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2023年6月29日 18:30

内田英治監督×片山慎三監督インタビュー 『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』で目指した新しい形

取材:撮影/RanRanEntertainment

日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『ミッドナイトスワン』や阿部寛主演『異動辞令は音楽隊!』などのヒット作を手掛ける内田英治監督と、ポン・ジュノ監督作の助監督を経て佐藤二朗主演『さがす』や配信ドラマ「ガンニバル」などが話題を呼んでいる片山慎三監督がタッグを組んだ映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』が6月30日(金)から公開される。伊藤沙莉を主演に迎えた本作は、新宿歌舞伎町を舞台に、誰にも言えない秘密を持つ探偵・マリコと彼女を取り巻く人々を描いた探偵エンターテインメント。内田監督と片山監督に、タッグを組んで映画を制作するに至った経緯や撮影の裏話などを聞いた。

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左から)内田英治監督  片山慎三監督


――今回の企画は、内田監督の発案だったと聞いています。どのような思いから、伊藤さんを主演に、数人の監督のオムニバス作品を作るという企画がスタートしたのでしょうか?

内田 伊藤さんとは、これまでも何本か映画をご一緒しているのですが、その中で、さまざまな監督が彼女をどう料理するのかを観たいと思ったのが始まりでした。それが徐々に形を変え、最終的にこの二人でやろうかというところに落ち着きました。

――片山監督にお声をかけたのは、どんなことを期待されてのことだったんですか?

内田 元々、(Netflixで配信されたドラマ)「全裸監督」で仕事を一緒にしていましたし、その時に『岬の兄弟』という彼の映画を初めて観て、それ以来「何かの機会に」とは思っていたんですよ。なので、今回、長い時間を経て実現したということです。

――片山監督はこの企画を聞いて、どう感じましたか?

片山 シンプルに面白そうな企画だなと思いました。自分が今までやっていない、やらなさそうな題材だったので、ぜひやりたいと。

――連続ドラマでは監督が複数人で交互に担当するということはあっても、映画として2人の監督のエピソードが交互に並ぶような作品はなかなかないですよね。そうした作品を撮る難しさはなかったですか?

片山 僕は感じなかったです。

内田 思ったよりスムーズでしたね。脚本を作る段階から、僕たちは言いたいことを言っていたので、脚本家の山田(能龍)くんは大変だったかもしれないですが(笑)。彼も「全裸監督」で一緒だった脚本家なんですよ。なので、特に大きな事件もなく、淡々と出来上がりました。

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――脚本がしっかりとしていればということなんですね。素人考えでは、キャラクターがブレないように苦心するなど、難しいことがあるのかなと思いました。

 内田 確かにそうしたこともなくはないですが、そもそも僕たちの作風は、同じ枠に入っているんですよ。これがもし、例えば、青春映画を得意とする監督だったら、もしかしたら違いが明確に出てきてしまって、ブレがあるとなるのかもしれないですが。

片山 それぞれのエピソードは繋がってはいますが、ストーリーもしっかりありますし、エピソードごとにフィーチャーされる人物がいるので、それほど違和感がないというのもあるのかなと思います。

――では、逆にこのスタイルでの撮影だからこその面白さというのはありましたか?

片山 それはあると思います。1番大きいのは、観た方の楽しみが広がりやすいということかなと思います。通常のオムニバス作品と違って、どのエピソードを誰が監督しているというのが最初から明確にはなっていないんですよ。もちろん、調べれば出てくるのですが。なので、それを知ってから観るのも面白いと思いますし、観た後で知るのも面白いと思います。そういう楽しみ方はなかなかできないと思うので、それはこの作品ならではだなと思います。

内田 オムニバスの場合は、それを宣伝の段階から知らせるので、オムニバスのようでオムニバスではない映画と言えるのかもしれません。新しい形なのかなと思います。

――お互いの監督作について、どのくらいすり合わせをして撮影されたのですか?

片山 基本的にはそれぞれの作品を集めるという形だったので、そこまですり合わせはしていないんですよ。

――そうすると、出来上がるまで、お互いにどんなものを撮っているのか分からないということですか?

内田 そうです。もちろん、脚本は共有していますが、どんな撮影をしているのかは、お互いに全く分からない。

片山 ここでマリコはこんな格好をしているから、多分、こんなシーンにした方がいいんだろうなというのは、自分なりに考えて撮影しましたが。

内田 テレビドラマのように複数人の監督が1本のドラマとして成り立つように合わせていくというのとは、真逆の作業ではあったかもしれないですね。合わせようという気は、多分、どちらにもなかったので。もちろん主人公のキャラクターがブレるという心配はありましたが、結果をみると、そういうことはなかったですし、それぞれに撮った人間の特徴が浮き出ていて、面白い“実験”になったと思っています。

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――お互いの出来上がったエピソードを観た時はどう感じましたか?

片山 内田監督のエピソードを初めて観た時は上手いなと思うところがたくさんあったし、感心しながら見ました。

内田 僕はすごく特徴的だなと思いました。「姉妹の秘密」というエピソードは特にそうですが、キャスティングも想定外でしたし。

――キャスティングもまた、それぞれで行っているんですね。

内田 そうです。なので、「姉妹の秘密」は、彼が自分のイメージで選んだ方たちです。僕は全く知らなかったので、キャスティングも想定外でしたし、「鏡の向こう」もチープでありながらも彼の個性が出ていて、特徴があるんですよね。僕が撮ったら同じ脚本でも全く違うものになると思いますし、僕が発想もしないアイディアがあるので、面白いなと思いました。

――チープでありながらも個性があるというのは、私は内田監督の作品にも感じました。全体を通して、リアリティがあるのに、すごくぶっ飛んでいるという、そのバランスが絶妙だと思います。

内田 こうしたジャンル映画とリアルな世の中を組み合わせるというのは、海外ではメジャーなやり方になりつつあるんですが、日本だとまだそうした作品は少ないですね。もっと増やしたいと思っていますが。

――日本では少ないというのは何故なんでしょうか。

内田 日本は日常を描くというのが、小津安二郎監督の時代から脈々と受け継がれた伝統としてあるからなのかな。とはいえ、70年代、80年代は日本映画はジャンル映画ばかりでしたが廃れてしまって…。今は、日常を描くというのがメインストリームではあるのかもしれないですね。

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――なるほど。では、お二人から見た、俳優・伊藤沙莉の魅力とは?

片山 すごく器用な、どんな役柄も演じることができる俳優さんだと思います。勘もいいですし、また一緒に仕事がしたくなる方です。

内田 個性的ですよね。個性が強い役者さんは、意外に成功しないイメージなので、珍しいパターンだなと思います。誰が見てもオーラを放っていたり、誰が見てもきれいな人の方が大衆受けするスターになっていくんでしょうが、彼女はそうした要素よりも独自の個性が強い。それなのに、ここまで成長したというのは、すごいことだと思います。

――最初に伊藤さんにオファーをすると決まった時から、「スナックのママで探偵」というイメージがあったのですか?

内田 いや、全然。当初は、色々なアイディアがあったんですよ。ただひたすら伊藤沙莉が走っているだけの映画はどうだろうかとか(笑)。最終的に、こうなったということです。

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――それもまた面白そうですが(笑)。伊藤さんが演じたマリコの恋人MASAYA役の竹野内豊さんもまた、かなりの存在感を放っていましたが、竹野内さんの魅力はどこにあると感じていますか?

片山 僕は竹野内さんとはWOWOWのドラマ「さまよう刃」以来、2度目でした。今回は、MASAYAという荒唐無稽な、忍者を自称している男を演じてもらったのですが、とにかく真面目に、一切の笑いもなく演じてくれたので、そこが逆に笑いに繋がっていると思います。その真面目さは、MASAYAと竹野内さんが本質的に繋がっている部分なんだなと思いました。

内田 ひたすらカッコ良かったですよ。カッコ良いんだけど、ポケッとしているのが良いんですよ。CMでもそんなちょっと抜けたところのある上司役をやっていますが、ああいう役が本当に合うんだなっていうのを、今回ご一緒して思いました。またぜひご一緒したいなと思う役者さんでした。

――今回の役もすごくハマっていましたね。

内田 僕、ご本人にも「カッコ良いですね」って言ってました(笑)。そうしたら、ご本人は「いやもうただのおじさんですよ」って謙遜するんですが。

――では、監督お二人が、撮影で特に印象に残っているシーンを教えてください。

内田 最終話の「少女A」で宇宙人が出てくるシーンは、撮影がとても大変だったので印象に残っています。あの宇宙人は、全て手動なんですよ。後ろで5人くらいのスタッフが動かしているんです。指を1本動かすのにも時間がかかるという、スーパーアナログシーンで大変でしたけど、楽しかったです。

――アナログだからこそ印象に残るシーンになっていたと思います。手の込んだCGだったら、「ああ」と思って終わっていたように思いますし。

内田 CGやりたかったですけどね。今回はアナログだと思って。

――そうすると、1番大変だったシーンもそのシーンですか?

内田 大変でした。何十回もやりました。その間、ずっと竹野内さんを待たせていたので、申し訳ないなと思いながら。

――片山監督はいかがですか?

片山 マジックミラーの車が出てくるシーンがあるんですが、そのシーンは撮影をしていると、どんどん人が集まってきてしまって、大変と言えば大変でした。街中に停めて撮影していたので、知っている人は見にくるんですよ。特に男性は(笑)。

――確かに、街に停まっていたら、映画の撮影とは思わないですよね。

片山 そうなんですよ。“マジックミラー号”でAVを撮っているんだと思われて、集まってくる(笑)。意外と海外の方も知っているようで、通りがかった人が指を差してましたよ(笑)。

――ところで、この作品は、海外の映画祭を視野に入れて企画されたと聞いています。海外を目指したことにはどのような思いがあったのですか?

内田 早く日本を脱出したい、危険だから(という思いがあった)。

片山 危険というのはどういう意味ですか?

内田 経済が、です。日本経済全体もそうですが、映画ももう日本国内だけじゃやっていけなくなってる。

片山 それはそうですね。日本だけではなかなか厳しいですよね。

内田 なので、できる範囲で海外を見ていきたいなと。今回は、色々な映画祭に出品させていただき、ありがたかったです。やはり海外の方の好みと日本人の好みは真逆なので、それをすり合わせていく作業を僕たち演出家チームはしなくてはいけないと感じたので、こうした作品を通してそれが多少なりともできたらいいなと思っています。

――ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭では「ホワイト・レイヴン・アワード」を受賞するなど、高い評価を得ていますが、監督ご自身も手応えも感じましたか?

内田 映画祭ですごく盛り上がったのは感じました。まあ、宇宙人が出てきたりと、海外の方にも分かりやすい映画ですから。さらに、歌舞伎町という日本独特の文化形態が出てくるので、そうした部分が受けたのかなと思います。

――片山監督も海外にという思いはあるんですか?

片山 日本では実写映画は特に、なかなか興行収入が伸びないですからね。日本のマーケットは世界的に見ると特殊なんですよ。アニメはすごく観られていますが、実写はなかなか難しい。これからは外のマーケットも見なくてはいけない時期に来ているのかなと思います。

――確かに、海外の映画祭で受賞しても、なかなか日本では盛り上がらないということもありますもんね。

片山 そうですよね。あまり興味がないのか、「どうせ地味なんでしょう?」と思われているのかもしれないですね。確かに、アニメや大作の洋画を見慣れている人にとっては、物足りなく感じられるのかもしれません。そう思われないように頑張っていかなくてはいけないなと思います。

内田 海外を含めて活躍されている監督は、30年前と全く変わってないんですよ。そこは僕らも頑張らなくてはと思いますね。

――ありがとうございました! 改めて読者にメッセージをお願いします。

片山 気楽に観られる映画になっていると思いますので、あまり身構えず、楽しんで観ていただけたらと思います。

内田 こうした作品は、なかなか作れないので、これがうまくいかなかったら、もう作れません(笑)。なので、なんとしてでも応援していただきたいです。これがダメなら、僕もヒューマン感動ドラマを撮っていこうかなと思っています(笑)。ぜひ、観ていただきたいです。

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『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』

伊藤沙莉
北村有起哉 宇野祥平 久保史織里(乃木坂46) 松浦裕也
竹野内豊

監督:内田英治 片山慎三 脚本:山田能龍 内田英治 片山慎三 音楽:小林洋平

プロデューサー:菅谷英智 藤井宏二 尾関玄 キャスティング:伊藤尚哉 撮影:岸建太朗 照明:尾崎智治 録音:平直樹 助監督:井手博基 美術:松塚隆史 衣装:百井豊 

ヘア&メイク:板垣実和 編集:小美野昌史 サウンドデザイン:岩丸恒 アシスタントプロデューサー:藤田航平 宣伝プロデューサー:泉真人 制作担当:今井尚道

製作:「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会(東映ビデオ S-SIZE Alba Libertas 吉野石膏)
制作プロダクション:Libertas 配給:東映ビデオ
©2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会

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