後、どのような期待がありますか?

一つの作品を、映画館で観るのか配信で観るのか、選べることができるようになるといいなとは思います。例えば、『息をひそめて』の映画版があったり、映画館で観たいという人が観ることができる状況になったらより多くの人に楽しんでもらえると思います。配信で観たものを映画館で観たいという人もいるだろうし、映画館で観たものを配信でさらに観たいという人もいると思うので。僕自身も、どちらも選べるという状況であれば、あまり神経質にならずにどんどん撮っていけるのだと思います。配信だから僕はやらないということは全然思わないです。今回やってみて、すごくいい経験をさせていただきましたし、いいチームで製作できたので、良い記憶として残っています。

――ありがとうございました。では、改めて本作の見どころをお願いします。

8人それぞれのエピソードが最後に合流して一つの川になるというイメージで作った作品です。最後まで観ていただけると、こういうことをやりたかったのかと伝わるものがあると思います。1話ずつ感情を観ていただきながら、最後の一番の見せ場まで行きついていただけたらと思います。

 

Hulu_____________________

 

Huluオリジナル「息をひそめて」
2021年4月23日(金)独占配信スタート!(全8話)

監督:中川龍太郎
脚本:中川龍太郎、高田亮

第1話「人も場所も全ては無くなる」 出演:夏帆、斎藤工
第2話「帰りたい場所が、ずっとなかった」 出演:石井杏奈、萩原利久、長澤樹
第3話「君が去って、世界は様変わりした」 出演:村上虹郎、安達祐実、横田真悠
第4話「この町のことが好きじゃなかった」 出演:蒔田彩珠、光石研
第5話「たまに遠く感じる、君のことが」 出演:三浦貴大、瀧内公美
第6話「あなたの速さについていけないことがある」 出演:瀧内公美、三浦貴大
第7話「誰のために歌うの?」 出演:小川未祐、斎藤工
第8話「この窓から見える景色が、僕の世界だ」 出演:斎藤工、夏帆

 

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