——これまで映画やドラマ、舞台など多くの作品をご覧になっているかと思いますが、風間さんが影響を受けた「モンスター」は誰が演じたどんな役でしょうか?
これまで数えきれないくらいの作品を観てきましたが、観たもの全部を血肉にしたいという感覚です。それくらい世の中には素晴らしい作品があふれています。そんな中でも僕が思う闇のカリスマは、映画「羊たちの沈黙」で天才的な精神科医ハンニバル・レクターを演じたアンソニー・ホプキンスですね。初めて観たときはあまりにも魅力的で強くひかれました。どこかぶっ飛んでいるものの、理性と知性にあふれている。アンソニー・ホプキンスが描く狂気はあまりも崇高であまりにも美しいなと感じています。
——トムは非常に難しい役かと思いますが、どんな演技プランを考えていますか?
最初にいただいた台本を読み始めたときに「会話が成り立っていないのでは?」と感じた部分がありました。でも、読み進めていくうちにそうではないことに気づきました。要するに舞台上ではずっと意思伝達ができていない状態、ディスコミュニケーションが繰り広げられていくわけです。そのことがわかった瞬間にこれは役者が“のたうち回る”作品だと感じました(笑)。
今回共演する松岡広大さん、笠松はるさん、那須佐代子さんと僕は舞台上ではディスコミュニケーションを繰り広げます。ですから、演技プランや役作りをするのではなく、稽古場で尋常でない熱量のディスカッションとコミュニケーションを計らなければならないと思っています。
——「のたうち回る」という言葉が印象的です。会話が成り立っているようでなりたっていない上に膨大なセリフを覚えないといけないことは至難の業と感じました。
セリフをすべて覚えるという物量の大変さよりも、会話が成り立っていない状態を演じる難しさを感じています。たとえば「今日はいい天気だね」と相手が言ったとします。それに対して「そうだね、夏も終りだね」というセリフは関連付いているので覚えることができます。また相手が野球の話をしているのにもう一方は料理の話をしている場合、かなりかけ離れているので、それはそれでまた覚えやすいものです。
しかし、今回の作品のセリフは一見、成り立っているようでよくよく考えると成り立っていない状態です。会話が成立していないことに納得しながら演技をしていく状態は初めてなので挑戦でもあります。
——今回の作品は風間さんにとって一筋縄ではいかないような、新たな挑戦のような作品のように思いますが本番に向けて楽しみにしていることはありますか?
ここまで「難しい」や「怖い」と作品の印象を話してきましたが、じつは楽しみにしている部分もたくさんあります。まずは作品自体、非常に面白いです。自分がこれから大きなものに挑むワクワク感もあります。そして新国立劇場で上演されることも楽しみで仕方ないです。
これまで新国立劇場に作品を観に何度も足を運んできましたが、この劇場で上演される作品は爽快さを与えてくれる作品ではなく、自問自答したり、これからのことを考えさせられたりする作品が多いような気がしています。そういう意味で新国立劇場にぴったりな作品だと思います。
——作品のHPで「僕は悪い役が多く、モンスターの権化みたいなところがあった」と話されていますが、やはり金八先生の健次郎の印象が強烈だったからだと思います。
今まで闇を抱えている人間を多く演じてきましたが、今回の作品もダークサイドの人間にスポットが当たっている作品の中では王道になるかと思います。
キャラクターそれぞれの立場を大事にするミクロの部分にこだわるのではなく、物語全体のマクロの部分にメッセージ性があります。だから自分が教師役を演じることを意識していませんし、もっと言うと自分がトムという主役を演じるというよりも、この「モンスター」という作品の一部でしかないように思っています。
――誰しも自分の中にモンスターだと思う部分はあるかと思いますが、風間さんはモンスターの部分が顏をのぞかせたとき、どんな風にして感情をコントロールしたり気分を押さえたりしていますか?
僕の場合、ダークサイドを抑え込むというよりもその部分も愛(め)でています。時に面白がったり、自分自身の黒い部分を揶揄したり…。おもいっきりダークサイドが出てきてしまうときも、一歩引いたところから自分を見て、冷静に対処するようにしています。でもこの表現自体も「風間俊介って怖っ」と思われるかもしれませんね(笑)。
——今回の作品は演者ではなく、観客側でいたかったとのことですが、とはいえ他の方が演じている姿を見たら「自分が演じたかった!」とは思いませんか?
他の作品においては「自分が演じていたらどうだっただろう」と思ったことはあります。しかしこの作品に関しては思わないと思います。それくらい大きな挑戦だと思っているので、今回の作品に限ってはやはり観客席で観たいですね(笑)
舞台『モンスター』
作:ダンカン・マクミラン
翻訳:髙田曜子
演出・美術 杉原邦生
音楽 原口沙輔
出演:風間俊介 松岡広大 笠松はる 那須佐代子
企画・製作:ゴーチ・ブラザーズ
【東京公演】
2024年12月18日(水)~28日(土)
新国立劇場 小劇場
【大阪公演】
2024年11月30日(土)13:00開演
2024年11月30日(土)17:30開演★
2024年12月1日(日)13:00開演
松下IMPホール
【水戸公演】
2024年12月7日(土)14:00開演
2024年12月8日(日)14:00開演
水戸芸術館ACM劇場
【福岡公演】
2024年12月14日(土)12:00開演
2024年12月14日(土)16:30開演
福岡市立南市民センター 文化ホール
ヘアメイク/清家いずみ
スタイリスト/手塚陽介
取材 文:安田ナナ 撮影:有田純也