取材:記事・写真/RanRanEntertainment
田中哲司、松田龍平ほか豪華キャストを揃えたKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『近松心中物語』が9月4日(土)に初日を迎え、その前日には公開ゲネプロが行われた。
横浜出身の劇作家・秋元松代の名作戯曲で、故・蜷川幸雄が1979年に帝国劇場で上演され、大ヒットを記録した伝説の作品が、この4月にKAAT新芸術監督に就任した長塚圭史の演出により、秋からのメインシーズンの幕開けとして上演される。
オープニング
配役は、亀屋忠兵衛を田中哲司、傘屋与兵衛を松田龍平、忠兵衛が一目惚れする遊女梅川を笹本玲奈、与兵衛の妻・お亀を石橋静河。そのほかに朝海ひかる、石倉三郎など。
物語は元禄時代、大坂・新町(遊郭街)。梅川(笹本)に出会ったが故に、その身請けのために公金に手を出して、梅川とともに追われる身になってしまう亀屋忠兵衛(田中)と梅川。そして、梅川の身請けの金を無心され、勝手に店の金に手をつけ、やはり追われる身となってしまった傘屋与兵衛(松田)とその与兵衛に心底惚れ抜いた女房のお亀(石橋)。境遇の違う二つの恋の情景を描いた本作を、格差を問われる現在にも響く普遍的な戯曲として捉え、俳優とともに台詞の魅力を紐解きながら、長塚版の新たな近松心中物語を創りあげる。
そして、音楽にはスチャダラパーの曲を採用することで、元禄から現代に近づけ、より親しみやすい雰囲気を醸し出している。
舞台装置以外にほとんど何もないシンプルな舞台に、リズミカルな音楽。心中というテーマだが全く憂鬱になることなくストーリーが進んでいく。忠兵衛と与兵衛の出会いは五十両という大金を無心するシーンのみ。与兵衛は忠兵衛にポンと貸してしまい、田中と松田の緊迫するようなシーンは全く無し。それ以外は二組のカップルに関わるストーリーが交互に進んでいく。途中、笑いがこぼれるシーンもあって、休憩無しの全4幕、2時間30分を全く退屈することなく、身を焦がすようなラブストーリーを楽しむことができた。
上から①忠兵衛と梅川の出会いのシーン、②忠兵衛が与兵衛に無心するシーン
③身請けが決まって忠兵衛と梅川が抱き合うシーン
④与兵衛とお亀が会話するシーン。どんなに惚れ抜いているかを訴えるお亀
⑤勘当された与兵衛がお亀を呼び出し、二人で逃げるシーン
以下、スタッフ、キャストからのコメント
長塚圭史(演出) コメント
肉体が純粋渇望するもの。
『近松心中物語』は大坂新町の見世女郎梅川と飛脚宿の養子忠兵衛の叶わぬ恋を発端に描くドラマです。ふたりは出会い、恋の炎が燃え上がりますが、金に行き詰まり、とうとう身を捨て、社会の枠組みから飛び出します。
秋元(松代)さんは身分制度のあった江戸時代の社会を、味わい深い台詞で紡ぎます。見世女郎よりも更に身分の低い、河原で客を取る辻君にも今夜帰る家があること。丁稚の長松や九作は幼いながらも親元を離れ、仕事をして、ご飯を食べていること。不機嫌な小役人にも女房が待っていること。皆、生きる為に、働いて、眠り、暮らしています。そんな当たり前の日常からはみ出していく忠兵衛と梅川。例えどんな地位であれ境遇であれ、私たちは人間であることを求める。心中とありますが、死は生を鮮やかに照らします。
このエネルギーが現在の皆様に届けばと思います。KAAT神奈川芸術劇場でお待ちしております。
スチャダラパー(音楽) コメント
最初に長塚圭史氏から聞いた感想(近松心中物語を、セットも極力シンプルに、少ない役者達で最後はスチャダラのラップがかかって終わる)が、本当に言ったとおりの形になったのだから感無量です。
田中哲司(忠兵衛) コメント
もう少しで舞台初日です。
でも、いつ中止になっても悔いの無いよう、舞台稽古の一回一回を本番のつもりでやっています。なので、これまでの舞台とは恐らく本番の重みが違います。
今回、完成しつつある長塚圭史君の作り上げた『近松心中物語』はシンプルな装置の上で、個々の役者がさらけ出される舞台です。誰一人として気を抜けない舞台で、それに負けないよう皆頑張っています。
今回の舞台、僕は好きです。
こういう状況なので、大手を振って観に来てくださいとは言えませんが・・・・・大変な中、観に来てくださった方の心を少しでも揺さぶること事が出来るよう頑張ります。
松田龍平(与兵衛) コメント
明日(9月4日)から近松心中物語を公演します。現代から江戸時代へ、心を重ねて観てもらえる作品だと思います。その時代を生きる人々と、その中で、心中することでしか結ばれることができなかった男女の物語をぜひ劇場でご覧ください。
長塚さんをはじめスタッフ、役者一同、力を合わせて舞台を盛り上げていきますので、お楽しみに。
笹本玲奈(梅川) コメント
稽古では、忠兵衛、与兵衛、梅川、お亀をはじめとする登場人物たちが、いまよりも自由が制限されている時代背景、生活環境、身分制度の中で、それぞれが一生懸命に生き抜く姿に心動かされ、愛おしさが増す毎日です。
時代が違えば良かった事、時代が違っても変わらない事、シンプルなストーリーですが、さまざまな視点から見て楽しむことができる作品です。
現代では日常で使われない美しい日本語と、梅川の芯にある強さと愛情深さを大切に、心を込めて演じたいと思います。
石橋静河(お亀) コメント
日々の稽古でお亀という女性に向き合いながら、何か果てしない可能性のようなものを感じています。毎日新しい発見があり、幕が開いてからもきっとたくさんの気づきがあるんだろうと思います。改めて、素敵な役と出会えたことを有り難く感じています。
廓の街の華やかさ、儚さを目で耳で、楽しんでいただきたいです。また、お亀・与兵衛の可笑しくも切ない恋のゆくえを見守っていただけたら嬉しいです!
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『近松心中物語』
2021年9月4日(土)~20日(月・祝) KAAT神奈川芸術劇場 ホール
地方公演
北九州公演:2021年9月25日(土)・26日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
豊橋公演:2021年10月1日(金)~3日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
兵庫公演:2021年10月8日(金)~10日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
大阪公演:2021年10月13日(水) 枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール
松本公演:2021年10月16日(土)まつもと市民芸術館 主ホール