現在、東京芸術劇場プレイハウスで上演中の『インヘリタンス‐継承‐』の作家、マシュー・ロペスが本作の公演に合わせて来日し、取材に応じた。
E・M・フォースターの小説『ハワーズ・エンド』から着想を得て本作を書いたマシューは、本作でラテン系の作家として初めてトニー賞ベストプレイ賞を受賞。この春には、『お熱いのがお好き』ミュージカル版の脚本を担い、また映画『赤と白とロイヤル・ブルー』では長編映画初監督・脚本を手がけるなど、今注目の劇作家、映画作家だ。
今作では、2015年~18年のNYを舞台に、1980年代のエイズ流行初期を知る60代と、若い30代・20代の3世代のゲイ・コミュニティの人々の愛情、人生、尊厳やHIVをめぐる闘いを描き、ウエスト・エンドやブロードウェイをはじめとした各国で上演されてきた。日本では、今回が初演。演出家・熊林弘高が演出を務め、福士誠治、田中俊介、新原泰佑、篠井英介、山路和弘、麻実れいら個性豊かなキャストたちが前後篇6時間半の感動の叙事詩を綴る。
11日の初日公演を観劇したというマシューは、「まず、気づいたのが観客との関係です。アメリカの観客は多くの反応があるんです。それは良いことではあるのですが、その反面、セリフや言葉を聞くためには犠牲も出てしまう。一方、日本ではとても集中して聞いてくれる。これだけセリフが多く、言葉を重視する作品で、これだけ聞き入ってくれるというのは本当に嬉しかったですし、観客の皆さまの集中力と懸命に聞こうとしてくれる姿勢に感動しました」と振り返る。
さらに熊林の演出について「戯曲の中では書かれていない人が、舞台上にいる。そうすることで人々のつながりを見事に視覚化して舞台上に表していると思いました。複雑な人々が絡み合い、繋がり合っているということがよく分かる上演になっていたと思います。それから、最後のシーンは戯曲には書かれていない、この上演独自の演出です。初演版などでは、物語の最後にはトビーは出てこないんですよ。ですが、日本の演出は、僕自身が考えたことのなかった形で、本当に素晴らしいと思いました。初演の演出を担当したスティーヴン・ダルドリーに(そのことを伝える)メッセージを送ったのですが、きっとそれを知ったら『なんで俺がそれを思い付かなかったんだろう』と悔しがるだろうと思います。赦しについての物語を書いたつもりでしたが、僕自身が見逃していた赦しの理想があると感じました」と言及した。
これまで、ストーリーテラーとして日本の思想や文化からも影響を受けたというマシュー。「映画を愛する者として、日本映画がずっと大好きでした。子どもの頃は怪獣映画、もう少し歳をとってからは侍映画が好きで、大人になってからは小津安二郎映画に傾倒しました。小津作品は、家庭的なものを徹底的に描いている作品が多く、それがエンタメという考え方と結びついているというのが非常に面白い。小津監督の『東京物語』を観ていると、東京の家族の物語の中にプエルトリコ系の自分の家族の姿が見えるんです。どの国でも紡がれている物語は同じで、それを独自のものにしているのは、それぞれの語り手の文化的な視野であるのだなというのは日本の映画から学んだことでした」と日本文化への思いも明かした。
世代を超えて語り継がれる、愛と自由を求める人々の姿を描いた本作。役者たちの想いのこもった演技も見どころの一つだ。ぜひお見逃しなく。
『インヘリタンス‐継承‐』は以下の日程で上演。
東京公演:2024年2月11日(日・祝)~24日(土) 東京芸術劇場プレイハウス
大阪公演:2024年3月2日(土) 森ノ宮ピロティホール
北九州公演:2024年3月9日(土) J:COM北九州芸術劇場 中劇場