作・高橋亜子、音楽・清塚信也、演出・鈴木裕美という、日本のミュージカル界を代表する3人がタッグを組んだオリジナルミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』。20世紀初頭に不慮の死を遂げた大画家アンドレ・デジールを信奉していたエミールとジャンが出会い、2人で絵を描くうちに贋作ビジネスに巻き込まれていく中で、思いもよらないドラマが起きるストーリーだ。
エミールはウエンツ瑛士と上川一哉、ジャンは上山竜治と小柳友がそれぞれWキャストで演じる。さらに、熊谷彩春、綾凰華、藤浦功一、柴一平、戸井勝海、水夏希といった実力派が集結。
開幕を前に、ウエンツ瑛士、上川一哉、上山竜治、小柳友による会見が行われた。
――オリジナル作品の初演、初日を前にした今の気持ちを教えてください。
ウエンツ:どんなリアクションがあるのかドキドキしていて、不安もあります。でも約2ヶ月間稽古を積んできて、オリジナルとして日本からどういうことを発信できるのか。さらに脚本の亜子さん、演出の裕美さん、音楽の清塚さんが強力にバックアップしてくれています。僕らはステージ上で暴れるだけだと思っているので、存分に楽しみたいと思います。
上川:先に全部言われちゃう(笑)。先ほども言ったように、すごくワクワクしています。どんなリアクションをいただけるか、何を感じてもらえるか。また、ペア同士、全く違う出来になっています。お客様とカンパニー全員と共鳴し合えたらいいと思います。
上山:稽古が2ヶ月あるのが本当に稀です。出演者8人しかいない中で、2人(エミールとジャン)の信頼関係、カンパニーの信頼関係がなければ成り立たない内容です。すごく豪華なセットがあるわけではなく、ほとんど素舞台。そして素晴らしいセット……。
上川:どういうこと(笑)?
小柳:どっち(笑)?
ウエンツ:豪華なセットはないのに素晴らしいセット?
上山:なんていうの? 最小限の素晴らしいセット!
ウエンツ:最小限の美で思いを伝えるというセットの素晴らしさ。
上山:そういうこと! マイナスの美学!
ウエンツ:マイナスは良くない(笑)。
一同:(笑)
上山:とにかく誤魔化しが効かない芝居です。みんなを信頼して頑張りたいと思います!
小柳:僕はそもそもミュージカル自体が初めてで、わからないことだらけです、でも、オリジナル作品だからこそ自由に芝居を作らせてもらえて、自分らしさを出せたんじゃないかと思います。
――ご自身が演じるエミール、ジャンをどう捉えているか教えてください。
ウエンツ:やっぱり人が大好き。それを言葉や態度で表せない卑屈な面もあり、だからこそかもしれないけど才能豊かな天才的な画家だと思います。大好きな人に正面切って大好きだと言える人間は少ないと思う。恥じらいがあったり、向こうはそう思っていなかったらどうしようと不安だったり。だから「卑屈」というのも、額面通り受け取るというよりは、繊細な面があるというイメージで演じています。
上川:以下同文です。本当に素直でピュアで、だからこそ昔の傷に囚われてしまったり自分を押し殺してしまったりもする。そんな彼がジャンをきっかけにいろんな思いをして、いろんな愛を感じながら進んでいく。観てくださる方も、どこか共感できる部分があると思います。その感情を大切にしながら、この作品を旅できたらと思っています。
上山:同じ役でも作り方が全然違って、別々のものになっています。僕のジャンは、僕自身「こういう友達がほしいな」っていう存在。とにかくエミールの才能に惚れて、「お前は絶対売れる、絶対大丈夫だ」ってとにかく背中を押してくれる。そんな友達になってくれる人がいたら僕に連絡してほしいですね(笑)。
小柳:僕はWキャストも初めてで、すごく不思議な感覚で稽古をしました。ジャンはとにかく人が好きで、人を楽しませること、人の笑顔が好きなんだと思います。そこは自分に通じる部分だと思うので演じていてすごく楽しいですし、これからもっと楽しくなっていくんだろうなと思います。
――本作の注目ポイントを教えてください。
上川:すべてです。が、まずは音楽ですね。いろんなナンバーがあって、一幕でお腹いっぱいになるくらい。いろんなジャンルの音楽がストーリーにちゃんと乗っかっています。とにかく皆さんにも早く聞いてほしいです。
ウエンツ:会見は僕らが代表で行っていますが、キャスト全員でいろんなキャラクターを演じます。8人だけのカンパニーとは思えないくらい舞台上が豊かなシーンもたくさんありますし、ステージ上でキャスト全員が共鳴し合い、補完しあっている瞬間も多い。魅力的なところがたくさんあると思います。
小柳:僕はとにかく「共鳴」という部分。上川さんと初めて歌った時にニヤニヤしてしまって。ハモること、歌うことはこんなに楽しいんだと教えていただいて、これが共鳴かと感じました。お客さんとも共鳴できたらいいなと思います。
上山:原作もない国産ミュージカルということで、日本語の詞に合わせて清塚信也さんが曲を作ってくださいました。本当に素晴らしくて僕もファンになっちゃったんですが、その前提に高橋亜子さんの素晴らしい本があり、鈴木裕美さんの演出がある。ミュージカルを超えたものをお見せできると思います。
――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
小柳:小柳友35歳、ミュージカルデビューです。まさか35歳で新しい世界に行くとは思っていませんでした。褒めていただくこともあるけど、僕に合っているかは正直まだわかりません。でも、共演した皆さんやスタッフさんにまたお会いしたいから続けたいなって思える作品になりました。素晴らしい作品と素晴らしいカンパニーを、ぜひ劇場で見ていただけたらと思います。
上山:とにかく見てほしいですね。何が起きるかは幕が開かなきゃわかりません。瑛士くんもいつも違うことをするし(笑)、その場で生まれたライブをすごく大事にお芝居されるので、そこに乗っかって、お客さんもすごい場所に連れて行きたいと思っています。
上川:テーマが「共鳴」で、1回1回新しく生まれていくと思うので、見落とさずちゃんとキャッチしていくのが課題かなと。あと、ミュージカルデビューの友くんと一緒に稽古しながら僕も色々学ばせていただきました。楽しかったし、これからも共鳴し合いながら深めて行きたいなと思っています。どこか謎解きのような作品でもあるので、何度も観にきてほしいですね。
ウエンツ:竜治と一緒で、とにかく来てほしいのが一番です。オリジナルミュージカルは何の情報もない状態でチケットを買わなければならず、すごく難しいと思います。でも、チケット代の価値があるし、それ以上のものを舞台上で産むとお約束します。未知なものに飛び込んでいただくためにも僕らは地に足をつけて、自信を持ってしっかりやって行きたいと思います。それでどうだったか判断していただく。また来たくなるようなお芝居や歌をやりますので、ぜひ一度来てください。
ゲネプロはウエンツ瑛士・上山竜治のペアが務めた。
物語は、80代になったエミール(ウエンツ瑛士)が美術館で絵を見ているところから始まる。気難しい雰囲気のエミールと、明るく軽いノリの介護士のやりとりがユーモラスだ。
彼の思い出をなぞるように時代が遡り、舞台は1960年半ば、画廊を営むエミールの父(戸井勝海)のオフィスに移る。絵の才能があるが自分の描くべきものやモチーフを見つけられずにいるエミール。「自分の絵を描け」という父と、自分の才能を信じられない息子のすれ違いが悲しい。苦しみながらも絵から完全に離れられずにいるエミールの心境を、ウエンツはまっすぐに届ける。
そんなエミールはある日、アンドレ・デジール美術館でデジールの絵画の魅力を来場者に伝えているジャン(上山竜治)に出会う。心から楽しそうにデジールの特色やそれぞれの絵のモチーフを語るジャン。美しいメロディと上山の軽やかな語り口によって、多くの人を魅了する名画が目の前にあるような錯覚を覚える。
また、何か熱烈に好きな人や物がある方なら、デジールについて語り合う2人の姿にも共感するはずだ。好きなものについて同じベクトルで語れる相手がいる喜び、相手の話に対する共感や新たな気付き。「この時代ならどの作品が好き?」という話で大盛り上がりする様子が可愛らしく、2人につられて笑顔になってしまう。
ジャンが絵画から受ける印象を繊細に言葉にし、それを受けてキャンバスに絵の具を重ねていくエミール。共同作業により、2人は本物と見紛うドガの「エトワール」を完成させる。だが、それによって贋作づくりに巻き込まれていき、やがて2人の関係も大きく変わっていく――。
会見でウエンツが語っていたように、キャスト8名とは思えないほど豊かで鮮やかなミュージカルに仕上がっている。「共鳴」をテーマに人と人の繋がりを感じさせる物語、印象的な音楽と美しい詞、シーンに合わせた様々なダンス、シンプルだが想像を掻き立てるセット。すべてが絡み合い、あたたかい物語を生み出していた。
あらすじを読むとシリアスな作品に思えるかもしれないが、思わず笑ってしまう楽しいシーンも多く、爽やかな印象を受ける上質なオリジナルミュージカルを、ぜひ劇場で見届けてほしい。本作は9月12日(火)、よみうり大手町ホールにて開幕。9月29日(金)からは大阪・サンケイホールブリーゼでも上演される。