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2021年8月29日 17:00

KAAT新シーズン演目『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』演出家・シライケイタ×主演・玉城裕規インタビュー! 俳優の魅力が最大に溢れ出る作品

取材:記事/RanRanEntertainment・写真/オフィシャル

KAAT神奈川芸術劇場は長塚圭史が4月に新芸術監督に就任。2021年8月27日(金)より開幕したメインシーズン「冒」の1作目となる作・野木萌葱×演出・シライケイタによる『湊横濱荒狗挽歌~新粧、三人吉三。』(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび~しんそう、さんにんきちさ。)」。歌舞伎でお馴染みの河竹黙阿弥による『三人吉三』をモチーフにした、港町を舞台に繰り広げられるハートボイルド現代劇だ。出演は、玉城裕規、岡本玲、森優作、渡辺哲、山本亨、ラサール石井、村岡希美、大久保鷹、若杉宏二ほか。

演出のシライケイタと柄沢純(歌舞伎版・和尚吉三)役の玉城裕規に、本作にかける思いを聞いた。

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――まず、この企画をどのように受け止めて、どう取り組もうと思われたのかお聞かせください。

シライ:お話をいただいた時には単純に嬉しかったですね。KAATという劇場も好きだったし、同世代の演劇人の長塚(圭史)さんが芸術監督になって、「新しく一緒にものを作る仲間を探しているんだ」と、最初に誘っていただいて、一緒にやっていけるというのはとても嬉しいなと思っています。これまで白井晃さんが作られてきたKAATの作品のイメージとも違うし、僕が入っていくということは、何となく、劇場のイメージとちょっと違うのではないかと思っていて、だから精一杯やらせていただきたいです。

――古典の『三人吉三』が題材ですが、どう思われていますか?

シライ:よく僕のところに持ってきてくれたなと思っています(笑)。

不良の芝居ばっかりやっていたので…。僕は一回も自分で言ったことはないんですけど、社会派とかそんな風に言われて、“あ、そうなのかなぁ、社会派なんだ”と、社会方面をやったこともありましたけどね。自分のためにも歴史の勉強をしたり、社会問題を勉強したりしてやっていましたが、元々温泉ドラゴンは、ただの不良が集まって面白いことをやろうとした劇団でした。去年、玉城君も出てくれて、僕が10年前に書いた『BIRTH』は、親に捨てられた孤児たちがオレオレ詐欺をするという、まぁ悪い話だよね。

そういう“やんちゃ”なお芝居をやっていたので、『三人吉三』をやれるんだと思っています。アウトローの、すごくかっこいいじゃないですか。(野木萌葱さんが)どういう風に現代に置き換えるかまだわからないですけど、久し振りに大暴れしたい、そんな風に思いました。

玉城:僕はお話を聞いたのが、『BIRTH』をやらせていただいた時で、それはとても嬉しかったですね。『BIRTH』自体が、久しぶりの演劇だったのですが、その時には演劇っていいなと思いましたし、4人の役者同士のぶつかり合いがすごく楽しくて、自分が楽しいと思った『BIRTH』を見てくださって、お話をいただけるというのは、役者として幸せだなと思いました。ビジュアル撮影の時にも、シライさんは、ぐちゃぐちゃにしてやる、みたいな感じだったので、ぐちゃぐちゃになりたいです(笑)。その心の準備はばっちりしております。意味があるからこそ素敵な作品もあるのですが、無い美学もあると思っていて、いろいろと楽しみです。

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――シライさんは、昨年『BIRTH』をご覧になって、玉城さんにはどんな印象をお持ちですか?

シライ:10年前に僕が書いた本で、ほとんど初めて書いた本ですが、僕らはそもそも30代半ばでの作品だったのですが、それを20代の彼らがやるというのはすごいなぁと思いました。千葉(哲也)さんの演出で、すごく楽しみでした。僕が10年前にやっていた役を彼がやっていたんです。それもあって、かなり興味深く拝見したんです。

面白い役者だなぁと(笑)。

何だ、あれって思ったんです。どういう風に演技しているんだろうって、けっこう不思議だったんです。ストレートじゃないけれど、たぶん彼にとっては変化球で勝負しているつもりもないんだろうなという風にも思いました。玉城君にとってはすごくストレート。本人はまっすぐ投げているつもりでも、曲がって飛んでくる、すごい面白い俳優さんだと思ったんです。すごく興味を持って、千葉さんも「玉城、面白いんだよなぁ、何かあったら」という話をしていたんです。すぐ機会が巡ってきましたね。『三人吉三』のお話が来て、プロデューサーさんに「面白い俳優さんを最近見たんだけど・・・」と相談したら、すぐ見に行ってくれて声をかけたんです。嬉しいですよ。

――玉城さん、それを受けていかがですか?

玉城:ほんとに嬉しいですね。変化球を投げるつもりはないんですけれど、ストレートなんですけど。劇場が大きい分、より演劇で、エンタメ要素も多少なりとも大きくと思ったぐらいです。よく、経験豊富な演出家さん、監督さん、役者さんに、変だねって言われます(笑)。同世代からは変な声だね、と言われます。

シライ:声はね、すごく独特じゃないですか。これも武器です。

玉城:そうですね。年上の皆さまにはそう言っていただけますし、僕の中では喜んでいるんですけど、たまに違う意味で言われている可能性もありますけど。

シライ:でも、変っていうのは必要な要素だと思う。みんな、はみ出しちゃいけない、変わったことしちゃいけないんじゃないかという、特に、若い俳優さんは、そうですね。だから、「もっとやっていいんだよ」と言うことが稽古場では多くて、「やり過ぎなので抑えてください」と言う方が楽で、そういう風にものを作りたいんだけど、なかなか若ければ若いほど萎縮してしまったりしてできないですね。だから、俳優さんにとっては、変っていうのはとっても大切な武器だと思う。

玉城:今回、初めましての方が多いんですけど、みなさん変な可能性があるんです。

シライ:やばい(笑)

玉城:絶対そうですよね。

シライ:そういう人ばっかりな可能性がある。

玉城:トレーラー見て思いました。みんなやばいって(笑)

シライ:猛獣ばっかりかもしれない。

玉城:僕はいたって普通にみえるかもしれない。

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――撮影の時は岡本玲さんや森優作さんとお話されましたか?どんな雰囲気でしたか?

玉城:楽しかったです。演劇の話だったり、もちろんコロナの話だったり、いろいろとお話させて頂きました。撮影自体が独特だったので、とても高揚感がありました。

――元になっている『三人吉三』の物語についてはどのように捉えていらっしゃいますか?

シライ:あるアウトロー、社会の底辺に近いところで生きている人たちが、必死に生きようとしている物語で、すごく強いエネルギーのある物語だなと思います。

――玉城さんはどういう物語だと捉えていらっしゃいますか?

玉城:『三人吉三』は拝見はしていないのですが、内容はいろいろ読ませていただいています。今回は現代版ということですが、(歌舞伎の演目)当時の方が、僕の勝手な意見ですが、人間としての生命力が高い気がするんですね。その時に描いた人間模様、生きるためにということを現代に持ってきた時に、より熱量、人間力を増さないと成立しないのかなと思うので、全身でぼろぼろになってもいいぐらいの声、覚悟で挑みたいと思います。化け物揃いのカンパニーだと思いますので。

――『三人吉三』をご覧になっていないというのは?

玉城:僕は作品を観ると、それがずっと頭に残ってしまうので、それこそイメージが強すぎて、自由になれない瞬間っていうのがあるんです。再演の場合も、初演を見てしまうと、それに引っ張られて、それが脳裏に焼き付いていて、僕の変な部分というのが消えてしまうという感じがあるんです。

――内容を読んでみて、和尚吉三はどんな役だと思われていますか?

玉城:三人(和尚吉三、お嬢吉三、お坊吉三)の中では、人情に溢れる方なのかなと思います。(和尚吉三)は仲裁するのですが、僕個人は仲裁派ではなくて、見て笑っている側なので(笑)、これからどうなるのか、そこは自分との闘いかなと思っています。

――役どころを捉えて、実際に柄沢純(歌舞伎版では和尚吉三)として、ビジュアル映像とトレーラーの撮影に臨まれたと思いますが、どのような感触を得られましたか?

玉城:世界観が、撮影のスタイルから溢れ出していたので、それに楽しく乗っからせていただきました。作品の内容がまだわからない中でも、世界観があって、そこに飛び込んで、影踏みをしたり、ルールもわからずにハンカチ落としをやったり。全くわからずにやる、混沌とした感じであったり、いい意味で縛りがない感じというのは、すごく楽しかったです。ほんとにこれからの稽古が楽しみですね。

――3人のトリオ感というのはいかがでしたか?

シライ:トリオ感(笑)?トリオ感はすごくいいなと思いました。楽しそうだったし、この3人と作れるのはすごく楽しみだなと思いました。

――一人一人についての印象をお聞きしたいのですが?

シライ:岡本玲ちゃんは、可愛くて、素敵な女優さんだと思いました。すごく芯が強そうな方なので、お嬢吉三を演じるには、そういう部分を存分に出してもらったらいいのではないかなと思っています。もともとは男の役だから、それを女性がやるので、玉城君と森君と、どういう風にわたり合うのか楽しみです。森君はほんとに朴訥とした素朴な雰囲気がすごく素敵で、三者三様、話していてとっても面白かったですよ。

――森さんはお坊吉三としてどういう活躍をしてくれそうだと思いますか?

玉城:想像つかないです。

シライ:どういう風になるんですかね。もちろんこの3人もそうですが、先輩たちもアングラ劇団出身の人だったり、小劇場だったり、テレビを中心に活躍をしている人たちだったり、ごちゃごちゃなので、どういう風に化学反応起こすのかすごく楽しみですね。僕が一つの世界観とか、型にはめたりしないように存分にめちゃくちゃやって欲しいなと思います。

――玉城さんから見て、岡本さん、森さんの印象はいかがですか?

玉城:玲ちゃんとは二作品にご一緒していて、最初は『私の頭の中の消しゴム』という作品の朗読劇だったのですけど、夫婦役だったのですが、プライベートで話す時間はなかったんです。シライさんがおっしゃっていたように、芯の強い方だなという印象でした。その次に『カレーライス』という作品でご一緒しました。玲ちゃんもいろいろな作品に出られているので、どのぐらい女優として化け物化しているのか、対峙するのに怖い部分でもあるし、楽しみな部分でもあります。森君はビジュアル撮影で初めましてだったんですけど、映像が多い方ってほんとに、すごい引き込まれる瞬間というものがあるんです。その要素を、会った瞬間に感じてしまってそれが舞台上でどういう風な形で表れてくるのか、すごく楽しみですし、あの空気感は僕はとても好きですね。その空気感になりたいです。

――森さんと会った瞬間に引き込まれたというのは?

玉城:理屈じゃなくて、空気感ですね。めちゃめちゃわかりやすくいうと、“映画”みたいな“邦画”っていう感じが伝わってきて、僕、映画が好きだったりするので、あ、素敵、とは思いました。憧れます。

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――スタッフにアクション指導の渥美博さんのお名前も入っていたのですが、今回はアクションシーンも見どころになってくるのでしょうか?

シライ:そうですよ(笑)。アクションシーンは最大の見どころです。

渥美博さんという人は、僕がまだ若い二十代のころから、お世話になっている兄貴分みたいな人です。僕も俳優として何回も渥美さんの殺陣を経験していて、演出家になってからもいつか渥美さんに殺陣をお願いしたいなと言っていました。でも日本を代表する殺陣師ですからね、なかなか機会もなくて、でも何回かお願いしています。渥美さんに頼むと、そのシーンが、ただのアクションのシーンじゃなくて、すごいドラマを与えてくれるんです。『三人吉三』をやるんだったら絶対に殺陣のシーンが入ってくるはずなので、渥美さんにお願いしました。

――玉城さんは、アクションシーンが見どころになるとしたらどのようにやりたいですか?

玉城:殺陣とかアクションはけっこうやらせていただいていて・・・、

シライ:めちゃくちゃ動きます。

玉城:でも殺陣の方が、僕は好きではあるのですけど、今回現代の中で、急に日本刀が出てくるのか?僕も渥美さんと一回やらせていただいたことがあって、役を考えて殺陣付けしてくださるので、お任せしておけば間違いないという感じですね。ついて行くだけです。

――玉城さんは映画でも、演劇でもご活躍されていますが、役へのアプローチの仕方に違いはありますか?

玉城:最初の現場は映画だったのですが、そこからずっとやっていなくて、先輩にアドバイスをいただいたら「変わらないよ。感情があれば、その場にいれば」と言われた時に、すっと落ちつきました。どれだけ芝居が大きくても、どれだけ声が小さくても、感情さえあればきちんと見えるのかなと今は考えています。作品によってもいろいろ変わると思うので、その時その時の監督さん、演出家さんの空気感を見ながらそこは敏感にアンテナを張るようにしていますね。

――今回の舞台に向けて、準備していこうとしているものは何かありますか

玉城:ま、勝手にですけど、酒をずっと飲んでいようかなと(笑)

シライ:止めているのかと思った。

玉城:逆に、ちょっと自分という人間を腐らせてみようかなという風に考えていますけど、台本を見て間違ったなと思ったら、変えます。ほんとに台本が楽しみです。シライさんが、めちゃくちゃにするとおっしゃっているので、そうなると思うので、そのめちゃくちゃな人間ドラマをすごく楽しみにしています。めちゃくちゃと聞いて、酒浸りになろうと、安易な考えでありました(笑)

――(芸術監督の)長塚圭史さんが、「今回は、劇作家と演出家を敢えて分けました」とおっしゃっていたのですが、そのことはどのように捉えていらっしゃいますか?

シライ:僕、どっちでもいいと思うんですよ。どちらがいいということではなくて、同じ人間が脚本・演出を兼ねるということの強みもあるし、もちろん別の人がやる意味もあるし。今回は別の人間がやるので、より純粋に作品世界に客観的に向き合えるかなという気がしています。特に、僕の年齢って演劇が大きく変わる狭間で、僕が先輩たちから受けてきた影響と、僕らが下の世代に見ている演劇って、ちょっとイメージが違うんですよ。

――イメージが違う?

違います。だいぶ違いますね。先輩たちにも作・演出家で大活躍している人もたくさんいますけど、その時代よりももっと今の方が、作・演出を兼ねる人の存在感が大きいと思うんです。それは相対的に俳優の存在感が小さくなっているという風に思うんです。かつては、作・演出を兼ねている人が、野田秀樹さんだって、唐十郎さんだっていたのですが、役者がもっと目立っていた。でも今の時代は、作・演出家の名前ばかりが目立って、俳優が出てこないというのが、若い世代の演劇にすごく言えると思っていて、この20年で日本の演劇界は看板俳優という言葉が消えたと思っているんです。看板はすべて作・演出家。だから、これは由々しき問題だなと、僕の好きな演劇からすると残念だなと思っています。だから今回は、俳優の復権とか、演劇が元々持っている魅力を引っ張り出すチャンスなんじゃないかなと思っています。作、演出家、別々の意味というのは大きくそこにあると思うし、つまり、僕が僕の世界観を作ろうと思っても無駄で、俳優のすばらしさ、俳優が作品を作る、世界を作るんだ、役者ってこんなに面白いんだということも含めて、めちゃくちゃにやりたい、そういうことです。

――役者さんを目立たせたいということですね。

シライ:もちろん、それしかないです。そもそも僕が演出をやっている最大の理由、演出家として何が見たいかといったら、俳優さんが見たいんです。シライとやる時のこの人が一番生き生きしているね、と言われることが演出家にとって最大の誉め言葉だと思っています。そういう風に言ってもらうことが多いです。だから今回もきっとそういう風になりますよ。俳優さんの魅力が最大に溢れ出る作品になると思います。

――ありがとうございました。

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『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』
(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび〜しんそう、さんにんきちさ。)

日程:2021年8月27日(金)~9月12日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
作:野木萌葱
演出:シライケイタ
出演:玉城裕規 岡本玲 森優作
   渡辺哲 山本亨 ラサール石井
   村岡希美 大久保鷹 筑波竜一 伊藤公一 那須凜 若杉宏二
アクション:渥美博
舞台監督:足立充章
企画制作・主催:KAAT神奈川芸術劇場
公式サイト https://www.kaat.jp/d/minatoyokohama

■歌舞伎作品「三人吉三」(さんにんきちさ)とは
河竹黙阿弥作。『三人吉三廓初買(くるわのはつがい)』として1860年初演されたのち、『三人吉三巴白浪(ともえのしらなみ)』と題名を変え、人気狂言となり現在でも上演されている。和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三という三人が節分の夜に出会い、因果に巻き込まれていく物語。江戸の市井の人々の暮らしの中にあるドラマを描いた世話物(せわもの)を代表する演目のひとつ。盗まれた名刀庚申丸と百両をめぐって、次々と糸がからまるように3人を引き寄せていきます。悪事を重ねながら生きるアウトローを主人公とした作品は「白浪物(しらなみもの)」と呼ばれ、昔も今も観るものの心をつかみます。

 

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