日本でも熱狂的なファンが多い映画『アジョシ』で〈アジョシ・シンドローム〉を巻き起こし、韓国アクション映画の新境地を切り開いたイ・ジョンボム監督待望の新作映画『泣く男』が10月に日本公開が決定し、2014年8月20日(水)に東京・韓国文化院にて来日記者会見を行った。
今回の『泣く男』では罪を背負いながら任務に身を投じる孤独な殺し屋(チャン・ドンゴン)を主人公に据え、心の葛藤に揺れ動く“ぶれる男”を描き出している。
イ・ジョンボム監督挨拶
皆様こんにちは。今日はあまりお天気がよくない中、お越しくださいましてどうもありがとうございます。アジョシに続きまして、この『泣く男』で皆様にお会いすることになりました。監督のイ・ジョンボムです。お会いできて嬉しいです。
―本作品は10年前からの構想だそうですが、『アジョシ』の次の作品として『泣く男』を選んだ理由は何でしょう。また本作で伝えたかったテーマを教えてください。―
正確には15年くらい前に構想を立てたものです。まだ、映画学校に通っていた学生の頃にアイデアを得ました。アイデアはその頃ですが、構想をずっとしていたわけではなく『アジョシ』の後に考えてみたところ、たまたまですが全て私が手がけた映画は、男性が泣いて終わるという映画ばかりだったのです。今回この映画を最後に主人公が泣いて終わるという作品は終わりにしようと思い、撮影しました。そして、これを撮ることにより母性に関する話、そして表向きは非常に強い男だけれど、心の中にもろい部分やか弱い部分がある人物を描こうと思いました。
テーマについては、今回の作品で内面が成長していく男を描きたいと思いました。そういった男の物語に関心があったのです。デビュー作品や『アジョシ』もそうでした。映画は楽しくなければいけない、と思っていますので2時間楽しめるようにアクションの要素が取り入れられています。しかし、一番強く打ち出したかったのは、やはり内面の成長ということです。そして本人が謝りたいと思っていた相手に対して謝れるという物語を作りたいと思いました。映画が終わってエンディングロールが上がって行く時に、ただ単にすぐに忘れてしまうアクション映画を見たという想いでなく、観客が色々なカラーを感じ、そして良い想いを持って映画館を出られるような作品にしたいという願いがありました。
―今回チャン・ドンゴンさんが、身体を絞っていつものドンゴンさんと少し違うイメージだと思いますが、ドンゴンさんを起用した理由と彼が演じたゴンというキャラクターに込めた想いはございますでしょうか?―
こんなふうに申し上げると少し支障があるかもしれませんが、チャン・ドンゴンさんも今は歳を重ねていますよね。そして40歳を越えたところで中年という年齢になっているわけですが、今回の映画にはそういった年齢の俳優さんが必要でした。そして実生活においても家庭を持っていて、子供も持っている方に演技をしてもらえばゴンというキャラクターを理解していただけると思い、キャスティングしました。ドンゴンさんの素晴らしいルックスと繊細な感情表現というのが、とても良かったと思います。ゴンはとても複雑な心理構造を持っている人なのです。キラー(殺し屋)でありながら、なかなか相手を殺せないという背景があります。自分のミスによって殺してしまった少女がいるのですが、その母親をなかなか殺せないのです。ただ単に自分が殺してしまった少女の母親というだけでなく、自らも母親に捨てられたという非常に辛い記憶を抱えているので、なかなか殺せないという心理構造になっています。ドンゴンさんはそのへんも見事に演じて下さいました。
―フランス映画、または日本映画で影響を受けた監督さんがいれば教えてください。―
本当に多くの監督さんから影響を受けています。フランスの映画ですと『フィルムノワール』の作品からもたくさんの影響を受けていますし、サムライ映画からも影響を受けていると思います。北野武監督や深作欣二監督をはじめとして、たくさんいらっしゃいます。私が学校で映画を習った時にたくさん勉強で映画を見た時も、日本の作品と香港の作品が多かったです。この『泣く男』で影響をうけたというよりも、学生のころからたくさんの影響を受けていました。今まで撮った3本の作品を見てくださった方々から、そういう作品から影響を受けていらっしゃるのではないですか?と言われ、当時はあまり意識していなかったのですが、考えてみたらそうなんだな?と逆に知ることになりました。
―先程、監督から男性が最後に泣く映画はこれで最後にしたいとお伺いしましたが、これまで3本とも男性のお話でした。それを一区切りつけるという理由は?―
個人的には、最後に主人公が死を迎える迎えないに関わらず、最終的には涙を流し後悔し懺悔をし、誰かを許すというエンディングの映画は最後にしたいなと思っています。そうすることにより、この後違ったジャンルやトーンの映画を撮れるようになるのではないかと思うからです。監督は完成された人間ではないので、監督も映画を撮影しながら成長していくものなのです。これから撮る作品としては、泣かずに笑顔で終わる作品を撮れるのではないかなと思います。
―激しいアクションシーンがとても印象的で、ハラハラドキドキした後に涙してしまいました。この映画の一番のこだわりや、見所を教えていただけますか?
アクションシーンでとても気を使ったのは、アパートでの銃撃シーンです。あそこは本当に労力と時間をたくさん費やして撮りました。韓国も銃が規制されていますので、撮影自体とても難しく、その時に使うアパートに1ヶ月ほどスタッフが住み込み、住民の理解を得たというぐらい大変だったので、記憶に残っています。そして感情を表現するシーンではゴンがエレベーターの中で死んでゆくシーンも苦労しましたし、モギョン(キム・ミニ)が自分の娘の姿を映像で見て涙を流す、というシーンも期間は短かったですが心血を注いだシーンになります。
―男から見てもかっこいい男を描いていらっしゃいますが、何故監督は男性にこだわって映画を撮られているのでしょうか?また今後も男性の映画を創っていかれるのでしょうか。―
おっしゃる通り、チャン・ドンゴンさんも、(アジョシの)ウォンビンさんもとてもハンサムな男性なわけですよね。私は映画という仕事にたずさわれて本当に光栄に思うのは、そういった俳優さんを起用し最大限に生かしてハンサムな俳優さんを使いたいなと思って出演していただいています。個人的にちょっと女優さんが苦手なのです。(笑)性格的に、女優さんを相手にすると、何を話して良いのかわからなくなってしまうのです。男同士なら楽しいですし、自分がよく知っているパートの分野の話ができるのでやりやすいのです。基本的には、これからも男性が出てくる楽しい話を撮りたいという欲がありますし、機会があれば女優さんとももちろん仕事をしたいと思っています。これからの作品がノワールか、アクションになるのかはわかりませんが。
―今回、ドンゴンさんに射撃を習わせたりしたそうですね。銃撃戦のリアルさを求めたこだわりとは?―
私はリアリティのあるドラマが好きです。よくハリウッド映画で殺し屋を職業としている人物が出てきますが、だいたいハリウッドで出てくるキラーというのは、ちょっとファンタジーに包みこまれているような殺し屋が多い気がして、私はどちらかというとそういった描写には反対でした。ドンゴンさんに射撃を習っていただいたのは、銃に慣れて欲しい、また殺し屋らしく見えて欲しいという想いもありました。その前によくYouTubeなどでも流れていますが、銃による犠牲者の映像をたくさん見ていただきました。あなたが演じる役柄は、こんな怖い仕事している人なんだと認識していただきたいと思ったからです。そのように、たくさんの資料調査をして映画に臨んで、リアリティある演技をしてもらいたいと思いました。しかし、最終的に一番描きたかったのは、やはり主人公の内面でした。
―チャン・ドンゴンさんは直ぐに出演にOKなさいましたか?そのときの口説き文句は?
まずシナリオをお渡しする前に、お酒を飲む機会を持ちました。そこでお話をしたところ、シナリオを見ていないのに「出演します!」とおっしゃって下さいました。その後にシナリオを渡しました。事前に「体力的にも心理的にもきつい作品ですよ」と警告をしましたが、ご本人は「是非、出演したい」とおっしゃって下さいました。
(それは、監督さんご自身に魅力があるから「出演したい」とドンゴンさんが思われたのですね)との問いかけに、嬉しそうに一礼して「ありがとうございます」と笑いながら)
ドンゴンさんが「『アジョシ』がとても良かったですよ」と言ってくださいまして。実はドンゴンさんと私は同じ時期に同じ学校に通っていたのです。当時すでにドンゴンさんは大スターで私は一般の学生でしたが、ドンゴンさんは飾り気のない姿で、他の学生とバスケットボールをしていたのです。その時の姿は、スターではなく子供のような笑顔が素敵な方だったので、当時から是非一緒に仕事をしたいと思っていました。
―15年も前に構想があったというのは何かきっかけがあったのでしょうか。そして主人公にご自分を投影された部分はありますか?―
まず、チャン・ドンゴンさんがあまりにもハンサムなので、私自身を投影することはできませんでした。(笑)構想についてはまだ映画の勉強をしている時期でした。なぜかその時期には罪の意識にとても興味があり、研究まではいかなくても、そういったことに関する本を読んだり、実践主義に関する勉強をたくさんしている時期でした。殺せないキラーという殺し屋を主人公にすれば、心の中の激しい感情を表現できるのではないかと思いました。実際に、その学生時代そのコンセプトで短編映画を作っています。主人公は、やはり殺せない殺し屋が主人公です。私は自分を投影することはできなかったですが、ゴンという主人公のどこかに、イ・ジョンボムという自分の人格が、入っているのではないかと思います。
イ・ジョンボム監督の描く男の繊細な部分を、今までに見たことのない完璧な肉体美と感情表現で圧巻の演技で魅せたチャン・ドンゴン主演の『泣く男』は10月18日(土)新宿バルト9、丸の内TOEI他全国ロードショー!是非この秋、チェックしたい作品だ。
【STORY】
幼い頃にアメリカの砂漠に捨てられ、殺し屋に育てられたゴン(チャン・ドンゴン)ある日彼は、任務中に誤って幼い少女を撃ち殺すという、取り返しのつかないミスを犯してしまう。なんとか忘れようと酒に溺れるゴン。しかしその罪から逃れようともがくほど、葬り去ったはずの哀しい記憶が蘇ってくるのだった。そんな彼に組織から新たな暗殺命令が出る。これが最後の任務と決め、一度は捨てた故郷の地、ソウルに降りたつゴン。そこで彼らを待ち受けていたのは、哀しい因縁で結ばれた最後のターゲットと、硝煙と薬莢の嵐のような壮絶な死闘だった・・・
『泣く男』
監督・脚本:イ・ジョンボム『熱血男児』『アジョシ』
出演:チャン・ドンゴン『ブラザーフッド』キム・ミニ『火車HELPLESS』
ブライアン・ティー『ウルヴァリン:SAMURAI』キム・ヒウォン『アジョシ』
2014年10月18日(土)全国ロードショー “拭く男”ファイバークロス付き特別鑑賞券、(\1,400)数量限定絶賛発売中!
■提供&配給:CJ Entertainment Japan
取材、文・写真:RanRan Entertainment