取材:記事・写真/RanRan Entertainment
9月30日(日)、東京グローブ座においてスティーブン・キングの小説『グリーンマイル』の初日前のゲネプロがマスコミ向けに公開され、囲み取材に加藤シゲアキ、把瑠都、そしてベテラン俳優の小野寺昭が登壇した。
心に残る名作というのは、何度でも繰り返し咀嚼したくなる。その名作の世界初の舞台化に挑んだのは、NEWSの加藤シゲアキ。そして、物語のキーとなる不思議な力を持つ囚人を演じるのは、これが初舞台となる大相撲の元大関・把瑠都だ。
加藤シゲアキは理性の人だ。共演した小野寺が語るように、「真面目で繊細。細かく分析して緻密に計算していくタイプの俳優さん」であると感じる。今回加藤が演じるコールド・マウンテン刑務所の看守主任ポールも、美しい魂を持った無実の人間を電気椅子に送り込まなければならない「やるせなさ」や「葛藤」を理性によって抑え込み、アメリカの民主主義・法制度にのっとって刑を執行する。
今回の舞台では、加藤の持ち味と役柄がぴたりと一致して、観るものをポールという人物の魅力に引き込ませる。加藤が演じるのは、途中10分の休憩をはさんで約2時間の舞台をほぼ出ずっぱりで、ストーリーテラーとして、また物語の中心人物として舞台を引っ張っていく難しい役だ。物語の背景を語るストーリーテラーを主人公自身が務める場合、下手をすると観客を物語の中から我に返らせてしまったり、違和感を感じさせてしまうことがある。しかし加藤の力みのないそれでいて張りのある語り口は、ストーリーテラーとしても抜群で、観客に2時間という長さを全く感じさせないほど、なめらかにそして見事に物語を紡いでいく。しかし、ここに至るまでは「難しく、(稽古で)苦戦していた時期もあった」という。
また、今回が初舞台という把瑠都も、ジョン・コーフィがはまり役だ。ベテラン俳優小野寺から「この役は把瑠都さんしかない」と言わしめた、把瑠都の人柄の良さがにじみでた舞台となった。舞台での台詞も「我々とはまたちょっと違った間というかニュアンスがとても良い味になっている」と絶賛される通り、声といいセリフ回しといいジョン・コーフィがそこにいると観客に感じさせるキャスティングの妙となっている。
加藤と把瑠都が満点の星空の下をトラックの荷台に揺られていくシーンでは、とても「優しい時間」が流れている。ポールとジョンの交流が、役者そのもの人柄がにじみでているようで、重いテーマの中でほっと感じる時間だった。
トム・ハンクスが主演を演じ、大ヒットとなった映画を意識しないわけではないだろう。舞台が決定してから「友達からシゲ・ハンクスと呼ばれています」と笑う加藤だが、今回の舞台では、その呪縛から逃れ、加藤ならではのポール・エッジコムが誕生している。見た目には特殊メイクなど一切施していないのだが、舞台の上のポールがだんだんと老成したベテラン看守に見えてくる。「タイトルを見た途端にどういう作品かわかるという」有名な作品への出演、「重責だったんですけど、台本を読み進めるうちに舞台ならではの『グリーンマイル』になっていて安心しました」と加藤が語る通り、舞台としてまた違った形で名作をよみがえらせている。
社会派のテーマを扱った今回の舞台。「死刑制度」についてもかなりスタッフや出演者と話しあったという。「答えは出ないですけど、考え続けることに意味があるんじゃないかなと思います」と話す加藤。一転NEWSのメンバーについて話が及ぶと「ニュースのメンバーとはそんな深い話はしませんけど、今日は小山慶一郎から花が届いていました」と途端に明るく声が弾み、嬉しそうに饒舌に話し出す。「自分の名義で花を贈ってくるってどうなんだろうって思いましたけどね(笑)。でもメンバーに送っているのは知っていて、確かに前も僕もらったことあったんで。彼の中では恒例なんですけど。ちゃんと紫色の(強調)メンバーカラーで届いてました。嬉しかったです」と話す加藤に「メンバー愛を感じますね」とレポーター。「はい。嬉しかったです」とそれまでの会見向けの真面目な声のトーンから一段明るい声で話す加藤にメンバー間の絆の強さを感じた。他のメンバーも「みんな見に来てくれるって言ってました」とのことで、「感想が楽しみですね」と聞かれると「感想は別に、ね。来てくれるだけで嬉しいですよ」とこの会見で一番の笑顔を見せた。
秋風が吹き始めた東京。芸術の秋、哲学の秋、物思いの秋。少し社会派の重いテーマだが、せつなく心温まるこんな舞台を観て、秋の夜長に余韻にふけるのもいいのではないだろうか。ポールの最後のセリフが心にいつまでも響いている。熟成したワインのように心に染みる素晴らしい舞台だ。
舞台「グリーンマイル」東京公演は10月22日まで東京グローブ座にて、11月4日~11月8日まで京都劇場でも上演される。
公式HP https://www.greenmile-stage.jp/