1920年代に実際に起こった、一番悪名高く凶悪な伝説的犯罪を土台とした綿密な心理劇「スリル・ミー」が、9月7日から上演される。本作に出演するのは“私”と“彼”のたった2人。1台のピアノから始まる美的なメロディーが緊迫感を醸し出し、美しく濃密な空間を作り上げる。今回、“私”と“彼”を演じるのは、3組の俳優たち。尾上松也と廣瀬友祐ペアに本作に挑む想いを聞いた。
――松也さんは9年ぶり、2度目のご出演となります。前回は柿澤勇人さんとペアを組み、今回同様“私”を演じましたが、当時を振り返っていただき、本作に対してどんなことを感じていましたか?
松也 9年前はこの作品のことを知らなかったので、お話をいただいてから拝見させていただいたのですが、とにかく大変でした。セリフを覚えるのも大変でしたし、やると言ったけれども不安要素がとても多かったのを覚えています。ですが、本番が始まってみると、改めてこの作品の素晴らしさや役者としてのやりがいを感じ、日々、とても充実していたという印象があります。
――この作品ならではだと感じたことはありましたか?
松也 まず、この形式です。出演者は2人で伴奏はピアノのみという究極にシンプルに作られたミュージカルですから。この少ない要素の中でこれだけの表現ができるということに、舞台の面白さを感じましたし、そうしたところにこの作品の魅力がたくさん詰まっているのではないかなと思います。音楽も含め、本当に唯一無二の作品だと思います。そうでなかったら、こんなにも再演を重ねられないと思いますので。
――9年ぶりに出演を決めたことについては、どんな想いがありますか?
松也 前回出演させていただいたときに、すぐにでもまたやりたいと思っていたくらい大好きな作品でしたので、ずっと出演したいとは思っていました。ただ、(“私”も“彼”も)大学生(という設定)ですからね。今回、僕たちはギリギリだと思うんです(笑)。演じられるタイムリミットがあると思っていたので、早く演じたいと思っていましたし、30代のうちにできてよかったなと思います。
――廣瀬さんは今回、初めての出演ですが、元々この作品をご存じでしたか?
廣瀬 知ってはいましたが、観たことはなかったので、お話をお伺いして観させていただきました。松也くんがいうように、役者2人とピアノだけというシンプルな環境で、しかも取り扱っている題材が実在した事件という、役者としては惹かれるものが多い作品だと思います。
――“彼”役での出演となりますが、出演が決まったことについてどう感じていますか?
廣瀬 うれしかったです。相手が松也くんと聞いて、なおうれしかったですし、感謝しかありませんが、同時に恐怖心も間違いなく感じました。ただ、その怖さの裏にあるのは、やりがいがいだと思うので、負けないように頑張りたいと思います。
――本作の上演、そして出演が発表されて、反響も大きかったと思いますが。
廣瀬 そうですね。出演が決まる前から、僕には“彼”の印象が強いというのをなんとなく感じていましたので、今回、まさしく“彼”役で出演できることになって嬉しいですし、そうした印象を持ってくれた方を良い意味で裏切れるように頑張りたいと思います。
松也 前回、出演した際にたくさんの知り合いや友人が観に来てくれたのですが、この作品のことを知らずに観に来てくれた人たちの多くが、「もう1回やらないの?」とずっと言ってくれていました。今回、僕が再び出演することが決まった時も、僕以上に喜んでくれる友人や知り合いがたくさんいて、すごく嬉しかったですし、「スリル・ミー」ファンの方にも「帰って来た!」と言っていただけているようなのでそれもまたすごく嬉しいです。
――お互いの印象は?
松也 ミュージカル『エリザベート』でご一緒して以来なので、8年くらい経っているのかな。僕たちがまだ30になったばかりの頃で、当時はまだ若者と言っても許される年代でした(笑)。まだ尖っていたところもあったので、お互いに「ちょっと怖い」と思っていたと、さっき話していて知りました(笑)。当時は、あまり一緒にはいなかったんですよ。ですが、お互いに色々な経験をして、少し落ち着いてきた今、こうして再会できることは僕はとても嬉しいです。特に今回は、濃密な時間になると思うので、『エリザベート』で共演した時には知らなかった廣瀬くんの魅力も知ることができると思います。
――廣瀬さんから見た松也さんはいかがですか?
廣瀬 当時から松也くんは僕のことを「怖い」と言ってましたが、僕からすると圧倒的に松也くんの方が怖くて(笑)。
松也 何で? おかしいでしょ(笑)。
廣瀬 『エリザベート』には、同世代の役者が他にもたくさんいたので、そうした方たちが松也くんと仲良くしているのを見て羨ましかったですし、憧れでもあったし、嫉妬もしてました。僕自身も当時は、自分の環境について考えたり、現実と理想に対するジレンマを抱えて戦っている時だったので、今とは違う問題を抱えていて、「なめられたくない」という思いもあったんです。心の奥では、この人たちと仲良くなりたいという思いはあったのに、まだ自分は仲良くできる分際じゃないと思っていたところもあった。いつかまたこの人たちと共演できるようにと当時から思っていたので、今回、このタイミングでこうした形で共演できるというのはとても嬉しいです。意味のある時間、経験にしたいと思っています。
「スリル・ミー」は以下の日程で上演。
東京公演:9月7日(木)〜10月3日(火) 東京芸術劇場 シアターウエスト
大阪公演:10月7日(土)〜9日(月・祝) サンケイホールブリーゼ
福岡公演:10月11日(水)・12日(木) キャナルシティ劇場
名古屋公演:10月14日(土)・15日(日) ウインクあいち
群馬公演:10月21日(土)・22日(日) 高崎芸術劇場 スタジオシアター