2013年9月2日(月)、李相日監督の最新作「許されざる者」。9月13日の公開を前に、ジャパンプレミアが東京国際フォーラムで開かれた。
この作品はクリント・イーストウッド監督、主演として制作された伝説的な映画「許されざる者」が時代を明治維新後の明治初期、舞台を北海道に移し、今の日本映画界を代表するスタッフ、キャストが集結して、李相日監督に手によって、時代の変化に翻弄された男の生きざまと仲間だという男の人生の結末、対決するもう1人の男の人生、そして、男たちに翻弄される女たちの悲しみ、アイヌの血を引く若者の悲しみ、それらを描いて2013年新たな「許されざる者」として生まれ変わった。
そして、第70回ベネチア国際映画祭、第38回トロント国際映画祭、第18回釜山国際映画祭という名だたる国際映画祭に正式出品される。日本ならず、世界で注目を集める作品だ。
李相日監督は「69 sixty nine」(2004)で監督メジャーデビューをしてから、これまで「フラガール」(2006)、「悪人」(2010)とその作品を発表するごとに大きな注目を集めてきた。今回はハリウッド作品をどのようにリメイクするのか、期待でワクワクする人も多いことだろう。
また、主演には渡辺謙(釜田十兵衛役)を迎え、佐藤浩一(大石一蔵役)、柄本明(馬場金吾役)と、がっつり対峙する。そして、柳楽優弥(沢田五郎役)、忽那汐里(なつめ役)という若手も。さらに小池栄子(お梶役)、國村隼(北大路正春役)、小澤征悦(堀田佐之助役)、三浦貴大(堀田卯之助役)、滝藤賢一(姫路弥三郎役)、近藤芳正(秋山喜八役)と若手からベテランまで日本映画には欠かせない俳優陣が集結し、主役、脇役の枠を超えて、それぞれの存在感を十二分に映像に残している。
そこに「血と骨」(日本)、「レッドクリフPart1」(香港)、「殺人の追憶」(韓国)など世界の数々の映画音楽を手がけてきた岩代太郎の重厚な音楽が映像にさらなる奥深さを加えている。
このジャパンプレミアには李相日監督をはじめ、キャストが登壇した。
まず、佐藤浩一と柄本明が1階席の左右の中扉から姿を現し、客席を埋めた観客に丁寧に挨拶をしながら会場中央に用意されたレッドカーペットに向う。そして、なんとライトが2階席に。渡辺謙は2階席から登場。これは彼のたっての希望だという。次にオーケストラピットが競りあがってくる。そこには柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、國村隼、滝藤賢一、小澤征悦、三浦貴大らが揃っている。最後に1階席の後方から渡辺謙にエスコートされるように李相日監督が登場した。思いがけない登場に観客からは大きな拍手と歓声があがった。そして、監督、キャストの顔には苦労した作品がこの日、お披露目できることに満面の笑みが浮かんでいた。
まず、一言ずつ、挨拶を。
渡辺:今日、本当にありがとうございます。ここにいるメンバーだけでなく、多くのキャスト、スタッフ、そして、何よりも李相日監督の魂が詰まった作品です。よくお越しいただきました。ありがとうございます。
佐藤:こんばんは。ようやくこうして皆さんに観ていただくことができました。とても皆さんの反応が楽しみです。今日は2時間15分楽しんでください。
柄本:こんな大きな劇場でこんなにもたくさんのお客さま、本当にありがとうございます。李相日監督の3年ぶりの「悪人」以来の作品です。映画です。よろしくお願いします。
柳楽:本日はありがとうございます。こうして皆さまの前に立ててとても幸せを感じています。ありがとうございます。
忽那:今日はこんなに多くの方にご来場いただきまして、本当にありがとうございます。すごくうれしく思います。今日はぜひこの映画を楽しんでいってください。
小池:こんばんは。今日はこんなにたくさんの方に足を運んでいただきまして、本当に感動しています。本当にありがとうございます。とても重厚感のある骨太の映画に仕上がったと思います。スタッフ、キャスト本当に戦友です。最後まで楽しんで帰ってください。ありがとうございます。
國村:こんばんは。「許されざる者」ジャパンプレミアにようこそ。ここで皆さんにお会いできて本当に幸せです。映画、楽しんでください。
滝藤:こんばんは。本当にこの場に立つことが奇跡というか…。うれしいです。皆さん、楽しんでいってください。
小澤:皆さん、こんばんは。今回「許されざる者」本当にすばらしい作品だと思っています。参加できて光栄です。皆さんもこれから<本物>を観ることになります。よろしくお願いします。
三浦:皆さん、こんばんは。こんなにたくさんの皆さんに映画を観ていただけるのが、本当に幸せです。今日はぜひ楽しんでいってください。ありがとうございます。
李:こんばんは。この映画の誕生に立ち会っていただきまして、ありがとうございます。このメンバーとこうしてこの場に立てることが本当に喜びです。今日、この暑い中、非常に早い時間から並んでいただいた方もいらっしゃると思います。そういう方はたぶん前の席にいらっしゃると思うのですが、感謝すると共に映画が始まったら、すごく観にくいだろうなぁと心配で仕方ありません。(笑)今日は本当にありがとうございます。
短い時間だが、1人ずつ、作品ついて、監督についてエピソードを。
渡辺:映画「硫黄島」の撮影の時に、クリント・イーストウッド監督が「<許されざる者>を撮影していた時は、こんな暗い映画、一生懸命撮っているけど、誰が観てくれるだろう?と思いながら撮影していたんだ。」とボソボソと話してくれました。それを聞いて、クリントはある意味<神様>だと思っていたけれども、彼も毎日迷いながら、悩みながら作品を作っていたんだと聞いてわかって、とてもうれしく、深く感動しました。
佐藤:(ハリウッドの原作から)時代、国が日本にシフトしただけで…。維新後の明治の日本、そして舞台は蝦夷地、そこにいる自分ってどんななんだろうって考えて、いろいろな素材が自分の中でありました。暴力に特化したバイオレンスな男だったんですが、ただそれだけでは李相日監督は決して許してくれないので。そのため彼の中には何があるんだろうと、自分の中で考えて作っていきました。いま、どのように皆さんの目に映るのか楽しみです。
柄本:監督とは3本目ですけれども、本当にしつこいです。(笑)でも、まぁ、観ていただくと分かるんですが、いろいろと大変だったんですが、やはり、どこかで俳優としてそういう監督と共にできたことは幸せだったと思います。
柳楽:過酷な現場でした。でも、この作品に参加できたこと、それに大先輩の方と共に過ごせた時間が僕にとってはとてつもない財産です。役も難しかったんですが、本当に謙さんや、柄本さん、浩一さんに本当に支えられました。本当にありがとうございました。(3人にむかって…。)
忽那:撮影では毎日言葉を発しない役だったので、現場に行ってもなかなか分かったような、だけど、分からないままホテルに戻って…。本当に難しい役でした。
小池:撮影当時は皆さん、同じだと思うんですが。過酷な日もありましたけど、終わってしまえば、参加できたことがとても良い勉強になったと思える現場でした。普通に生きていくだけでも大変な状況のなかで、馬や牛、家畜以下に扱われた女郎たちが人間としてのプライドや誇りをもって強く生きて行くのを描いています。女郎たちがたくさんいますのでそれをまとめる役としては、その強さをぜひ表現できたら良いなと思って挑みました。
國村:オリジナルのクリント・イーストウッド監督の「許されざる者」も大好きな映画の一本です。今回それをリメイクして…。その中で私の役の北大路は癖の強い、ちょっと詐欺師的な男なんですが、でも、その男にも一つ狂気があるんだということをお腹の中に持って…。オリジナルとは違う大自然をバックにしたすばらいしい映画になっています。ちっぽけな人間の葛藤と圧倒的な大自然とのコントラストはオリジナルにはないこの映画独特なものです。ぜひ楽しんでください。
滝藤:僕、気合が入りすぎて、すごく空回りしていて。毎日、「あぁ、今日も監督に負けた。」「今日も許されざる者に負けた」と思って腐ってたんですが、出来上がったものを観て、完全に監督の掌で転がされていて、僕良かったんじゃないですかね。(笑)
小澤:事件を起こしてしまう立場で本当に救いようのない、反省をしない男という役どころで…。実際の僕はそうじゃないですけどね。(笑)今回、自分も作品に参加させてもらってまず感じたのは、映像って本当は感じられない匂いが一番難しいんですが。今回の作品で、泥の匂いや血の匂い、凍てつく空気の匂いが映像から感じられると思います。それに参加できたことがすごくうれしくて、本当に良かったと思いました。
三浦:登場人物のなかで、もしかしたら許されても良いんじゃないかと、観ていただく方に思ってもらえるキャラクターかもしれませんが、そうした中でより悲壮感を出すにはどうしたら良いのか、毎日考えながら演じていました。
李:(司会のフリに対して)進行台本と違うんですけど…。(笑)よく粘るとか、しつこいとか言われますが、それは褒め言葉だと思っています。本当にこの映画は多くの見せ場をキャストの皆さんが作ってくれています。僕個人としては映画の最後にみんなの名前が上がって来るエンドロールに一番の見所だと思っています。今日、この場にいるキャストはもちろんのこと、そのほかのキャスト、関わったすべてのスタッフの…安い言葉ですが、本当に血と汗と涙でできている映画です。本当に関わる人の労力と情熱がなければ今日という日を迎えることはできませんでした。僕も何度も心が折れそうになりながら、みんなに支えられてここまで来ました。とにかく、映画の力、圧力というか、魂というものを今日、皆さんに感じ取っていただけるとうれしく思います。本当にありがとうございます。
厳しい現場として有名な李相日監督の現場。キャスト、スタッフそれぞれの葛藤、乗り越える情熱がこの「許されざる者」に凝縮されているからこそ、<力>を感じる映画となったのだろう。
最後に渡辺謙から観客にお礼の一言が述べられた。
「映画を観る前なので、いま話したことは全部忘れてください。(笑)観ていただいたら何かを感じていただける強い映画になりました。2時間15分、退屈しないと思います。本当にありがとうございました。」
この後、観客をバックにフォトセッションが行なわれた。そして、笑顔で観客に挨拶をしながら、退場する。その間も皆がそれぞれを気遣う感じが目に見える。それがこの「許されざる者」で培われた<戦友>の証なのだったのではないか。それがスクリーンからも伝わってくる。
この映画は家庭のテレビ画面ではなく、劇場の大きなスクリーンで観るからこそ、自然の大きさとそこに生きる人間の力強さを頭に胸に感じることができるのではないか。ぜひ劇場でご覧いただきたい作品だ。
9月13日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザーズ映画 www.warnerbros.co.jp/yurusarezaru/