取材・撮影/RanRanEntertainment
太宰治が昭和16年に書き下ろした長編小説『新ハムレット』。シェイクスピアの四大悲劇のひとつ『ハムレット』の設定はそのままに、日本人が共感できる物語に仕上げたユニークな作品だ。PARCO劇場開場50周年記念シリーズとなる今回、演出を手掛けるのは第30回読売演劇大賞の最優秀演出家賞を2月に受賞した五戸真理枝。そして、PARCO劇場で初主演を務める木村達成、島崎遥香、加藤諒、駒井健介、池田成志、松下由樹、平田満と個性豊かな実力派が顔を揃えた。
初日前の会見では、木村が「ハムレットという役を通して、どこまで太宰治の気持ちをお届けできるか。台本を読んでいろいろなことを考えながら稽古しました。たくさんの人に楽しんでもらえるように頑張りますのでよろしくお願いします」と意気込む。
島崎は松下をはじめとする先輩たちからたくさんのアドバイスをもらいながら稽古に打ち込んだと話し、「無駄にならないよう、千秋楽まで突っ走っていきたいです」と宣言した。加藤も池田には特に支えてもらったと言い、「不安で押しつぶされそうなところを救っていただいたので、この作品を最後まで完走できるようにみんなで積み上げていきたい」と初日を前に涙。キャスト陣から「千秋楽みたい」と愛のあるツッコミが入る。
続く駒井は「本当に周りくどい台詞がたくさん。すごく苦労して形にしました。固くなりすぎずに頑張りたい」と語り、池田は「これはとても問題作だと思う」と話す。緩急のついた台詞や展開、大量の台詞に観客が呆れて眠ってしまわないように頑張りたいと意気込んだ。
松下は、本作は今までにない『ハムレット』に仕上がったと自信を見せ、「シェイクスピアをちょっと遠くに感じている方にも身近に感じてもらえるはず」とアピール。平田はポップな雰囲気の衣装に触れ、「衣装も童話のようですが、非常に現代的なやりとりもあります。お客様が入って完成するのが不安ですが楽しみ」と笑顔で語った。
演出の五戸は「今回、137ページ中133ページは太宰の言葉で構成しています」と明かす。稽古は太宰が一つひとつの文に込めた読者への思いや愛が感じられる作品を、舞台としてどう立体化するか試行錯誤する作業だったそう。2時間50分ほどの上演時間で「歪な愛を受け取っていただけたら」とメッセージを送った。
続いて、お気に入りの台詞を聞かれると、木村は「言葉がなくなりゃ同時にこの世の中に愛情もなくなるんだ」を挙げ、「伝わらない愛は中々受け取れない。できるだけ伝えてほしいというのが、今の木村達成でありハムレットの気持ちです」と語った。駒井も「愛は言葉だ」と言う台詞を挙げて、周りくどい言葉の裏にある愛情を感じながら演じたいと意欲を見せる。
島崎は父・ポローニヤスの「心得」とホレーショーの「そんなにまともに敬愛されると、取り柄のない僕みたいな子供でもしっかりやろうと思うようになります」が好きと語り、加藤はハムレットの「ああ、ホレーショーに会いたい!」という台詞で毎回嬉しくなると話す。
松下は、これまでのシェイクスピア作品のイメージを変える「あなたもハムレットそっくりね」という台詞を何かあった時に言いたくなると挙げ、平田は「強くなれ、クローヂヤス」を胸に芝居をしていると話した。五戸は何度も試行錯誤したラストの一言が印象深いと語る。
また、今回劇中でハムレットがラップに乗せて心情を吐露するシーンがある。木村は「すごく早口なので、ブレスができなくて苦しいです(笑)。ラップでハムレットの脳内の言葉たちがばーっと出てくる表現はすごく面白いと思いました。木村達成が演じるハムレットならやりかねないと思われるような形で表現できたらいいなと思います」と、気負いすぎずに挑みたいと明かした。
最後に木村は、お客様に向けて「共感できるポイントがたくさん詰まっていますし、愛や誰かを思いやる気持ちで成り立っている舞台。原作の『新ハムレット』、シェイクスピアの『ハムレット』を読んだ方は違いも楽しめるはずです。長台詞もありますが、そこすら魅力に感じる作品になっていると思います」と締め括った。
続いてゲネプロが行われた。舞台上には王宮らしい椅子と共にスタンドマイクやラジカセ、木箱が置かれており、ハムレットの世界に和や太宰の要素が盛り込まれている。デンマークの王室を舞台にした話だが、衣装や小道具に日本的なモチーフが使われており、不思議な魅力を醸し出している。
木村演じるハムレットは、シェイクスピアの作品では憂いを帯びた悲劇の王子だが、太宰が描く彼は大人になりきれず周りを困らせる青年といった雰囲気。木村は傷付きやすく身勝手だがどこか愛嬌があって憎めない王子を好演している。台詞と表情から心の揺れや周りの人々への愛情、甘えが伝わってきて、面倒臭い人だと思いつつ親しみを覚えられる。
そんなハムレットを厳しく叱る母・ガーツルード(松下)や、彼女を宥め、ハムレットとなんとかうまくやろうとする叔父であり義父のクローヂヤス(平田)、ハムレットの気性に呆れつつ彼を一心に愛する恋人・オフヰリヤ(島崎)、気のおけない親友のホレーショー(加藤)といった人々とのイキイキとした対話やすれ違いは、古典をぐっと身近に感じさせる。
ハムレットの反抗や苦悩、ガーツルードやポローニヤス(池田)の親としての思い、ハムレットやレヤチーズ(駒井)やホレーショー、オフヰリヤの親や友人、恋人に対する気持ちなど、それぞれの登場人物に何かしら共感できるポイントがあるのも魅力だ。
PARCO劇場やキャスト、クリエイター陣のファンはもちろん、シェイクスピア作品は難しいと考えている方、太宰が描く人間が好きな方も存分に楽しめる作品だと言えるだろう。
PARCO 劇場開場 50 周年記念シリーズ
『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』
東京公演 :2023年6月6日(火)~6月25日(日) PARCO 劇場
福岡公演 :2023年7月6日(木) 13:30開演 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
大阪公演 :2023年7月9日(日) 13:00開演 森ノ宮ピロティホール