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2017年12月27日 12:36

『黒蜥蜴』成河(そんは)にインタビュー!「開かれた三島由紀夫の文学になればいい」<前編>

取材:記事・写真/RanRanEntertainment

江戸川乱歩の長編探偵小説で、1961年に三島由紀夫が戯曲化した『黒蜥蜴』が2018年1月9日から上演される。
世界的に活躍している演出家デヴィッド・ルヴォーが、敬愛してやまない三島由紀夫の最高傑作戯曲の一つと称されている本作を、長年夢に描いてきた演出プランで実現。美に執着する女盗賊“黒蜥蜴”と名探偵“明智小五郎”が繰り広げる耽美と闇の世界を描く。
ランランエンタメでは、黒蜥蜴の部下“雨宮潤一”役の成河さんに本作の魅力をはじめ、観客や演劇の在り方、ご自身の美学についてなどたっぷりと語っていただいた。

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――改めて、三島由紀夫さんが戯曲化した『黒蜥蜴』に出演が決まった時のお気持ちを伺えますか?
ヴィッド・ルヴォーさんとご一緒するのが今回、初めてなのでとても嬉しかったですし、やってみたいと思ったのですが、雨宮役は美少年から美青年に移行するような不安定で中性的なイメージがあり、10代や20代の若い俳優の登竜門のような形で書かれた役だと勝手に思ったもので、「もっとふさわしい方がいるのではないか」と一度お断りさせていただいたんです。しかし、ルヴォーさんにお会いして演劇の概念自体を広げようとしている、無限の可能性に挑戦しようとしている熱量に感化され、「やっぱりやります!」と言いました(笑)。
三島由紀夫さんの戯曲は台本にト書きがされていて、どこに何があるとか置物の指定などが細かく書かれてあります。そのような写実的な具象の美術でリアリズム(写実主義)な演劇を立ち上げることもひとつの手だと思うのですが、それとは違ったアプローチの仕方、フィジカルな演劇を試みようとデヴィッド・ルヴォーさんは考えていらっしゃるようで。これは僕が好きな演劇の表現形式なので、そのような部分で何か力になれることがあったらいいなと思ったことが決め手になりました。

――その時、デヴィッド・ルヴォーさんから成河さんに何か要望などはあったのでしょうか?
デヴィッド・ルヴォーさんは何かしてほしいとは言わない方です。“無限の可能性に挑戦”なので(笑)。稽古が積み上がっていった時に、いろいろなイメージを共有して実験していくと思いますが、改めてお会いしてワークショップもさせていただいた中で感じたことは、何かを決めつけることを嫌う方だなと。「やってみて面白いことを一緒に見つけられたらいい」と思っていらっしゃるようなので、そういう方と一緒にクリエイション(創作)できることはとても心強いですし役者にとっては嬉しいことですね。
19世紀以降の近代劇からヨーロッパの現代演劇は、日本の“お稽古”とは違うクリエイション=創作なので、デヴィッド・ルヴォーさんも、いろいろなことをやってみた中から1つを拾うことを繰り返していかれると思いますし、とくに要望はないかと。あえて言うならば「君の“雨宮役は若くてフレッシュ”という固定観念はどうなんだろう?」ということはあるかな。僕は今36歳ですけど、役柄的に(36歳の)疲れた感じを出しちゃまずいと思うんですけどね(笑)。いろいろなアプローチがあるんだなということをデヴィッド・ルヴォーさんと共有できたのでよかったです。

――三島由紀夫さんの戯曲『黒蜥蜴』の魅力はどんなところにあると思われますか?
これは全員一致でデヴィッド・ルヴォーさんも確信を持たれていましたが、三島由紀夫さんの戯曲はすごく笑えるように書かれてあると、本読みで改めて気づきました。滑稽な人間の愛らしい喜劇として、ドリフのようなズッコケみたいなやり取りもあって……。三島文学は漢字が非常に難しく取っ付きにくいですが、実は読めば読むほど、非常に大衆的な喜劇として書かれているなと痛感しました。三島由紀夫さんの作品の中でもとくに大衆的な喜劇として耽美を描いていて、本当にすばらしいなと思いました。
文体が美しいので、高尚な文学として重々しく荘厳に語り得る作品だと思うのですが、デヴィッド・ルヴォーさんを介してそういう概念を突破すると、すごく自由に解釈もできる。「これって元々喜劇として書かれているよね?」という発見が本読みの時にたくさんあったので、日本人が考えるお堅い三島文学から解放されていって、逆に確信に迫っていければいいのかなと。それを誰よりもルヴォーさんは目指されていると思います。

――黒蜥蜴の部下の美しい青年、雨宮潤一という人物はどう分析されていますか
青年というより少年のようにも思えますが(笑)。とても現代的な人物ですよね。三島さんが書いた時、どういう想いでどのようなメッセージを託したのかわかりませんが、今改めて読み返すと、世の中こんな青年で溢れているのではないでしょうか(笑)。自分というものをどこに置いたらいいかわからず、世界や社会と馴染めず、ある意味短絡的に刹那的に何かに依存してしまう若者がたくさんいるなと思います。自分を縛ってくる苦しみから「逃げてしまいたい」という想いと、それを人に依存することで解消しようとするような若者が……。周りにもたくさんいるだろうし、僕の二十歳の頃を考えても共感できますし、今でもわかる部分がありますね。今、そこの距離を持って喜劇的に演じられたらもう少し、ちゃんと伝わるのかなと思ったりもします。

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――雨宮は悩んでいる時に、黒蜥蜴に出会って彼女に依存していきます。
何でもよかったんだと思いますよ。それがテロ組織でもよかったんじゃないかなと。もちろん、彼にとってはそれが運命だし、それを信じることになるわけですから。自死を考えているくらい、追い詰められた時に依存して、そこに自分を見出してしまう、同化してしまうのだと思います。
でもこれは初見でぼやっと思ったことで、いつも稽古に入る前にアプローチの仕方を定めることは絶対にするまい、と思っています。一人で作って準備をして稽古場にいくと、絶対にうまくいかないのがお芝居の稽古。これは、先輩方から耳にタコができるほど教わりました。歳を経るとそれが実感としてわかるので、演劇の稽古は準備をしていってはいけない。そのかわり、いろいろな妄想を抱いて対極なイメージをたくさん持っていればいるほど楽しいですよ。ひとつに決めていいことは一個もないんですよね。

――『黒蜥蜴』という女性は、男性の成河さんから見たらどのように思われますか?
可哀想な人ですよね。孤独な人でしょうし。

――“死”に快感を覚えるというのは、普通の感覚ではないなと。
そうですね。(登場人物)全員が問題を抱えていますので、人とうまくやれないんでしょうね。これは三島文学の根幹に関わっていくことなのですが。「新社会」という西洋の近代思想を輸入する際、日本人がもともと持っていたものを全部否定して、突き進んだときにできた歪みから生まれた文学だと思うので、ある意味、戦後から日本が抱えている問題なのかもしれません。登場人物がみんなうまくやれず、みんながみんな、自分の中の世界に入っていってしまうような人たちばかりという(笑)。でも、それは作品を通すと非常に美しいことに思えて面白いんですけどね。
そういう人たちを観て、お客様がどう感じるかが一番大事なことで、ただ「美しかった」で終わったら意味がない。そこから現代社会のことや日本人論など、戦後からどうやってきたのかを考えていけたら一番いいですよね。そういったことを考えるのは決して、エンターテイメントから外れたことではないと思うんです。

――黒蜥蜴役の中谷さんとは初共演とお聞きしましたが、印象はいかがでしょうか?
ワークショップの日に初めてお会いしましたが、あまりの腰の低さにびっくりしました(笑)。決して出しゃばらず、心の底から謙虚な方で、この作品に懸けている姿勢も感じました。

――ワ―クショップではどんなことをされるのでしょうか。
主に本読みなど台本を声に出して読みます。そこで、すごくばかばかしく笑えるやり取りをみんなで見つけたんですよ(笑)。おそらく、それはみんながデヴィッド・ルヴォーという脳みそを介して読んでいたので、とっても滑稽で愛らしくばかばかしいと感じたのだと思いますね。さらに、耽美的な美しい内面世界が同列に扱われていることが素晴らしいなと感じました。三島文学というと日本人はどうしても背筋を正して受け取ってしまいますが、今回、デヴィッド・ルヴォーという頭脳を通してアプローチできることが、我々全員にとっての価値のあることだと思うので、個人的には開かれた三島由紀夫の文学になればいいなと思いますね。

――明智小五郎役の井上芳雄さんとは仲が良いとお聞きしました。
仲いいですよ、問題意識を共有していますから(笑)。日本の現代演劇がこの先どうなっていくべきか、観客と俳優の関係というのはどういうものが演劇にとって好ましいのか、という観客論ですね(笑)。現状が悪いと言っているのではなく、時代の変化と共に変わっていくことなので、今を受けとめた上で、「自分たちはどうあるべきか」ということをとても真面目に朝まで話します。彼は自分の現状に甘んじずに、常に問題意識を持っている人。「現状に満足しない」ということが彼のとても素晴らしいところだと思います。そんなところで意気投合し、彼がぶつかる悩みや問題などを聞いたり意見を交換したりすると、僕も刺激になるんです。

――井上さんとはいつ頃出会われたのですか?
初共演したのが、僕が初めてミュージカルに出演した『ハムレット』でした。その後『エリザベート』でも共演してます。『ハムレット』は6年前になるのですが、それ以来お互い連絡を取り合ったり、互いの舞台を観に行ったりしていますし、彼には正直に言いますよ。10年、20年、30年後のことを考えながらエンターテイメントの枠を広げなければいけないし、それをお客様に伝えなければいけないし、共有しなければいけないよね……という話を朝までします(笑)。

――作品への取り組み方で、普段気を付けていることはありますか?
この作品は何を目指した作品で、誰に届けるべき作品なのか。この作品の核心はどこにあるのか。それはどういう規模の興行なのか、興行としての雰囲気も演じる上で大事です。
「これを演じて」と言われてやるのが舞台の俳優ではなく、この声、この演技、この会話、この作品が今のあなたにどういうものを与えていて、それが社会の中でどういうものに変化していくのか……ということを舞台上で俳優は演じるのです。俳優は常に何かを考えていないと客席から観ていても、何がしたいのか、何を伝えたいのかがこちらに伝わってこないんです。いい演技は映像作品で観たい。僕は、その人の信念が役を通して見えるような、舞台上では出会ったことのない信念に出会いたい。僕たちの生活にどのように影響して、どのように役に立つのか考えたいと思うんです。

後編に続く~

【公演情報】
『黒蜥蜴』
東京公演:2018年1月9日(火)~28日(日) 日生劇場
大阪公演:2018年2月1日(木)~5日(月) 梅田芸術劇場メインホール

 <スタッフ>
原作:江戸川乱歩
脚本:三島由紀夫
演出:デヴィッド・ルヴォー

 <キャスト>
中谷美紀  井上芳雄  /  相楽樹 朝海ひかる たかお鷹  /  成河
 一倉千夏 内堀律子 岡本温子 加藤貴彦 ケイン鈴木 鈴木陽丈 滝沢花野 長尾哲平
萩原悠 松澤匠 真瀬はるか 三永武明 宮菜穂子 村井成仁 安福毅 山田由梨 吉田悟郎
ダンサー:小松詩乃 松尾望 (50音順)

<あらすじ>
一代で財を築いた宝石商・岩瀬庄兵衛は、娘の早苗を誘拐するという脅迫状に脅え、私立探偵の明智小五郎を雇う。
大阪のホテルに身を潜める父娘の隣室には、岩瀬の店の上客である緑川夫人が宿泊していたが、実は彼女こそ、誘拐予告をした張本人の女賊・黒蜥蜴。
黒蜥蜴は、部下の美しい青年・雨宮を早苗に紹介すると見せかけ彼女を奪い去ると、そうとは知らずに犯人を警戒し続ける明智の前に、何食わぬ顔で現れる。
クールでいながら、「犯罪」へのロマンティックな憧れを隠さない明智に魅入られた緑川=黒蜥蜴は言う。
「要するにあなたは報いられない戀(こい)をしてらっしゃる。犯罪に對(たい)する戀(こい)を」。
明智はすかさず切り返す。
「でも己惚れかもしれないが、僕はかう思うこともありますよ。僕は犯罪から戀(こい)されてゐるんだと」。自信に満ちたその態度を裏打ちするかのように、明智は見事に早苗を奪還してみせる。
が、黒蜥蜴は怯まない。美の狩人・黒蜥蜴VS.名探偵・明智小五郎の勝負は、報われない結末に向かってさらにヒートアップしてゆく…。

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