取材:写真/RanRanEntertainment
「近代演劇の父」と称されるヘンリック・イプセンの名作『野鴨-Vildanden-』が9月3日(土)から東京・世田谷・パブリックシアターにて開幕する。開幕日の午後、プレスコールと取材会が開催され、取材会には主演の藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)をはじめ、忍成修吾、前田亜季、浅野和之の主要キャストが登壇した。
左から)前田亜季 忍成修吾 藤ヶ谷太輔 浅野和之
今回ストレートプレイで「近代演劇の父」と称されるヘンリック・イプセンの名作『野鴨-Vildanden-』に挑戦した藤ヶ谷。
「この劇場、イプセンの作品、上村さんの演出と、全てが初めてなので、自分の中ですごく『挑戦しているな』という気持ちと、挑戦させていただける環境があることは本当にありがたいです。この作品はすごく難しく思われるかもしれませんけど、現代に通じる要素が沢山入ってますので、しっかり観ていただければ。そのためには我々も、しっかりとこの繊細なお芝居をお届けしなきゃいけないんだなというドキドキと興奮と、ちょっと怖さといろいろ入り交じっているところです」と挨拶。
初めて挑む古典作品のストレートプレイに「いつもと違う緊張感があります。初日っていうのもありますし、長い時間の会話劇なので、昨日は台詞を飛ばす夢を見ました。もう今最悪の状態でございますけど、でもその時は、夢の中ですけど、どうしようとアタフタすると言うよりは、キャリアの豊富な先輩方がステージ上にいらっしゃいますので、先輩方にどうにかしていただこうとストンと立っている感じだったので、正夢になった際には是非フォローの方を宜しくお願いします。(笑)」と笑いを交えながら告白。今回の芝居の難しさや、繊細さは、ベテラン勢にも緊張感をもたらすらしく、次に挨拶した忍成や浅野も「僕がどうかなった時は助けてくださいね」と藤ヶ谷に返し、会場は笑いに包まれた。
今回藤ヶ谷が演じるグレーゲルスは、「真実を伝えることこそが正義」だと独善的な正義感を振りかざすタイプ。取材会でも周囲への気遣いを見せる藤ヶ谷とは全く違ったタイプの役どころに「自分自身にとっては(ランキングの)上位にくるくらい苦手なタイプなんですけど、でもきっと自分の中でも無意識に正義感を振りかざしている部分があるんだろうなということも考えました。だから演っていて凄く難しいですけど楽しいです。」と前向きなコメント。「僕は表現するってことをやり続けたいので、いろんな作品や演出家の方と出会って、自分を変えていただきたいですし、自分の新たな一面というのを観てみたいなというのがずっとあるんです」と話す藤ヶ谷にとって新たな自分発見という舞台になっているのだろう。
苦手なタイプを演じるにあたって「参考にした人は?」という質問には、「それは、ちょっと、ノーコメントで」と言ってから笑い出し「いや、いないです。本当に」と会場を沸かせていたが、今回の役作りについては、2021年度読売演劇大賞演出家賞を受賞した戯曲の面白さを最大限に引き出す演出家・上村聡史が鍵を握っていたことが取材会で明かされた。ベテランの浅野が「テーブル稽古も通し稽古も普通はこんなに時間を取れない」という程に、繊細に折り重ねるように舞台を組み立てて行く上村の手法。藤ヶ谷は「テーブル稽古を一週間ぐらいやらせていただいて、台本に書かれていないこと、例えば年齢差はどうなのかとか、久しぶりに会ったシーンなら会う前はどこにいたのかとか、そういう中で、自分の役を自分で作ったというよりは皆様の意見を聞きながら咀嚼しながら皆様と一緒に一人ひとりのキャラクターを作り上げていけた新しい体験でした。すごく楽しかったです。上村さんから『今の台詞はどういう気持ちでおっしゃったんですか』と聞かれて、しっかり答えられる部分と、あっ、そこ突かれたなという部分があって、もの凄く深く深く理解しなければいけないのと、理解した上で表現しなければいけないので、台本の大切さを改めて感じました」と新たな手法に出会えた喜びを語っていた。
「藤ヶ谷さんは、稽古場ではすごく真面目、真剣に取り組まれている」と話す前田だが、通し稽古のあるシーンで『ちょっと色気が漏れすぎていたからここはちょっと押さえて』と上村が藤ヶ谷にダメ出しがあったことを暴露。
「(色気があると言われることは)すごく嬉しいことですが、自分でコントロールできるものではないので。色気を出している自覚は全くないですね。稽古場で色気を出していたら「あいつ、稽古場に何しに来てんだ」って言われちゃいますからね。僕の役はある意味美しさみたいなものが必要なキャラクターでもあるので、普段の色気をちょっと落とした状態で皆さんにお届けできればな」と回答。リポーターから「普段の何割ぐらいですか?」と突っ込まれ「けっこう落とすと思いますね。普段が凄く高いので(笑)。20とかですかね。それでも皆さんに届くと思いますので。」とリップサービスを交えながら答えると、横にいた浅野に「調子に乗るなよ」と突っ込まれ、会場は爆笑の渦に包まれた。それでも浅野は「色気は確かにありますね。もう彼しか観てないんじゃないですか?この辺の(前列を指しながら)お客さん」と藤ヶ谷の溢れ出る色気を認めざるを得ないようだ。
終始なごやかなムードの取材会だったが、稽古では、浅野によると「こんな静かな稽古場は初めて」と言わしめる静けさがあるそうだ。それがこの舞台の難しさを物語っているのかもしれない。そんな緊張から解き放たれる藤ヶ谷のリラックスタイムは「稽古場ってずっと室内にいるし、グループの仕事も大体スタジオとかなのでなんかちょっと解放されたいなと思って、休みの日、ひさびさに一人で車に乗って海を見に行きました」。しかしそのドライブ中も「稽古の時の音声を聞いていたので、結局オフれてないんですね」と絶賛『野鴨-Vildanden-』に没頭中だ。
忍成が「作品はとても素晴らしいものができあがっていて、僕も観てみたかったなぁ」という程の出来映えという舞台。幕が上がる瞬間の期待度もMAXとなりそうだ。
【公演情報】
舞台『野鴨-Vildanden-』
東京公演 9月3日〜18日 世田谷パブリックシアター 兵庫公演 9月21日〜25日 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール