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2023年9月13日 20:41

「初演時の思いも胸に、素敵な作品を届けたい」葵わかな、木下晴香らがさらに進化した美しい物語を描く ミュージカル『アナスタシア』レポート

第70回アカデミー賞で歌曲賞、音楽賞にノミネートされたアニメ映画「アナスタシア」に着想を得て制作されたミュージカル『アナスタシア』。2017年3月のプレビュー公演から始まったブロードウェイ公演は、2019年3月まで2年間のロングラン上演が行われた。スペイン、北米、ドイツなど世界各国で上演され、日本では2020年に初演が行われたが、新型コロナウイルスの影響で初日が延期となり、わずか14回の上演で幕を下ろしてしまった。再演を望む声が集まる中、2023年9月12日(火)より再び幕があがる。

主演のアーニャは葵わかなと木下晴香のWキャスト。彼女と共に旅をする青年・ディミトリは海宝直人、相葉裕樹、内海啓貴のトリプルキャスト。皇女アナスタシアの殺害を命じられるグレブを堂珍嘉邦、田代万里生、海宝直人が務める。アーニャをアナスタシアに仕立てあげて報奨金を狙う詐欺師・ヴラドは大澄賢也と石川禅。マリア皇太后に使える伯爵夫人・リリーは朝海ひかるとマルシア、堀内敬子。孫娘アナスタシアを探し続けるマリア皇太后を麻実れいが演じる。

初日に先駆けて、プレスコールと葵わかな、木下晴香による会見が行われた。

――3年ぶりの再演ですが、今の気持ちはいかがですか。

葵:初演が中止になってしまってからあっという間に時が過ぎ、ついにリベンジ出来るのが本当に嬉しいです。前回は不完全燃焼な形で終わってしまったのがすごく心残りでした。大千秋楽まで無事に駆け抜けたいです。

木下:前回は稽古を終えて初日を迎えるタイミングでストップしてしまいました。また挑戦したいと思っていたので、皆さんにお届けできるのが本当に嬉しく、幸せです。

――再演が決まった時の思いを教えてください。

葵:(再演が)決まる前から、私の中ではほぼ決定事項でした。自分の人生の中で絶対にもう一度アーニャに挑戦すると決めていたので、お話をいただいた時は制作・キャストの皆さんが同じ気持ちでいたことが感じられて嬉しかったです。前回の不完全燃焼を消化するチャンスをいただけたように感じ、希望を持てたのを覚えています。

木下:作品との出会いはタイミングも大事なので、またこの作品に出られるとわかった時ホッとしました。もう一度アーニャとして旅路をお届けするチャンスをもらえるのが嬉しくて。特に初演キャストの皆さんとは、特に言葉を交わしたわけではありませんが、熱い思いをシェアできていたと感じます。

――Wキャストとしてお互いに励ましあったりはしましたか?

葵:何回も同じ役を演じている仲で、元々信頼関係はすごくあります。気持ちの面でも支えてもらっている部分は多いですし、千秋楽までこの関係が続くと思うので頼りにしています。

木下:普段からなんでも話せる関係で、役やお芝居についてのちょっとしたことも相談できます。2人でアーニャに向き合ってこれたと思いますね。

――本作の一番の見どころを教えてください。

葵:プレスコールで曲の説明をされているのを聞いて、「有名なアニメ映画を舞台化する上で、大人のミュージカルにしたいと思った」というお話になるほどと感じました。アナスタシアが持つ夢の話や曲調で表現されるおとぎの世界も魅力的ですが、その中に現実的なエッセンスが含まれている。夢と現実のバランスの良さ、2つが拮抗している世界観が本作の特徴なのかなと思います。煌びやかな反面、みんなが共感できる泥臭さがある。その二面性が観てくださる方の背中を押したり心に寄り添ったりする部分かと思うので、大切に演じたいです。

木下:わかなちゃんがすごく素敵なことを言ってくれたので他の部分で答えようと思います。稽古場から劇場に来て、改めて舞台装置や衣装の力を感じました。もちろんミュージカルは総合芸術で、音楽とお芝居とダンス、美術すべてが一体になって作品になっていくんですが、この作品は特にセットや衣装、音楽に助けられていると感じます。それぞれが組み合わさった莫大なエネルギーを、皆さんにもお届けできるんじゃないかと思います。

――最後に、皆さんへのメッセージをお願いします。

葵:ついに明日、初日を迎えます。初演の時の思いも胸に、2023年版のアナスタシアとして、大阪まで元気にのびのびとお届けできたらと思います。ぜひ劇場に足を運んでください。

木下:キャスト・スタッフ同じくらい、お客様もいろいろな思いを持って初日を待ってくださっていたと思います。素敵な作品をお届けできるように、一丸となって精進してまいりますので、ぜひ楽しみにしていてください。

プレスコールでは、音楽を手掛けたステファン・フラハティと作詞のリン・アレンスによる解説を挟みながら7曲が披露された。

まずはアーニャ(葵わかな)、ディミトリ(相葉裕樹)、ヴラド(大澄賢也)による「パリは鍵を握ってる」。この曲は二幕の冒頭、革命後の抑圧的なロシアから抜け出した3人が、ついにパリに到着したシーンで歌われる。

明るく華やかなパリの街で新たな一歩を踏み出そうとする3人のソワソワと高揚感が伝わってくる。久しぶりのパリに浮き立つヴラドの様子をイキイキと見せる大澄、ようやく辿り着いた場所に目を輝かせるアーニャを愛らしく表現する葵。相葉は対照的に、アーニャとの別れが近づいている予感から複雑な表情を浮かべるディミトリを切なく見せる。

続いては、ついに皇太后のもとに辿り着いたアーニャが皇太后と話すのを、劇場のボックス席の外でディミトリ(海宝直人)とヴラド(石川禅)が緊張しながら待つシーン。「すべてを勝ち取るために」で、海宝はアーニャが本物のアナスタシアだという自信と報奨金への期待、アーニャを失う不安に揺れる心を繊細に表現していた。

本作のクリエイティブにおいて、脚本のテレンス・マクナリーと「有名なアニメ映画を再現するだけではいけない」と話したという。より成熟した、大人のミュージカルにするために生まれたのが、革命後のロシア政府の官僚・グレブ。

皇帝と家族を処刑した父を尊敬し、自らも革命後のロシアのために働いているグレブ(田代万里生)がアーニャ(木下晴香)に忠告するシーンでは、どこか哀愁を帯びた「ネヴァ川の流れ」が歌われる。田代は父への尊敬と祖国への思いを純粋すぎるほどまっすぐ語る。強い意志を感じさせる一方、どこか危うさも見えるグレブだ。

ディミトリが自らの生い立ちを語る「俺のペテルブルク」について、作詞のリンは「早口言葉が多く、訳すのが特に難しかったのではないかと思います」と語る。 故郷への思いを素直に表し、アーニャにもこの街を見てほしいと歌う楽曲に、勝ち気だが愛嬌があり可愛らしい内海の雰囲気がぴったり合っている。

また、アーニャがディミトリから闇市で買ったオルゴールをもらい、その音色によって不思議な記憶の中に誘われる「遠い12月」は木下が歌唱。美しいメロディにロマノフ王朝の幻想が重なり、どこが物悲しい、印象的なシーンに仕上がっていた。

アーニャの抹殺を命じられたグレブによる「それでもまだ」を演じたのは堂珍。自らの使命に対するプライドと国への忠誠を持ちながらも、アーニャに惹かれる自身の心も無視できない葛藤を見事に描き出す。

プレスコールの最後に披露されたのは、アニメ映画からの1曲である「過去への旅」。アカデミー賞とゴールデングローブ賞にノミネートされた楽曲だ。葵はアーニャの希望と不安をドラマティックに表現。怖さが希望に変わっていく過程と前向きなメッセージを力強く届けた。

続いて、ゲネプロの様子も簡単に紹介する。

物語は幼いアナスタシアと皇太后のシーンからスタート。マリア皇太后役の麻美が孫娘への深く温かい愛情を芝居でも歌唱でも見せることで、家族を失った彼女の深い悲しみ、偽物のアナスタシアたちによって疲弊した心を際立たせている。

時が経ち、詐欺師のディミトリとヴラドが「ロマノフの一人・アナスタシアがまだ生きている」という噂を聞きつける。国外逃亡を図る二人は、皇太后のもとに偽のアナスタシアを連れていくことを計画。そんな二人の前に現れたのが、記憶をなくし、「誰かがパリで自分を待っている」という予感を胸にフランスに行こうとしているアーニャ。詐欺師たちはアーニャに教育を施して“アナスタシア”に仕立て上げようとする。喧嘩ばかりのアーニャとディミトリだが、一緒に過ごすうちに惹かれあっていく初々しいやりとりが可愛らしい。また、二人を見守るヴラドの気さくで優しいたたずまいも素敵だ。自然と応援したくなるトリオの和やかなやり取りに癒される。

そんな中で物語を引き締めているのがグレブの厳しさ。市民を監視し、情に流されずに職務を全うしようとする彼の姿に、ストーリーを知っていてもハラハラさせられた。

二幕はロシア国内で物語が展開する一幕からがらりと雰囲気を変え、煌びやかなパリの様子が描かれる。大きく展開するアーニャの物語、ディミトリとグレブのアーニャに対する思いはもちろん、皇太后のもとで働くリリーとヴラドの恋の駆け引きなど見どころが満載だ。一人ひとりの運命が絡み合い、美しい楽曲とともにラストに向かって駆け抜けて行く。

また、会見でも話に出たが、美術や衣装も大きな見どころの一つ。世界最高水準の高精細LED映像による美しく奥行きのある背景や照明、煌びやかな貴族の世界や革命後の人々の暮らしをリアルに見せる衣装や小道具、いずれもキャッチーで印象的な音楽。すべてがキャスト陣の好演と組み合わさって、観るものを魅了する舞台を生み出していた。

本作は9月12日(火)より、東急シアターオーブにて開幕。10月19日(木)からは梅田芸術劇場メインホールでも上演される。

 

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