2016.07 取材:記事・写真/RanRan Entertainment
『夢二~愛のとばしり』は、大正ロマンを代表する画家・竹下夢二のリアルな姿に迫る物語。美人画のモデルにもなった妻・たまきとの愛憎や、もっとも愛した女性・彦乃との逃避行をつづりながら、夢二の人間的な面を描き出していく。夢二役は、本作で映画初主演を飾った駿河太郎。男性の目から見た夢二について、たっぷり語ってもらいました。
――初めての主演ですが、出演オファーを受けたとき、どんな気持ちでしたか?
率直に言うと、「えっ? 僕ですか?」という気持ちでした(笑)。以前、自分のコンプレックスをテーマにした舞台に出演したことがあるんです。自分の役を演じるという生々しい内容だったのですが、それを宮野監督が見てくれていて。ステージ上の僕を見て「なんだか満足してない人がいる」と感じたそうで(笑)、それで僕に夢二役のオファーをくれたそうです。僕としては「芝居を見たうえで声をかけてもらえたのですごくうれしい」「でも僕でいいのか?」という、両方の気持ちがありました。
――駿河さんが思う夢二という人は、どういうイメージですか?
もちろん絵は見ていましたし、日本のグラフィックアートの先駆け的な存在という認識もあったのですが、あんなに破天荒な人だとは知りませんでした。出演が決まってから、この映画の原作や、他の夢二についてのさまざまな書籍を読んだりして、自分の中で夢二という人物像をイメージしていきました。
ただ、いろいろ調べる前から、夢二は女の人がいないと絵が描けない人なんだろうなとは思っていました。でも、資料を読めば読むほど、夢二の苦悩というのは女性に対するものだけじゃないというのがわかったんです。いろいろなギャップに対する葛藤があったということを知りました。そして、その苦悩のせいで、すごく孤独な感性を持っていたんじゃないかなと感じました。
――劇中の夢二は、女性への苦悩と言うべきなのか、絵のモチーフを求めて女性から女性へというところがありましたが、そういう部分は同じ男性から見てどう思いますか?
僕は、夢二は、本当は一人の女性で完結したかったんじゃないかと思うんです。夢二は理想の女性にずっとそのままでいてほしかったのだと思います。でも、女の人って、子供を産んだり、状況が変わったりすることでどんどん変わっていきますよね。だから、だんだん変わっていく妻のたまきから、彦乃という若い女性に心が動いてしまうというのは、夢二の中では自然なことだったのかな、と。
僕は、ギャップというのが夢二のキーワードだと思っているんです。現実の女性と、自分が求める理想の女性像のギャップ。それと、自分が描きたい絵と、そうではない絵で評価されることのギャップとか。役作りのために調べているうちに、夢二はいろいろなギャップに苦しんだのだろうなと痛感しました。
――そんな夢二に共感できましたか?
夢二が「本当は詩人になりたかったけれど、詩人では生計が立てられないから、ただ生きるために絵を描いている」と言う場面があるんですけれど、その言葉に夢二の葛藤がすべて入っているような気がして、すごく共感しました。僕自身も本当は音楽で生きていきたかったけれど、誘われて役者をやることになって、今はもう役者の道で生きているんですけれど、理想と現実にギャップを感じるところもあるんですよね。でも僕も子供が2人いて、自分がやりたいことだけを追い続けるわけにはいかない。そういう点で、夢二の気持ちがよくわかる気がしました。
――夢二と自分と重ねて演じていたという感じですか?
自分を重ねるというとおこがましいですけれど、自分にも同様の経験があったからこそ、夢二の気持ちをより深く理解できたのかなと思います。でも、そういうギャップというか、悩みというのは、みんな大なり小なりあると思うんです。実際の夢二の心情がどうだったか知ることはできないんですけれど、この夢二というキャラクターを演じることによって、そういう気持ちを抱えて生きている人がたくさんいるんだなということを再認識できる、いい機会になったと思います。「ああ、今まで僕が経験してきたことは、役者をやるうえで無駄ではなかったんだな」と改めて感じることができて、よかったと思いますね。
――劇中、印象に残っているシーンはありますか?
子供とのシーンですね。じつは、完成した映像より、実際にはもっとたくさん、子供とのシーンを撮影しました。僕は子供とのシーンを大事にしたいと思っていました。なぜかというと、たまきに対しては複雑な思いがあるにしても、子供に対しては無償の愛を注ぐ夢二の父性みたいなものを見せたかったんです。
実際の夢二も子供をかわいがっていたそうです。世間的に見ればダメな親父だったかもしれないんですけれど、夢二のご子息の「子供のことをちゃんと大事に思っていた」という言葉が残っているので、愛情はきちんと伝わっていたんですよね。僕も子供を持つ父親なので夢二の気持ちがわかるし、それと、そういう部分から夢二のあたたかいところが伝われば、見る人にちょっと許してもらえるかなという気持ちもあって。そうでないと、夢二だけが一方的に悪い男みたいに映りそうでイヤだったんです(笑)。
後半に続く~https://ranran-entame.com/wp-ranranentame/movie/41421.html
1978年6月5日生まれ。03年より音楽活動を開始。08年、俳優へ転向。11年のNHK連続テレビ小説「カーネーション」のヒロインの夫役で注目をあびた。「半沢直樹」「ラヴソング」などのドラマをはじめ、映画、舞台でも活躍。本作で、Japan Film Festival LA 2015優秀主演男優賞を受賞。16年は、9月に映画『真田十勇士』、10月に『湯を沸かすほどの熱い愛』が公開、9月に舞台『真田十勇士』に出演。
オフィシャルブログ http://ameblo.jp/suruga-taro/
大正時代。夢二(駿河太郎)は、自らの絵を売る店を営みながら、美人画のモデルでもある妻・たまき(黒谷友香)、息子とともに暮らしている。しかし、生活のために絵を描く毎日に、芸術家として葛藤を覚えていた。ある日、運命の女性・彦乃(小宮有紗)と出会う。やがて、たまきとの関係は崩壊していき…。
■原作:野村桔梗「竹久夢二のすべて」(駒草出版)
■監督・脚本:宮野ケイジ
■出演:駿河太郎、小宮有紗、加藤雅也、黒谷友香ほか
■2015年/日本/108分
■配給:ストームピクチャーズ