2014.12.13,14 取材:記事・写真/RanRan Entertainment
2014年12月13日、14日の2日間にわたり、韓国・済州島(チェジュ)において、日本、韓国、中国の詩人が集まり、「2014 島・詩・楽」と題した会が開催された。<後編>
当日、小池昌代氏が朗読された詩は次のとおりです。
済州島への道
―詩人・金時鐘に
小池昌代
済州島への道は遠い
遠いと思っていたのに
ある日一匹の蛾となって
私は海を渡っていた
蛾だって海を渡る
びらびらと
(決して優雅にひらひらとではなく)
眠りながらも飛び続け
飛ぶうちに
わたしは自分の名や
生れてからの記憶のあれこれを
朝鮮海峡の深海へ
復讐のように落とし続けた
が
それでもまだ
黒かびのように残り続ける「わたし」の根に
こびりついている饐えた匂いのする日本語
こればっかりはどうすることもできない
おかあさん
おとうさん
おじさん
おばさん
見知らぬ彼らを呼ぶことを知らないので
おかあさん
おとうさん
おじさん
おばさん
と酢のようにすっぱい日本語で呼びかけながら
彼らの眠る墓地の上を
夢の班となってぼろの翅で漂流する
済州島の海岸にある
岩にそっくりな顔の詩人
のかみしめすぎてぼろぼろになった奥歯
の痛みに似た日本語
彼の書く日本語の傷傷だらけの日本語を思い
蛾は岩陰にとまって沈黙する
美しい母国語
なんて虚妄だ
☆☆☆☆☆
小池昌代 オフィシャルサイト http://koikemasayo.com/