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2017年12月27日 12:48

『黒蜥蜴』成河(そんは)にインタビュー!「開かれた三島由紀夫の文学になればいい」<後編>

取材:記事・写真/RanRanEntertainment

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『演劇の主人公はお客様』

――先日、行われた成河さんのトークイベント(メールマガジン「male de songha」(メール・ド・ソンハ)会員限定イベント)の記事で、ステージ前に座り込んで熱くお話されていた様子がとても印象的でした。

実は、いろいろと勉強していて以前からきちんと話したいと思っていたことがあるんです。

演劇という言葉には、play(遊ぶ)、drama(戯曲文学として捉えた時のドラマ)、ciatr(シアター)などいろいろな英訳があり、それらは全部まとめてパフォーミング・アーツというのですが、パフォーミング・アーツの中でも、ciatr(シアター)は大昔から使われていた言葉であり(ギリシャ語ではテアトロン)、これは観る場所、観る行為のことを意味しています。つまり、シアターとは観客席のことであり、舞台上で行われる(演技の)ことではないんです。

日本で昔からある芝居もそうで、僕らは「芝居をする=演技すること」と考えていますが、芝居とは舞台上で行われているもののことではなく、「芝居をしているのはお客様」であるということ。つまり、観客席に座っている「お客様の頭の中で起こっていること」が“芝居”であり、演劇、芝居、シアターの主人公はお客様なんです。舞台上で起きていることは、「お客様が何を感じてどう思うのか」という気持ちの後押しをしているだけのことで。お客様が考えたいことを考えればいいし、したいことをすればいい。でも、そういう関係が今、ごちゃまぜになっていて、お客様が「どう受け取ることが正解なのか」という感覚で観客席に座られることが、非常にもったいないことだと思うんです。劇場での主体は観客席のはずなのに……。「楽しめたのか、楽しめなかったか。わかったか、わからなかったか」だけで演劇を判断するのは大きな間違い。昔からずっと言われていたことなのに、最近は誰も言わないんだなと思って。

(お客様が)自分で楽しめばいいし自由に感じればいいのに、「わからなかったから、きっと自分は間違っているんだ」と思い込んでしまう。それは、我々(役者)や興行主、プロダクションがそう思わせてしまっているんです。そこを何とかして、少なくとも言葉で共有したいと考えていて。作品で共有できることが一番いいのですが、僕ひとりで作品が成り立つわけではないのでね。そういう信念で舞台には立っていますが……。

本来は観るだけのものではないので、(お客様も)やったらいいのにと思うんです。ライブのアリーナ席では、コアなファンが「ワァ~!」と盛り上がっていて、少し冷静な人たちが後方席で観ていますよね?後の人たちはそんなアリーナを観ているだけでも楽しいし、これは、すごく合理的で理に適ったことだなと。アリーナの人たちは「ワァ~!」と一緒に歌っているから、彼らはもう上演者と言っていいくらい。そういった小さい実験的なことはいくらでもやっていらっしゃる方はいますが、日本の大型な演劇興行にも組み入れるべきだなと。そうなればきっと面白いと思うんですよね。例えば、「3回以上観る人には最前列に集まっていただいて(舞台に)参加してもらいます! お揃いのTシャツや楽譜と歌詞カードも用意しますので、“ここぞ!”という場面ではスタンディングで(俳優たちと)一緒に歌っていただきます!」という感じで。そうなれば、(参加している層、それを楽しんで観ている層、たまたま観に来た層の)3層ができるでしょ?(笑)。

今、非常に不健康だと思うことは、コアな人たちがいろいろな所に散らばっていると、そうではない人たちが観に来たときに不愉快な思いをするということ。これは、(作品や役者を)大切に愛して何度も足繁く通ってくださる方たちには、見方によっては失礼な言い方に聞こえるかもしれませんが、いろいろな人たちが観ることができなければいけないし、それをこちら側が工夫して考えなければいけない。それには層を分けることが大事だと思うんです。当日券でふらっと来たお客様はアリーナで盛り上がっている人たちを観て、「何してるんだろう?気になるな。アリーナ面白そうだな」から「アリーナ行ってみたいな」となるわけです。舞台というのは垣根があるから問題なんですけど、垣根を取れないのなら層を作ればいいんです。小さい劇場ではそんな実験をいくらでもやっているのですが、興行に背を向ける形で実現させるにはどうしても無理があるのですが。それでも、舞台を楽しむためにはそういったことをやっていかなければと思うんです。

いっぱい喋っちゃった(笑)。こんな話をトークイベントでしています。僕は演劇を観るのが好きで、今でも観続けているし、僕もお客さんのうちの1人なんです。たまたま、僕はこちらの立場にいて少し押したりできる可能性があるので、みなさんと「一緒に考えていきましょう」という姿勢でイベントを行っているんです。

――「美学と美学の対決」が大きなテーマですが、成河さんご自身の「美学」というのはありますか?
いいですね!ありますよ。「矛盾を愛する」これに尽きます!これは、つかこうへいさんから教わったことで「矛盾を肯定する」ということです。これは僕がやっている合気道に通じることで、合気道の「何か振りかかってくる力に対して、抵抗するでも妥協するでもなく、その力を受け止めてそのままを受け入れて別の力に変える」という実践的な知恵が、自分の中で「矛盾を肯定する」ということに活かされています。先ほどみたいな話を本気で考えたら、興行から背を向けたくなりますよ。矛盾していることを言っているかもしれないけれど、それでも、俳優業って聞いてほしいし観て欲しいんです。この矛盾は人間が抱えている必然的な矛盾であり、誰のせいでもない。そんな矛盾を否定して閉じこもってしまうのではなく、矛盾を肯定して受け止め、別の力に変えていけばいい。僕の美学は、演劇だけでなく生活のすべてにおいて、「矛盾を肯定する」ということに尽きます。

――舞台への意気込みを交えて、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
日本では三島文学というと身構えてしまいがちで、僕もそのうちの1人ですが、デヴィッド・ルヴォーさんを通じて、開かれた『黒蜥蜴』、開かれた三島文学というものを目指してやれたら素敵だなと思います。僕たちが誰も観たことのない角度からの『黒蜥蜴』を感じてもらえたら一番やった価値はあるのかなと思いますので、気楽に“無限の可能性”をもって客席でお待ちください!

【公演情報】
『黒蜥蜴』
東京公演:2018年1月9日(火)~28日(日) 日生劇場
大阪公演:2018年2月1日(木)~5日(月) 梅田芸術劇場メインホール

<スタッフ>
原作:江戸川乱歩
脚本:三島由紀夫
演出:デヴィッド・ルヴォー

<キャスト>
中谷美紀  井上芳雄  /  相楽樹 朝海ひかる たかお鷹  /  成河
一倉千夏 内堀律子 岡本温子 加藤貴彦 ケイン鈴木 鈴木陽丈 滝沢花野 長尾哲平
萩原悠 松澤匠 真瀬はるか 三永武明 宮菜穂子 村井成仁 安福毅 山田由梨 吉田悟郎
ダンサー:小松詩乃 松尾望 (50音順)

<あらすじ>
一代で財を築いた宝石商・岩瀬庄兵衛は、娘の早苗を誘拐するという脅迫状に脅え、私立探偵の明智小五郎を雇う。
大阪のホテルに身を潜める父娘の隣室には、岩瀬の店の上客である緑川夫人が宿泊していたが、実は彼女こそ、誘拐予告をした張本人の女賊・黒蜥蜴。
黒蜥蜴は、部下の美しい青年・雨宮を早苗に紹介すると見せかけ彼女を奪い去ると、そうとは知らずに犯人を警戒し続ける明智の前に、何食わぬ顔で現れる。
クールでいながら、「犯罪」へのロマンティックな憧れを隠さない明智に魅入られた緑川=黒蜥蜴は言う。
「要するにあなたは報いられない戀(こい)をしてらっしゃる。犯罪に對(たい)する戀(こい)を」。
明智はすかさず切り返す。
「でも己惚れかもしれないが、僕はかう思うこともありますよ。僕は犯罪から戀(こい)されてゐるんだと」。自信に満ちたその態度を裏打ちするかのように、明智は見事に早苗を奪還してみせる。
が、黒蜥蜴は怯まない。美の狩人・黒蜥蜴VS.名探偵・明智小五郎の勝負は、報われない結末に向かってさらにヒートアップしてゆく…。

■成河(そんは)プロフィール
1981年3月26日生まれ。東京都出身。
大学時代から演劇を始め、舞台を中心に活躍。つかこうへい、野田秀樹、ジョン・ケアード、サイモン・マクバーニーら国内外の著名演出家から絶大な信頼と高い評価を受ける。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞、11年に第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。最近の舞台は『ショーシャンクの空に』主演(13年)、『ビッグ・フェラー』(14年)、『十二夜』、『アドルフに告ぐ』主演、ミュージカル『100万回生きたねこ』主演、『スポケーンの左手』(以上15年)、ミュージカル『グランドホテル』RED主演、ミュージカル『エリザベート』(以上16年)、ミュージカル『わたしは真悟』、劇団☆新感線『髑髏城の七人Season花』、『子午線の祀り』、『人間風車』主演(以上17年)など。映像ではNHK連続テレビ小説『マッサン』、TBS『下町ロケット』、映画『SP~革命篇』『脳内ポイズンベリー』などに出演。ディズニー実写映画『美女と野獣』でユアン・マクレガー演じるルミエールの吹き替えを担当。

前編~

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