舞台『醉いどれ天使』演出・三池崇史インタビュー! 黒澤明の名作の舞台化で「ライブ感があふれる舞台に」

2021/8/23 17:00

取材:記事・写真/RanRanEntertainment

日本をはじめ世界中に大きな影響を与えた名匠・黒澤明監督と、その多くの作品で主演を務めた三船敏郎が初めてタッグを組んだ映画『醉いどれ天使』が舞台化され、9月3日(金)から、明治座で上演される。本作は、戦後の闇市を舞台に、闇市を支配する若いヤクザ・松永と、酒好きで毒舌な貧乏医師・真田のぶつかり合いを描いた作品。三船が演じた松永を桐谷健太が、真田を高橋克典が演じる。演出を務めるのは、黒澤明同様、海外での評価も高い三池崇史。バイオレンスからコメディ、特撮テレビドラマまで多岐に渡る映像作品を手がける三池が、舞台演出に挑む思いを語ってもらった。

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――映画作品として非常に有名な『醉いどれ天使』を舞台化することを聞いた時は、どのように感じましたか?


この作品は、沼を中心とした闇市の物語なので、いわゆるワンセットドラマです。それは、ある意味、演劇に取り込みやすい設定とも言えるので、なるほどなと思いました。それから、これも運命なのだということは感じました。作品は、使命を持って勝手にむくむくと起き上がってくるんですよ。なので、今、舞台化されるという、そういう時なんだろうな、と。その上で、改めて映画を観てみると、登場人物たちの苦悩もリアルに感じられて、すごく今の時代にマッチしていると思いました。少なくとも僕には、「どうやって舞台化するのか」という不安は、始めにお話を聞いた時には感じませんでした。名作と言われる映画の力を借りて、リスペクトして、一映画ファンとして、今回の舞台化に取り組めるのは、すごく嬉しいことだと思っています。

――映画監督としても著名な三池さんですが、映画作品の舞台化については、どのような思いがあるのでしょうか?

今、この作品が蘇ることに、映画を作っている人間としては、やはり感慨深いものがあります。『醉いどれ天使』は、三船さんが脚光を浴びて、それによって黒澤明という監督の人生やその後の作品も変えていった作品だと思います。黒澤監督が、当時、何を思ってこの作品を撮っていたのかは、本人たちにしか、その時代を生きた人にしか分かりませんが、それが映像として残っていて、これほど時が経った後に形を変えて復活するというのは、同じく映画を作っている人間からすると、すごく嬉しいものです。

――形が変わってしまうことに対して寂しさがあるのかと思いました。

それは(映画監督それぞれの)考え方にもよるかもしれませんが、僕はないですね。作品というのは、作っている時は自分の監督作品として、自分のものとして作っていますが、完成して公開したら、それはもうお客さんのものですから。作品を観た人が、例えば舞台としてやりたいというのであれば、思うように作ることができる自由さがあると僕は思っています。もちろん、権利など現実的な問題はあると思いますが、作品を作ることは自由です。例えそれが失敗に終わっても、それを作ろうとしたということ自体は、作品をリスペクトしていれば素晴らしいことだと僕は思います。

――なるほど。では、映画版の『醉いどれ天使』の魅力はどこにあるとお考えですか?

闇市を華やかに描いていて、当時の人から見たら、ずいぶんモダンな世界に見えたと思います。さらに、闇市の中には沼があって、その先にいずれ失われていく風景だという郷愁もある。今は地獄のように見えても、後々になってみると自由で、僕らが子どもの頃に感じていた懐かしさもある作品です。

あの時代にあれだけの立派なオープンセットを使った撮影というのもすごいことです。実は、戦後3年目に作り上げている作品なんですよ。映画が公開された2年後には闇市は廃止になっているのですが、物語はおそらく戦後5年後くらいを描いています。つまり、近未来を描いているのですが、そこにあふれる復活への思いやエネルギーが色濃く滲み出ているのが、素晴らしいと思います。

――今回、舞台化にあたっては、蓬莱竜太さんが脚本を担当されました。舞台版の脚本をお読みになって、どんな印象を持ちましたか?

やっぱり蓬莱さんはすごい男だなと思いました。作品に対して真っすぐに向き合っているし、原作の映画に真っすぐに愛情を持っていて、「良いところ」を感じる感性を持っている人なんだと感じました。どうしても大人になると、悪いところばかり見てしまいがちで、それを僕らは、成長だとか、見る目が肥えたとか思ってしまいますよね(苦笑)。でも実際は、何も知らない子どもの方が面白いところを見つけ出す能力や感性があります。蓬莱さんは、そういう面白いところを見つけることができる視点や感性を持ち続けているんだろうと思います。しかも、そうして見つけたものを振りかざすわけでもなく、スッと差し出してくれる。本物だなと感じました。素晴らしい脚本を書いてくれたので、今度はそれを舞台上に展開できるかどうか、これからの僕の仕事だと思います。

――今現在は、その蓬莱さんの脚本をどう展開しようと考えていますか?

できるだけ時間の流れをシームレスに、暗転する間(ま)がなく次の芝居に移っていけるように舞台装置を考えないといけないなと思っています。転換するより芝居が先行し、後で場面が追いついてくるというような、一気に観せられないかなと考えています。

それから、脚本では、一人ひとりの人物が何を考え、何に苦しんで、何に喜びに感じているのか、非常に丁寧に書き込まれているので、それをどう凝縮して見せるのかも意識しています。特に桐谷くんが演じる松永は、あの時代の刹那的な瞬間に生きた人物であることが色濃く出ていますから、それをライブ感のある中で、余韻を持った人物に描き出したいという思いもあります。

――舞台を演出する面白さや難しさはどういったところに感じていますか?

(映画を監督するのと)一番違うのは、舞台の演出にはエネルギーが必要だということです。(映画では)俳優は、もちろんカメラを意識した演技をしているわけではありませんが、どうしても無意識のうちに、潜在的にそこにカメラがあることを感じ取っている。なので、全部のエネルギーをカメラに向かって発しているわけです。それをカメラマンは、カメラを通したファインダーで見ている。そして、僕らはその横で、もしくはモニターを通して見ているんです。そうすると、(俳優の)エネルギーが僕らには直接向かってくるわけではないんですよ。それゆえに、映画監督は、俳優の演技もそこで起こっていることも、客観的に見ることができます。ですが、舞台の稽古場では、まともに俳優のエネルギーが向かってきます。稽古場では、観客は演出する人間しかいませんから(笑)。なので、演出家がそれを受け止めなくてはいけない。俳優たちも、この舞台を引き受けるに当たって、それぞれの目的や目標があり、それらも含めてエネルギーをぶつけてくるんですから、それは相当大変だと思います(笑)。ただ、うまく自分の中にそのエネルギーを充電できる回路を見つけられれば、こちらもそのエネルギーを消費することによって、より強いパワーを得られるのかなとは思います。演劇の方たち、演出家の方たちはそうしているのではないでしょうか。僕には、そういう回路を持っているとしか見えないんですよね。そう考えると、映画とは力の使い方や場所が全く違うので、稽古が始まってみないとわからないところもたくさんあると思います。

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――桐谷さんは、今回、約12年ぶりの舞台出演となります。桐谷さんの松永には、どんなことを期待していますか?


桐谷くんは、映画版のまま、刹那に燃えるイメージがあります。映画の現場は、一瞬を積み重ねて作り上げるのですが、彼はその一瞬にすごく大きなエネルギーを出すことができる役者です。今回は、そのエネルギーを持続して、舞台に上がっている間、出し続けなければいけないし、それを毎日繰り返すという彼が今まで経験したことがない芝居になると思います。彼なりにきっと毎回、進化、または退化して変わっていくと思うので、すごくライブ感あふれる舞台になるだろうなと思います。

――真田役の高橋さんはいかがですか?

高橋くんは今、「だらしなく太る」のを目標に、不摂生な暮らしをしているそうです。役作りというほど作り込んでいるわけではないんでしょうが、自然とスイッチが入っている。真田は、ウエイトトレーニングをするような役柄ではないですからね。(本作の)製作発表で会った時も、スーツがギリギリだと言っていました(笑)。僕が「それは筋肉?」と聞いたら、「ううん、脂肪」って(笑)。それに対して、桐谷くんが演じる松永は研ぎ澄まされている役ですし、肺病を病んでいてナイフのような状態です。そのコントラストが面白いと思いますし、そのぶつかり合いが最高だと思います。

――最後に、公演を楽しみにしている方々に見どころとメッセージをお願いします。

かつての映画は時代的にも男性を中心に(物語が)描かれることが多く、女性は男性を支える役回りでした。ですが、今回の蓬莱さんの脚本では、女性も輝いています。非常にパワフルで魅力的で、女性の力強さもクローズアップされています。男の物語というよりも“男と女の物語”で、壮大なラブストーリーでもある。しかも、そのどれもが成就するわけではないのに、心が寂しくならない作品になると思うので、女性の方にもぜひ楽しんでいただけたらと思います。

――ありがとうございました。

舞台『醉いどれ天使』は、9月3日(金)~20日(月祝)に東京・明治座
10月1日(金)~11日(木)に大阪・新歌舞伎座で上演。


【原作】黒澤明 植草圭之助 【脚本】蓬莱竜太 【演出】三池崇史
【出演】桐谷健太 高橋克典 佐々木希 田畑智子 篠田麻里子 / 髙嶋政宏
【公式サイト】https://www.yoidoretenshi.jp

 

 

 

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