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2021年4月20日 06:00

錦織健インタビュー! テノール・リサイタル「日本の歌だけを歌う」を5月17日に開催! 

取材:記事・写真/RanRanEntertainment

今年、デビュー35周年を迎えた錦織健がテノール・リサイタル「日本の歌だけを歌う」を2021年5月17日(日)に東京オペラシティで開催する。本公演は昨年5月に予定されていたもので、感染症対策のため装いも新たに3部構成で行われる。第2部では昨年亡くなったなかにし礼作詞、溝上日出夫作曲の「独唱とピアノのための組曲『遺言歌』」を歌う。錦織健に、リサイタルへの思い、なかにし礼とのエピソード、更には日本のクラシック界に今思うことを聞いた。

 

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――デビュー35周年を迎えられた今のお気持ちからお聞かせください。

途中でいつダメになるのかなと思っていたら、35年間歌えたので、大成功とはいかないですけれど、上出来だったかなと振り返っております。

――そして、5月に、昨年コロナの影響で中止になってしまったリサイタル『日本の歌だけを歌う』を開催されますね。

はい。もともと「何々だけを歌う」というのを得意にしていて、モーツァルトだけを歌うとか、ドニゼッティという作曲家の歌だけを歌う、などをやってきたので、今回も「何かだけを歌う」をやりたいなと思っていました。そこで、今回は、日本の歌がいいと思ったんです。特に、このプログラムにある「遺言歌」を昔から歌いたかったのですが、なかなか歌える機会がなかったんです。歌詞の中に「私が死んだら」と何度も歌うので、10年ぐらい前ですと、縁起でもない歌という風に言われることもありました。でもこの4、5年ぐらい終活という言葉が一般的になってきて、「私もそろそろ死ぬんだ」ということを語るようになったので、そろそろ歌ってもいいのかなと思うようになりました。この二つ、つまり、「何々だけ」と「遺言歌」を歌いたいということで今回の企画になりました。コロナがあって延期になったことで、コロナ対応をしたかったので、3部構成にし、休憩の時間も設けて歌います。

――日本の歌もたくさんある中で、今回の選曲の理由は?

そもそもクラシックなので、マイクを使わないで歌うということになると、けっこう限定されてくるんです。マイクを使ったら囁き声でも歌えますけれど、ある程度声楽調、クラシック調に歌って、表現が伝わるものとなると限られてくるので、その中でも、クラシック歌手がレパートリーにしている曲を選びました。

――第3部にはいきものがかりの「風が吹いている」など、ポピュラーソングが入っていますが?

はい。さだまさしさんの『奇跡~大きな愛のように~』は、さださんのトリュビュートアルバムに参加した時に、さださんが「好きな歌を歌っていいよ」とおっしゃったので、この歌を歌ったんです。さださんとちょっと違って、声楽調に歌っていますが、そういったご縁がある曲です。いきものがかりの『風が吹いている』は、とてもいい曲だなと思っていました。最初は復興ソングだと思っていたんです。何かよく聞く、耳に入ると思っていたら、これは、オリンピックソングだったんですよね。僕には復興的な内容に聞こえたので、復興の気持ちをこめて歌っていました。今回もコロナもあり、だけど踏みとどまろう、頑張ろうという気持ちで歌えるのではないかなと思っています。

――今回、ピアノは多田聡子さんですが、多田さんとは300回以上ご一緒されていますね。

多田さんはレパートリーが多い人なので、彼女としか歌わない曲もあります。「遺言歌」も彼女としかやらないと思いますし、さださんの曲、喜納昌吉さんの『花』とか『島唄』とか300回もやっているうちに彼女としか歌わない曲が出てきたので、今回もお願いしました。

――5月のリサイタルに向けて、多田さんとは何かお話をされましたか?

リサイタルの直前はあまり練習はしないのですが、今回はリハーサルを密にやろうと話しています。

――リサイタルの直前はあまり練習しないものなのですね?

オペラのアリアを歌う時などは直前にはあまりやらないです。直前はハードにすると疲れてしまうので調整がメインです。今回は直前まで練りこもうと思って練習の計画を立てました。

――「遺言歌」(溝上日出夫作曲/なかにし礼作詞)ですが、この作品は最近の作品ではなく、かなり前に作られているのですね。

そうです。1970年に作られたということです。去年この曲を(プログラムに)入れた時はなかにし先生はご存命だったのですけれど、去年の暮れに亡くなって、今年はどうしようかと考えました。でも、この曲は、先生が30歳前半に作られた曲で、なかにし礼の遺言ではなく、架空のものですし、ここで歌わせていただくことに特に失礼はないだろうと思ったのです。最初に歌ったのは80年代ですが、その頃に、先生が冗談だったか本気だったかわからないですけど、「ケン坊、おまえにこの歌やるよ」と言っていただいたので、「私が歌い続けていきます」と言って歌ってきました。日本の偉大な文化人のなかにし礼の歌を歌おうと思っています。

――なかにしさん礼さんとの関わりは?

一番最初はなかにしさん演出のオペラに出ていたことです。なかにしさんが作ったオペラ3本に出ています。その他に、なかにしさんが昔「TEPCOの世界劇」というのをやっていらして、それにずいぶん参加していました。国技館で、オーケストラ2つと大合唱と歌舞伎役者の団十郎さんや海老蔵さんが出演なさって、我々オペラ歌手が歌うというものでした。題材がヤマトタケル、竹取物語、など日本古来の題材をドラマにして、役は歌舞伎役者が演じ、歌手はタキシードなどを着て歌うという演出でした。僕の役は当時、新之助と名乗っていました海老蔵がさんがやりました。なかにしさんとはその頃にすごく親しくなって、音楽的には大先生だったんですが、世間話をする時には友人、兄貴みたいな感じで接して頂いて楽しかったです。

――この『遺言歌』を選ばれたのは詩の良さに惹かれたということですが。

詩が「私が死んだら」と始まって、その後は女々しく、センチメンタルな感じで続くんです。「お父さん、お母さん、私が死んだら、私を子どもに戻してください」とか、「友達よ、酒を飲んで私の話をしてくれ」とか…。ただ、人間死ぬ時には、何かそんなこと考えるんだろうなと思いますよ。

――錦織さんの音域の広さを味わえるのでしょうか?

そうですね。日本歌曲は低いところも多いので、低いところも得意にしたいなと思います。コロナ禍は、仕事がどんどん延期や中止になったりしましたが、私の場合はもともと一人が好きだったし、外に出ることもあまりなかったし、趣味はゲームと練習なので、コロナ禍でも前と同じ生活をしているんです。しかも、次の仕事までの間に膨大な時間ができたので、フォームや、声帯、発声法の改造に取り組みました。前からの念願だったのですが、来週本番があるという状態では改造するわけにいかなくて控えていたのですが、その成果も今回発揮したいと思っています。

――どんな感じになられたのか、楽しみですね。

だいたい人間の声って温まってくると高い声は出やすくなるのですけれど、低音や中間音は薄くなってくるんです。喉が温まって歌がよく歌えるというのは高音がよく響くっていうことなのですが、日本歌曲の場合、突然低音がある曲もありますし、いろいろ厳しいんですよね。

――日本歌曲と、西洋のオペラなどとの歌い方の違いはあるのですか?

演歌は日本の心とかいいますけど、あれも西洋音楽ですからね。山田耕筰もヨーロッパに留学して勉強しているので、日本の歌といっても、西洋音楽の範疇にあるんです。ほんとの日本の音楽というと東儀秀樹さんがやっているような雅楽などが純粋な日本の音楽。我々がやっているのは言葉は日本語ですが、様式的には西洋音楽になると思います。

――日本語の母音、子音で、歌い方が変わってくるのでは?と思ったのですが?

結局、我々のやり方はマイクはないけれど飛ばさないといけないということなので、ある程度喉を開いて歌うので、あまり日常的なことにはならないです。子音も母音も日本語なんですけれど、そこに多少エネルギーを入れなければいけないので、マイクで歌うほどナチュラルにはできなくなりますね。ただ外国語とどう違うか言われたら、ドイツ語とイタリア語によっても違うので、そこは個人の感覚じゃないですかね。

――喉のためには何かされていますか?

食べ物は回り回って影響はあるのでしょうけれど、直接これは喉にいいということはあまりなくて、どちらかというと練習とかコント―ロール法で喉を保っています。

――喉のためにお部屋の室温とか湿度に気を使ったりはされているのですか?

僕は加湿器を持っていないんです。なぜかというと、ステージに立って一呼吸したらどこのステージであってもカラカラになります。だから、いつも部屋もカラカラにして生活しているんです。そうしていると、ステージに出た時に、カラカラにならないです。私はカラカラの中で生きているんです。

 

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――今後の活動は、5月のリサイタルの他に決まっていらっしゃることはありますか?

リサイタルと、年末にやるベートーヴェンの第九のコンサートはあります。年齢的にもキャリア的にも十分やったので、新しい挑戦するのではなく、今まである得意な歌のクオリティで勝負していきたいと思っています。あまり新しいレパートリーを広げたいとは今は思っていないですね。

――錦織さんは、クラシックファンの裾野を広げる活動をずっとされてきていますが、手ごたえは感じていらっしゃいますか?

最近になってくると、すごい音楽家の人が「私は中学生の時に錦織さんのCDを聴いていました」とか「錦織さんのコンサートに小学生の時に行きました」っていう人がいてくれるので、有難いな、もう満足だと思っています。すごいクラシック通のファンの人が「私が最初に聴いたのは錦織さんのリサイタルでした」と言ってくれて、役目を果たしたかなと思いますね。

――日本の後輩の方に望むことは?

今、声楽はピンチだと思うんです。コロナ禍になって、飛沫が飛ぶから練習できないという状況で苦しいと思います。でも、日本の年末に第九を歌うという文化は何とか存続していって欲しいと思っているんです。ドイツでもやっていない、日本でできた文化ですけれど大事な文化だと思っています。まさに人類讃歌です。第九の合唱をやりたいがためにコーラスにチャレンジして、クラシック音楽や声楽に目覚める人もいると思います。この年末に第九を歌うという行事を世界中に広めて欲しいなと思います。みんな幸せになると思いますよ。

――最後に皆さまに向けてメッセージをお願いいたします。

今回お伝えしたいことは二つあります。一つは、日本愛から日本の歌を歌います。二つ目はこのリサイタルをコロナ仕様にします。最初は日本の古き良き歌を歌います。それは、もしかしたらこれまでの日本かもしれないです。「遺言歌」は死をテーマにしていますので、今のこのアクシデントもバックグラウンドにあります。そして最後に明るい未来に希望を繋ぐ歌を歌わせていただきます。今の時期ならではの演奏会にしたいと思っています。

――楽しみにしています。ありがとうございました。

錦織健 テノール・リサイタル「日本の歌だけを歌う」
日時:2021年5月17日(月) 13:30開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
出演:錦織健 Ken Nishikiori (テノール, Tenor) 
多田聡子 Satoko Tada (ピアノ, Piano)
主催:ジャパン・アーツ

公式サイト https://www.japanarts.co.jp/concert/p898/

【プログラム】
日本古謡:さくらさくら
滝廉太郎:荒城の月
山田耕筰:この道
山田耕筰:待ちぼうけ
山田耕筰:からたちの花
小林秀雄:落葉松
武満徹:死んだ男の残したものは
武満徹:小さな空
宮沢和史:島唄
* * *
溝上日出夫:独唱とピアノのための組曲「遺言歌」(作詩:なかにし礼)
* * *
喜納昌吉:花~すべての人の心に花を~
服部良一:蘇州夜曲
さだまさし:奇跡~大きな愛のように~
いきものがかり:風が吹いている
(※曲目・曲順は変更になる可能性があります。)

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