
「劇団とっても便利」の代表作、ミュージカル『complex』が再演される。バレエやコンテンポラリーダンス、古典芸能まで取り入れたミュージカル。本作で突然区議会議員選挙への立候補を宣言する主人公の国木田威を演じる室将也と、作曲・脚本・演出の大野裕之が『complex』の見どころを語り合う。
――今回のミュージカル『complex』で、主演に抜擢された室さん。ご出演が決まったときの思いから聞かせていただければと思います。
室:最初にお話が来たときには、これまでミュージカルをやったことがなかったので、初めての挑戦ということでの不安はありましたし、プレッシャーも感じました。ただ、初めてのことに挑戦する楽しみも感じましたし、元々歌を歌うのが好きでしたし、ミュージカルをやってみたいという思いも持っていたので、すごくいい機会をいただいたと思いました。
――大野さんがこの作品を再びやろうと思われたきっかけはどんなところから?
大野:僕は浪人時代にイギリスを旅してミュージカルに感動したのが原点としてあって、そこをきっかけにミュージカル劇団を旗揚げしました。近年は映画制作や文楽の脚本演出など他の活動もしていましたけど、前回の東京公演から15年以上経って、やはり舞台を作るのが一番楽しく、改めて東京公演・大阪公演のミュージカルを作りたいと思いました。
その中でもこれは20年以上前の作品になるんですけど、年を経るごとに「今」のテーマになっているという実感があったんですね。改めてやりたいなと思って動き出したという感じです。
――そして、室さんを主人公、国木田役に起用したきっかけは?
大野:実は以前、劇団員が室さんと一緒に仕事をしていて、そのときから「室さんは素晴らしい青年で素晴らしい役者だ」と言ってるのを聞いていたんですね。「機会があったら絶対この劇団で一緒にやりましょうよ」とずっと言われていて、今回その念願が叶ったという感じです。
室:でも、(その言っていた)本人からは聞いたことないです(笑)。
大野:直接は言ってないんだ(笑)。
室:全く言われてないですけど、そんなふうに言ってもらえたというのはびっくりですし、率直に嬉しいです。
――ちなみに、室さんは舞台作品に向き合う中で、舞台が持つ魅力をどんなふうに捉えてらっしゃいますか?
室:舞台はお客さんによってすごく空気が変わるところがあって、そういう1回1回の変化がすごく楽しいところですよね。元々はどちらかというと、映像のほうが好きだったんですけど、舞台をやっていくことによって、その舞台の日々変わる楽しさを知ったという感じですね。
――本作の主人公、国木田は、シンガーソングライターを夢見て、作家、そして政治家を目指すという男。面白い存在ですよね。
大野:国木田は夢を追ってる人間で、「承認欲求」に囚われている。でも、悪い人じゃないんですよね。とあるバーの常連客である彼が、急に「政治家になる」と言い出すんです。それなら、とバーの人がみんなで手伝うことになる…という話なんですけど、国木田の立候補をきっかけに、そのバーで働く人や、常連客それぞれにいろんな思いがあってぶつかり合って、みんなが隠し持ってた欲望みたいなものもブワーっと噴出していく、という…。
室:噴出しますよね(笑)。
大野:そう(笑)。そして、それぞれ自分が持ってた心の傷にも気付いて再生していくまでが描かれます。その真ん中にいる国木田というのは、演じていただく人の等身大の何かが出る役でもあるんですよね。だから、今回は室さんの今までの生き方とか、全部出していただけるんだろうなということで全く新しい作品になりそうだなと思っています。
室:本を読ませてもらって、自分ともすごく共通点があると思いました。自分も子役から始まって、アイドルとか、バンド活動とかいろいろあって役者に、という経歴が似てるんじゃないかなって。国木田は真っ白で何も染まってない人だと思うんですよね。そして、いろんな人の影響によって変わっていく。その辺をそのままの体当たりで演じられたらなと思っています。
――室さんは初めてのミュージカル挑戦ということになりますが、ご自身ではどんなふうに捉えていますか?
室:(共演者には)ミュージカルを経験されている方がたくさんいらっしゃるので、いろんな人から知識を得て頑張って皆さんに追いつけるように頑張ろうと思います。でも、それよりも大事なのは、この物語のメッセージをそのままお客さんに伝えれるように、というのは常に心がけたいなと思っています。
――大野さんからその点に関しては?
大野:僕が18歳の時にロンドンでミュージカルを観て感動したというお話をしましたが、とりわけ衝撃を受けたのは『サンセット大通り』でした。実はそれまであまりミュージカルを見たことがなくて「ミュージカルといえば、歌って踊ってハッピーエンド」みたいな、そういう偏見を持っていました。でも、ロンドンで観たものは全く違ったんですね。あらゆるジャンルの音楽もダンスも表現も詰め込んで、ドラマを紡ぎ新しい世界を開拓するのがミュージカルなんだってのを目の当たりにしたんです。
ミュージカルって総合芸術で、何でもあり。その目で見れば、例えば歌舞伎とか文楽も日本のミュージカルだし、私はチャップリンの専門家で研究者なんですけれども、チャップリン自身も彼は音楽を作って、彼自身のその身体から音楽が溢れ出てて、やっぱり、あるリズムと音楽がドラマを拓いていくっていう意味で言えば同じなんですよね。
だからこそ、ミュージカルの畑の人だけじゃなくて、いろんな世界の人が集まるのが面白いと思うんです。すばらしいミュージカルのプロフェッショナルの方に加えて、例えば今回だったらずっとアイドル活動もおやりになってきた室さん、それからあと峰蘭太郎さんのような東映の時代劇の方だったり、そういった異業種といいますか、いろんなジャンルのアートを全部舞台に乗せていいんだよ、というのが僕にとってのミュージカルなので、今回は室さんならではのリズムと音楽をどんどん出してほしいなと思ってます。
――人間丸ごとぶつかっていくような作品になりそうですね。
室:そうですね。全力で出し切りたいと思います。
――ちなみに、今作においては主演ということでこんなふうに引っ張っていければというのはありますか?
室:僕は主演をやらせていただくことがあっても、「俺について来い」というタイプじゃないんで、もうみんなに助けられて頑張ります、みたいな姿勢でやっていきたいと思ってます。今回は本当にすごい経験豊富な方がいるので、いろんなことを教えてもらいつつ、いい作品を届けれたらなっていう思いで、みんなに支えてもらう感じかなと思います。
大野:室さんについていきますよ。
室:いや、ちょっと(苦笑)。できる限り頑張ります。
――少しだけ、お二人のパーソナルな部分もうかがえればと思うのですが、それぞれの最近のハマりものはありますか?
室:カフェに行くのが好きなんです。台本もわりと外で読みたいほうで。家だとあんまり集中できなくて、カフェとか行ったほうが集中するんですよね。
――ちょっとざわざわしてる方が良い、というような。
室:そうですね。静かすぎると落ち着かないのかもしれないです。2年前ぐらいに上京してきたんですけど、テレビとかなくて、もう本当にベッドだけみたいな部屋に半年間ぐらいいたら、だんだん何したらいいのか、という感じになってきて(笑)。それですぐ近くのカフェに行ってぼーっと過ごす、みたいな時間が増えました。
大野:私は自分が物書きであり研究者でもあり、という人間なので、自分の趣味が全部仕事になってるんですよね。全ての自分がやってることが仕事に繋がってるので、それはすごくありがたいんですけど、よく考えたらそんなにこれがプライベートとかこれが仕事とかって今までは分けたことがなかったなと思いますね。
ただ、改めていいなと思うのは、京都の自宅から普通に近所に買い物に行くとき、鴨川沿いを歩くんですけど、今の季節だと桜が綺麗だったり、 ぱっと大文字から比叡山まで山が見えて癒されることです。これはかけがえのない時間だなと思いますね。だからハマってるということではないのかもしれないですけど、鴨川沿いの散歩っていうのは毎日やってますね。
――お二人とも京都出身ですよね。
室:そうです。
――景色としては室さんも。
室:もちろんわかります。
大野:右京区と左京区で分かれるんですよね。ずいぶんとカルチャーが違うんだよね。
室:そうですね。
大野:同じ京都でも違うんです。ただ、これ話し出すと長くなるのでここまでにしておきます(笑)。
――(笑)。では最後に、公演を楽しみにされてる方に、メッセージを一言ずついただければと思います。
室:常に思ってることなんですけど、少しでも来てくれた人の感情を動かせるようなエンタメを届けたいなって思うんですが、今回は芝居だけじゃなく、歌と踊りもあるので、そこも楽しんでもらって、観てよかったなって思ってもらえるように、仕上げていきたいと思っています。この『complex』を観て楽しんで、ちょっとでもいい気持ちになって帰っていただけたら、嬉しいなと思います。
――きっと、室さんを長く観てこられた方も、今回の作品どんな感じなんだろうと楽しみにしてらっしゃるのではないか、と。
室:そうですね。歌って踊って、というのを全然してないので、十何年ぶりに見れる機会があると思うので、しばらく見てない方にも楽しみにしていただきたいですね。
大野:本当に僕にとってのミュージカルって、様々なこのジャンルのダンスとか音楽が何でもありだと思っているので。音楽もすごく王道のバラードからすごいモダンなもの、そして浄瑠璃の文楽の演出まで。それからダンスもコンテンポラリーダンスから日本舞踊までもいろんなものを取り入れて舞台に乗せているので、「こんなミュージカルありなの?」っていうような演出も楽しんで欲しいし、それから、いろんな人の夢がぶつかって、そして壊れて、そして再生の物語なので、どれかのキャラクターに皆さんが共感していただけると思うんですよね。そういったところも感じてほしいなと思います。
ミュージカル『complex』
作曲・脚本・演出:大野裕之
出演:室将也、麻央侑希、加藤夕夏、岡本悠紀・大野裕之(ダブル)、松本岳、星名美怜、設楽銀河・横山統威(ダブル)、峰蘭太郎/高嶺ふぶき
公式HP https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00758
取材 文・田部井徹 写真・オフィシャル

