市川團十郎が、11月21日(木)に行われた松竹創業百三十周年「双仮名手本三升 裏表忠臣蔵」取材会に出席。公演への思いを語った。
2022年11月に十三代目市川團十郎白猿を襲名し、先日2年間にわたる襲名披露興行を終えた團十郎。2025年の新橋演舞場の1月公演では、歌舞伎の三大名作のひとつである『仮名手本忠臣蔵』に挑戦する。今回の公演では、寛延元年(1748年)に初演されて以来、およそ280年に渡り愛されて続けてきた「忠臣蔵」の世界に現代ならではの視点を織り込み、早替えや宙乗りなど見どころの詰まった新たな「忠臣蔵」として作り上げる。
團十郎は、「私が子どもの頃の歌舞伎界は『忠臣蔵』はどんなときでもお客さんが入るという暗黙の了解でしたが、近年はお客さんが入らない月が出てくる。これは、何でなのかを考えたとき、歌舞伎や役者の問題もありますが、お客さま方も『忠臣蔵』の仇討ちや一貫して主君を思う気持ちを貫く日本人の魂みたいなものへの理解度が薄れてきているのではないかと思います」と持論を展開。続けて、「古典で丁寧に表現することも大事ですが、私ですら難しいと思うところがあるので、今の人には理解しづらいところがある。そうしたところをなんとかしたいという思いが強い。『仮名手本忠臣蔵』はすばらしいし、変えてはいけないけれども、こういう提案もありではないかという気持ちで挑みたいと思います」と意気込んだ。
今回はタイトルに「裏表忠臣蔵」とあるが、これは天保四年に七代目團十郎が市川白猿の名で増補し、由良之助を演じ初演した作品だ。表が通常上演されている『仮名手本忠臣蔵』、裏として創作場面をつけ、新たな形で忠臣蔵の世界を描き出し、当時、大当たりとなったという。今回も、表を『仮名手本忠臣蔵』、裏を現代に合わせた創作により作り上げる。團十郎は会見でも改めて、「裏というのは外伝です。今でいうスピンオフ。スピンオフを入れることで、“裏表”となる。一言で終わってしまうような人間にもフォーカスを当てる」と説明した。
なお、團十郎は本作では大星由良之助、早野勘平、斧定九郎、高師直の四役を勤める。團十郎は、改めて本作について「歌舞伎とは別の感覚で話すと、ただのパワハラの問題(を描いている)。権力を持ったおじちゃんがパワハラをしているだけの話ですが、それを現代の方々にも分かりやすく『そりゃ、そうなるよね』としたい。日常生活の中で慢心している人間がことを起こして大きなことになっていくというストーリー性を重要視したい」と話した。その上で、「高師直は傲慢な、周りのことが見えていない、資本主義の上の方にいるおじいちゃんのような人物像を歌舞伎として表現していきたいと思います。それに対して、大星由良之助は、主君が不合理なことで腹を斬ることになって、想いを汲み取って『分かりました』と一貫している人間像。ただそれだけではなく、遊んでいる部分もある。どうして遊んでいるのかもリアリティをもって表現して、忠実な人間でありたいと思います。由良之助は日本人を代表するような人物として演じたい。勤勉だし、真面目だし、忠義がある。報われないことも多い時代だからこそ、報われる忠実な男を作り上げたい」と明かした。
さらに、早野勘平役は「四十七士に入りたい男は本編と変わらない。色に耽ったばかりにという(人物)。あくまでもそれはスピンオフの話ですが、それがメインの本題に入っているので、それをそのままやってみたい」とし、 斧定九郎については「由良之助に悪が対峙していないと(物語の本質が)見えづらくなる。ただ、高師直は位が高くイージーに出てこれないので、定九郎が悪という部分では高師直の直結を描ける人物として暴れてもらいたいと思っています」と話した。
また、1月の公演ということにちなんで、来年の予定について聞かれると、「(尾上)菊之助さんの襲名にできる限りそばにいたいと思います。同級生ですし、友達で生まれたときからずっと一緒です。彼も(襲名披露という)大変な時期に入っていきますし、僕も(團十郎襲名のために)支えてもらった2年間があるので、しっかり恩返しをする男でありたい」と述べ、「お声がけいただければいつでも出る」と明言した。
松竹創業百三十周年「双仮名手本三升 裏表忠臣蔵」は、2025年1月3日〜26日に新橋演舞場で上演。