撮影:田中亜紀
“私”と“彼”、そして一台のピアノのみで繰り広げられる100分間のミュージカル『スリル・ミー』が9月7日(木)に開幕した。ランランエンタメでは、尾上松也×廣瀬友祐ペアに続き、“私”木村達成と“彼”前田公輝ペアのゲネプロも取材。その模様をレポートする。
本作は、「私」と「彼」がともに起こした犯罪史上に残る残忍な誘拐殺人事件を描いたミュージカルだ。その事件の動機とされているのはただ一つ、スリルを味わいたかったから。しかし、それが真実のすべてではなかった。物語が進むにつれ、やがて本当の動機が明らかになる。
木村と前田は、今回が『スリル・ミー』初出演だ。これまで共演経験もなく、初めての共演がこの濃厚な二人芝居となる。
物語は、5回目の仮釈放審議委員会に「私」が出席するシーンから始まる。「私」が客席を通ってステージに上がり、そこで34年前に「私」と「彼」が犯した犯罪について語られる。
仮釈放審議委員会に出席する、木村が演じる「私」は、常に伏目がちで無表情、生きる希望を失くした人物に感じられる。しかし、回想の中の19歳の「私」はとにかく表情豊か。「彼」への態度はキュートな魅力に溢れていた。
一方、前田が演じる「彼」は「私」との距離の近さが印象に残った。「私」を引っ張る立場ではあるのだが、そこにサディスティックさや狂気はあまり感じない。クラスメートをいじって楽しんでいる、やんちゃな男の子のような感覚を受けた。だからだろうか、二人の関係には対等さすら感じられた。「執着」や「依存」といった重く、ドロっとした言葉ではなく、「恋愛」のような軽やかさのある言葉が似合う関係に思えたのだ。
「彼」はニーチェの思想にかぶれ、斜に構えているが、それも思春期だからと納得できるし、「私」が「彼」にすがり、甘える姿にも多分に可愛らしさがあった。お互いに執着心は持っていても、そこに暗さは感じ取れない。契約書を作り、血でサインする姿も、まるで学生時代の遊びの一貫のよう。凶悪な犯罪さえも、10代の幼さが残る男の子たちがハメを外しすぎてしまって、思わず犯罪を犯してしまった…そんなノリを感じた。ある意味では、若者らしい、人間らしい二人なのかもしれない。
ただ同時に、どす黒さが見えないのは「ファンタジーだからだ」と強く言われているようにも思える。そして、二人が作り上げた世界が軽やかでポップさを帯びているがゆえに、クライマックスではインパクトを放つ。純真で真っ直ぐ「彼」を思っていた「私」のイメージが大きく揺らぎ、衝撃が劇場を包み込んだ。
なお、今回の公演は、木村×前田ペアのほか、尾上松也×廣瀬友祐、松岡広大×山崎大輝の3ペアで上演される。キャストが変わると作品の印象が大きく変わるのが魅力でもある「スリル・ミー」。ぜひとも、ペアによる芝居の違いを楽しんでもらいたい。
「スリル・ミー」は以下の日程で上演。
東京公演:9月7日(木)〜10月3日(火) 東京芸術劇場 シアターウエスト
大阪公演:10月7日(土)〜9日(月・祝) サンケイホールブリーゼ
福岡公演:10月11日(水)・12日(木) キャナルシティ劇場
名古屋公演:10月14日(土)・15日(日) ウインクあいち 大ホール
群馬公演:10月21日(土)・22日(日) 高崎芸術劇場 スタジオシアター