取材:記事・写真/RanRanEntertainment
第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞、4部門を受賞した『パラサイト 半地下の家族』。2月24日(月)、TOHOシネマズ六本木にてポン・ジュノ監督とソン・ガンホが舞台挨拶を行い、草彅剛がサプライズゲストとして受賞祝いに駆け付けた。この日、マスコミ取材陣も数多く詰めかけ、会場は熱気に包まれていた。
映画上映後、ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホが、観客の盛大な拍手に迎えられ舞台に登場した。
舞台上には大きなくす玉が用意されていて、お祝いの準備は万端。観客の「パラサイト、おめでとう」のかけ声に合わせ、監督とソン・ガンホがくす玉を割ると中から、「祝 興収 30億円突破」の文字があらわれ、再び拍手が沸き起こり、ポン・ジュノ監督は、「まずはこのように映画館をいっぱいにしてくださいましてありがとうございます。アカデミー賞の受賞に関連してお祝いをたくさんいただきましたけれどもオスカーの受賞以前に日本の観客のみなさまには劇場に足を運んでくださり、とても熱い反応を送ってくださっていたことに心から感謝申し上げます。日本の観客の皆さんはとても目が高いと思いました。」と挨拶。ソン・ガンホも「本当にありがとうございます。言語が違いますが、映画というのは言語が違っても共感できるのだ、それは映画の力なのだということを皆さんが見せてくださり感動しています。」と話した。
司会者から、この大ヒットについて監督はどのようにお考えですか?と問われると「2000年の頭に韓国映画が日本で活発に公開され、愛されている時期がありました。その頃は日本映画も韓国でたくさん上映され、関心を持たれていました。10数年ぶりにこのように韓国映画が大きく愛され、ヒットしているということが、両国の映画ファンにとって、お互いの映画に関心を持って愛し合う事ができるようなきっかけになればと願っています。そして第二の映画の交流が、これをきっかけに始まって欲しいです」と答えた。
ソン・ガンホも「こちらに興行収入30億円突破という数字がありますが、この数字よりも大切なことがある気がします。監督もおっしゃっていましたが、韓国の観客は日本の映画を楽しみ、日本の観客の皆さんは韓国映画を楽しんでくださる。そんな風にしてお互いが触れ合う、共感できることが何よりも大切だと思います。韓国でも以前から日本の巨匠と呼ばれている監督たちの映画が公開されてきましたし、最近も是枝裕和監督、阪本順治監督、李相日監督の作品などがたくさん愛されています。そんな風にお互いが共感できるきっかけとなった気がして大変嬉しいです。」と続けた。
アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞、の4部門を獲得した時の率直な気持ちを聞かれた監督は「全く計画していたことではありませんでした。映画の中にも、「無計画が最高の計画だ」という台詞がありますけれども、訪れたこの賞に関しては嬉しくもあり、少し気が動転しているような状態でした」と振り返り、「ほんとに貴重な賞をいただいたと思っていますし、とても光栄なことだと思っています。トロフィーは大切に今家にしまっているんですけれど、アカデミー賞以前に、日本、フランス、メキシコ、様々な国で多くの観客のみなさんに熱烈な反応をいただきました。そのことが私にとってはほんとうに嬉しいことでした。賞を受賞した事以上に、観客のみなさんの熱い反応をとても嬉しく感じています。」と語った。
ソン・ガンホは「アカデミー賞受賞の時は嬉しさを噛みしめながら、控えめにしていたんです。ポン・ジュノ監督のあばら骨を折らないように、気を付けながら、噛みしめていました(笑)」と話すと、すかさず監督が「カンヌで賞をいただいたときに僕のあばら骨を強く叩いていたようで、少しヒビが入ったみたいなんです」と説明し、そのためソン・ガンホは、アカデミー賞の時は、首の後ろ、背中、顔を中心に少し抱きしめたという。
二人の知られざるエピソードを聞いたところで、サプライズゲスト草彅剛の名が知らされ、会場に大歓声が上がった。
草彅は韓国語で「わざわざ日本に来てくださってありがとうございました。アカデミー賞受賞おめでとうございます。ポン・ジュノ監督と、ソン・ガンホさんの熱烈なファンです。一番尊敬している俳優さんです。」と嬉しそうに話し、「ソン・ガンホさんだったらどうやって演技するんだろうと考えながら演技しています。今日はお会いできて嬉しいです。最近は韓国語の勉強をする時間がなくて、忘れてしまいまいした。」と最後は謙遜も交えながら韓国語で思いを伝えていた。
ポン・ジュノ監督とソン・ガンホに、草彅剛さん=チョナン・カンさんご存知ですよね?と問いかけると、草彅は黙っていられず、「何度もオファーしていたのですが、機会がなくて、今日初めてお会いしたんです。まさかここの出入り口でソン・ガンホさんと、監督にお会いするとは思わなくて。ほんとに光栄です。」と初対面に本当に感激している様子だった。
ソン・ガンホは「もう20年ぐらい前からチョナン・カンさん、草彅さんが僕のことを好きでいらっしゃると聞いていたので、ほんとに有難かったですし、お会いしたかったので、やっとお会いできて、今日は記念すべき日ですね。」と話し、監督も「僕はチョナン・カンさん、草彅さんについては様々な活動をしていらっしゃるのでよく存じ上げていました。『僕に炎の戦車を』の公演でソウルにいらしたときに香川照之さんと舞台に立たれていましたが、その時に公演も観に行ったんです。」と伝えると、草彅は素直に喜び「イェイ。カムサハムニダ。」と思わず口にしていた。
草彅はポン・ジュノ監督の作品を愛して止まないそうで「僕、全部見てます。ほぼ。『スノーピアサー』だけは見てないんですけど。」と正直に話した。『パラサイト』の感想を求められ「一流のエンタテインメントになっていて、退屈することがひと時もなかったんですよね。見終わった後に、あそこはどうだった、こうだったと話したくなるような作品で、しっかりと家族愛も描かれていて、またすぐ見たくなるような作品でした」と作品への愛がこもっていた。
(再びここで急に韓国語で話し、その後草彅自身で日本語に翻訳)「“無計画”という話が先ほどあったのですが、お父さん(ソン・ガンホさん)が子どもに計画がないのに、計画があるんだと嘘をついて、その後、体育館で説得力あるような感じで言い聞かせるじゃないですか。ほんとは計画無かったんじゃないか?というところがあるんですけど、僕はすごく好きなシーンです。計画を立てなければ失敗することがない、ということで、基本的に僕はノープランなので、心に響くシーンでした。ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホさん出演の二人のタッグが組まれるのは『殺人の追憶』の鬼気迫った部分でもブラックユーモアが効いているというか、こんな大変な時に人ってこんなこと考えたりするのかなというのが、すごくリアルに感じるんです。今回の『パラサイト』も人間が持っているいろいろな喜怒哀楽の感情がちりばめられていて、好きな作品です。全部好きですね。リアリティがあるので。」と一気に語った。続けて映画の細部に話が及び「ソン・ガンホさんがインディアンのかぶってましたよね。あれすごく似合いますね。パク社長のは黒かったじゃないですか。ソン・ガンホさんは赤が似合うなと思って。」と話し、草彅はその部分が重要な小道具だった気がすると自説を繰り広げた。
監督に確認すると「今、草彅さんにおっしゃっていただいて何となくそういう意味もあったのかなと思いました(笑)。この後インタビューをされることになったら今の話を引用させていただきます(笑)」と話した。草彅はその答えを前向きに捉え、「もしかしたら、監督の無意識の中に黒よりか、ソン・ガンホさんには赤だと自分が思っていなくてもあったかもしれません。それを僕が見つけました。」と話し、観客の笑いを誘っていた。
しかしソン・ガンホが「赤の方が確かに原始的ですよね。先住民のイメージがあったと思います。パク社長のかぶった黒い方は侵略者のイメージがあったのかもしれません。」と分析し、「今、草彅さんがお話してくださったことは監督も私も全く考えていなかったことなんですね。なので、草彅さんに言っていただいてほんとにそうだなと思いました。」と話すと草彅は恐縮した様子だった。
監督もソン・ガンホの分析を聞いて「僕は当日日が落ちる前に早く撮ろうということしか考えていませんでした。今草彅さんが、新たな脈略でそのシーンを整理してくださったので映画がより豊かに感じられると思います。この後行われるインタビューでは引用させていただきたいと思います。」と話した。
あっという間に時間が経ち、と司会者が告げると、草彅は「もう終わりなんですか?」と名残惜しそうにしていた。フォトセッションタイムがあると伝えるとすかさず「後で焼き増ししてください。」とお願いして、退場した。
最後に二人からメッセージをもらった。
ソン・ガンホ:以前、アメリカのSAGという俳優さんたちからいただく大きな賞を受けたことがあったのですが、その時にこんなことをお話しました。この映画のタイトルは『パラサイト(寄生虫)』ですが、内容はどう生きたらいいのか、どう生きるべきなのか、共生に関する映画だと。国境と言葉の壁を越えて、日本でもこの映画に対して皆さんが共感してくださり、こんな風に映画を通して、触れ合えるというのは『パラサイト』という映画が持っている意味とよく合っていると思います。感謝しています。そして心の中にずっと長く残る映画になってくれたら嬉しいです。(日本語で)ありがとうございました。
監督:今日は本当にありがとうございました。ここにもボックスオフィスの数字なども書かれていますが、これまでにたくさんの映画賞での受賞でしたり、数多くのトロフィーなど、それもとても嬉しいことですが、それ以前に、映画そのものとして、例えば俳優の台詞だったり、眼差しだったり、カメラワークだったり、映画のあるシーンが皆さまの頭の中に残って、記憶に残って欲しいという素朴な願いを持っています。(日本語で)ありがとうございます。
『パラサイト 半地下の家族』
全国大ヒット公開中
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ イ・ソンギュン チョ・ヨジョン チェ・ウシク
パク・ソダム イ・ジョンウン チャン・ヘジン ほか
配給:ビターズ・エンド