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2023年11月9日 11:55

映画『TOKYO,I LOVE YOU』中島央監督インタビュー「東京って本当にいいよね、素晴らしいよねと我々自身を肯定するものになっていれば」

日本の首都「東京」を舞台に、恋人、親子、親友たちの3つの愛を描いた映画『TOKYO,I LOVE YOU』が11月10日(金)から公開される。主演を務めるのは、本作が長編映画初主演となる山下幸輝。監督・脚本は、ハリウッド映画で国際映画祭受賞・ノミネート経験を持つ中島央が手掛ける。中島央監督に撮影のエピソードや本作で伝えたいメッセージなどを聞いた。

――今回の物語はどんなと発想から生まれたのでしょうか?

『パリ、ジュテーム』という映画を観た時に、「なんでこの東京版を誰も作らないんだろう。作ったら面白い作品になるのに」と思ったのが最初です。『パリ、ジュテーム』は、結局、「パリって素晴らしいよね」という話だと思うんですよ。だから、同じように東京を舞台にして、「東京って素晴らしいよね」と感じられる映画があったら最高だと思ったんです。これはもう自分が作らなくちゃいけない映画なんだと、運命的なものを感じて作ろうと考えました。

――そうすると、監督ご自身も東京には思い入れが深いんですね。

東京生まれなので、もちろん東京は元から好きでしたが、海外に行ったことでより東京への愛は深まった気がします。海外で生活したことで(※)、改めて東京は唯一無二であり、とても素晴らしい場所だったというのが分かったんですよ。東京の景色もすごくきれいだと改めて感じましたし、久しぶりに昔からの親友に会った時は大感動でした。僕はこれまで様々な国に行きましたが、今、東京に住んでいて、東京がいかに良いところかを実感しています。なので、大声でそう言えるような物語を絶対に作らなくちゃいけないなと思いました。(※編集部注:中島央監督は映画製作を学ぶために渡米し、サンフランシスコ州立大学映画学科を卒業した経歴を持つ)

――今作は、東京タワー、新宿界隈、お台場という3つの街を舞台にしたオムニバス作品になりますが、その場所を選んだのはどんな理由からですか?

まずは20代から、お台場は僕にとって東京で一番大好きな街である、と言っても過言ではないくらい本当に特別な場所です。まるで映画の中にある未来都市がいきなり東京に出現したかのような感覚があり、お台場の近未来的な美しい街並み全てに昔から強く魅せられていたのは事実です。ですので、今回、映画を作る時にお台場は絶対に映画の中心に大きく据えるようにしました。お台場をこれほど真正面から描いている映画は今までなかったんじゃないかなと思います。東京タワーは、やはり東京という街そのものの象徴でもあり、プライベートでもよく訪れるくらい大好きな場所なので、マストとして考えていました。それから、新宿界隈。新宿は、個人的には東京の持つ強いエネルギーを最も象徴するような街だと思っています。ただ、新宿というあまりにも有名な場所一ヶ所に限定しまうと、いわゆる人々が連想する“新宿“という大都会のありがちな、典型的な描写になってしまう危惧がありました。ですので、新宿の魅力を広範囲に伝えられるように、あえて界隈といった表現に変え、普段、映画の中ではあまり見られない、西新宿や中野エリアを中心に描き、東京のリアルな雰囲気を描きだすことに専心しました。

――なるほど。3つの物語の中には、多数の登場人物が登場しますが、監督ご自身はどの物語、どのキャラクターに特に思い入れがありますか?

まず、ネタバレ厳禁なので、映画の名前は伏せていきますが(笑)第1章に関して言うと、あれは80年代の有名なアメリカ映画の真逆をやっているというか笑。80年代の娯楽性に溢れたアメリカ映画が心から大好きなので、今回、自分の映画の中でオマージュを捧げられた事に関しては本当に嬉しく思ってますよね。そして、第2章は、これまた私が生涯のナンバー1映画に選ぶくらい大好きなイタリア映画にオマージュを捧げている部分もある物語なので、このパートを作るのは作り手として本当に興奮する瞬間でしたね。そして、第3章に関しては、娯楽映画本来の面白さ全てを詰め込んだようなストーリー展開で、個人的には一番好きかもしれません。ですので、映画全体を通して、映画そのものへの愛を伝えるような作りにはなっていると思います。また、キャラクターに関してですが、メインのリヒト、カレン、ケンから始まって全ての脇役に至るまで、登場する全てのキャラクターたちが本当に大好きですね。今回は、特にキャラクター造形に関してはうまくいったな、と我ながら思っています。またなぜ、この話が3章に分かれているかというと、僕が東京を舞台にした物語を語るという事になったら、たった一つの物語では足りないし、一人のメインキャラクターでは到底、足りないからなんです。これだけ、色々な視点を要した多様な物語、そして、多様なキャラクターを通して描く事によって、初めて僕が想う“東京”そのものが描けるというか。これだけのキャラクターを通して、やっと、僕の大きすぎる東京への愛を表現できると思っています。だから、3章構成になったのは、今、考えると、「東京、愛してる」というタイトルで映画を作るなら、僕にとって必然的な帰結であったと思っています。

――では、撮影で特に印象に残っているシーンは?

もちろん、全てのシーンが印象的でしたが、特にロケーションが好きだったのはお台場ですね。どのシーンも場所が主人公でもあるので、その場所を“見せる”ことにこだわりましたが、最終章のお台場は、自分の思い入れが特に強かったので、いかに美しく見せるかということにかなり力を注いでいます。僕は、お台場の中でも、夢の大橋が大好きで、絶対に映画の中で描きたいとずっと思っていたんですよ。やっと長年の夢が叶いました。

――脚本を書いた段階で、「これはここで撮る」というように、ロケ場所も思い浮かんでいたんですか?

浮かんでいるシーンもありました。ただ、ユージン(下前祐貴)たちが歌うシーンはどこがいいのか全く想像できなかったんですが、ロケハンをしていくうちに「TOKYO」の文字のオブジェを見つけて、急遽撮影することになりました。あのシーンは、最初はリヒト(山下)が走るシーンの撮影をしようと思っていた場所です。ですが、そうするとギャグのようになってしまうので、ユージンたちが歌うシーンにした方が良いとなって…。個人的にめちゃくちゃかっこいいと気に入っているシーンでもあります。

――リヒトを演じた山下さんの演技はいかがでしたか?

素晴らしかったです。このリヒトは『走れメロス』のような一本気で熱いキャラクターのイメージを持って描いたんですよ。ただ、外国人ならこういうキャラクターもいいけれど、これを日本を舞台にして日本人が演じるというのは難しいなとも内心、思っていました。ですが、彼がリハーサルに来て、演じてくれた時に、「彼だ!」と。見つけたと思いました(笑)。説得力がすごくあったんです。映画の最後のピースがはまって完成した気がしました。彼で大正解だったと思っています。

――そうすると、山下さんにオファーしたのは中島監督の強い希望だった?

はい。山下くんは、以前から有望な新人俳優として大きく注目していました。そして、今回、この脚本を書き上げた時、主人公リヒトが偶然、ダンサー役であった事もあり、ダンス経験が豊富な山下くんにまさしくピッタリな役なのではないかと思いました。リヒトは、ダンスをキレキレに踊るという設定だったので、プロダンサー並みに踊れるというのが大前提でした。そうすると、必然的に選択肢が狭まっていきました。そして、改めて彼のダンスの経歴を見て、これはすごいなと。それで彼以外この役をやれる役者はいないと確信して、お会いしたんです。

――なるほど。確かに、熱いキャラクターなのに暑苦しくないというのは、山下さんだからこそだったように思います。

そうなんです。それができたのはやっぱり彼だからだと僕も思います。例えば、いわゆる典型的なスポ根ものにありがちな熱血漢だとまた違うものになっていたはずです。彼が演じるからこそいい。この映画においては、熱い表現を回避せずにストレートに描きたかったのですが、彼がリヒトを演じると、その熱さも嫌味なく受け入れられるというか、スッと入ってくるんです。

――分かります。

今回、僕が表現として特に気をつけたのは、人と触れ合っている姿を撮るということでした。僕は、握手もハグもそうですが、人と触れ合うのが好きで、その姿を撮るのが好きなんです。それは、抱き合ったり、手に触れるということは人間の本当の根本的な愛の表現だと思うからです。そういう、目に見える直接的なアクションがないと、「I LOVE YOU」と愛を謳っていても説得力がないと思っていました。だから、それをもっと見せないといけないと考えていました。親子で抱き合うシーンなどの日本人はあまりしないようなショットもあえて作ったのは、それくらいやらないと映画では伝わらないと思ったからなんです。

――最終章では、山下さん演じるリヒトの親友・シモンを演じた松村龍之介さんもすごく印象に残っています。松村さんのシーンはそれほど多くはないですが、彼の背景まで想像させられました。

実は、僕はいつも、脚本を書き始める前にキャラクター表を書いていて、そこに細かくそれぞれのキャラクターの経歴を書いているんですよ。何年に生まれて、夢はなんだ、とか、親との関係性はとか…いわゆる、そのキャラクターが生まれてから現在までの過程全てです。シモンに関して言うと、そのキャラクター表に、“彼が中学生の時に父がガンを患い死別し、それ以来、自分もそうなるんじゃないかと恐れている”と書いてあったのです。ですので、劇中でリヒトが言う「あの時、シモンは狂っていた」というセリフがあるんですが、そういうセリフが出るのはキャラクター表に書かれている背景がからです。それがあるから、それぞれのキャラクターが勝手にセリフを自発的に話しているような感覚で脚本を書けるんだと思います。

――そうすると、役者さんはそのキャラクター表をご覧になってお芝居をされているのですか?

そういう場合もあるし、そうじゃない場合もありますね。でも、そうしたバックグラウンドがあるからこそのセリフが端々に出てくるから、きっとそうしたセリフで観ている方が想像できるんじゃないかなと思います。

――確かに第2章のカレン(小山璃奈)も、詳しい経緯は描かれていないのに、何かしらの過去があるんだろうと理解でき、現在のあり方がすごくしっくりきていました。

嬉しいです。脚本を書いているときは、ここはアクセルを踏んだ方がいい、ここはブレーキした方がいいということを常に考えてます。それこそ、映画という芸術において許されている最大の特権が、時間を引き延ばしたり、またはある時間を狭めたりすることだと思います。例えば10年の出来事を1分で描いたり、今起こっていることを5、6分かけて描くというのができるんですよ。(第2章では)お父さんの記憶にある子ども時代のカレンとの思い出は、ロマンチックに描かなくてはいけないから時間をかけるけれども、カレンが就職する途中経過は描かなくていいというように、うまく使い分けながら作っています。そこが映画の文法の1番、面白いところだと僕はいつも思っていて、それによって、最後に感動できるんだと思います。

――今のお話にも通じると思いますが、中島央監督が脚本を書く時、そして映画を撮影する時に一番大切にしているものやこだわっているものはどんなものですか?

脚本を書くことと映画を作るというのは全く違うと思っていますが、脚本を書く時は、とにかくレベルの高い面白いものを作ろうと思って書いていますし、自分に対するハードルを高く持っていると思います。ですが、いざ撮影するとなると脚本家である自分はもうそこにはいないんですよ。俳優の持っている素質をそのまま役に入れたいので、よっぽど脱線しない限りはセリフも変えていいし、リハーサルで作り上げたアドリブも良いと思えばどんどん入れていく。そこで生まれた面白いものがあればその場で脚本を書き換えていくこともあります。脚本で築き上げてきたものを、いい意味で壊して、そこから本当の最高に面白いものを作り上げていくというのが撮影かなと思っています。

――ありがとうございました! 最後に、改めて読者に向けてのメッセージをお願いします。

この映画は、タイトルの通り「東京に対する愛」を描いていますが、登場人物たちが本当に大事なものに気づいていく物語でもあります。今、日本人はあまり元気がないですが、東京って本当にいいよね、素晴らしいよねと我々自身を肯定するものになっていればと思います。全てが勝ち負けの二元論でしか語られない世の中になってきてしまっていますが「生きるということは勝ち負けを決めるものはない」ということや、「あなた自身がすでに素晴らしいんだ」、「あなたの持っているものはすごいものなんだ」ということを伝えられればと思います。

映画『TOKYO,I LOVE YOU』は、11月10日(金)から公開。

公式サイト  https://tokyo-iloveyou.com/

 

 

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