升 毅、水夏希、松村武らがマキノノゾミの傑作戯曲に挑む、まつもと市民芸術館プロデュース『殿様と私』。本作は、俳優・脚本家・演出家として幅広く活動するマキノが文学座に書き下ろし、2007年に初演された、名作『王様と私』を下敷きにしたウェルメイド作品。今回は、マキノ自身が演出を手掛け、芸術文化の街として盛り上がりを見せる松本でじっくりと滞在制作を行う。升に公演への意気込みや俳優業への思いなどを聞いた。
――『王様と私』を下敷きにマキノノゾミさんが描いた傑作コメディですが、升さんは『王様と私』については、どのようなイメージがありますか?
ストーリーはそれほどはっきりと覚えているわけではないのですが、映画の最後に宮殿でユル・ブリンナーが豪快に踊って見せるシーンが印象に残っています。日本でミュージカルを観たときも、高嶋政宏さんが踊っている姿がすごく印象的でした。葛藤を乗り越えてのダンスだったと思うのですが、それまでのやりとりは今回『殿様と私』の台本を読んだときに、「こういうことだったな」と改めて認識しました。
――『殿様と私』の台本を読まれて、この作品の魅力はどんなところに感じましたか?
おそらくは、僕が観た『王様と私』のようなすてきなダンスシーンにはならないだろうと思います。やはり日本に置き換えた時点でそこは無理があるという気がします。なので、それよりも時代の流れについていけない殿様がどう成長していくのか。状況をどう打ち破っていくのか、それとも打ち破れないのか。そうした物語や、娘や息子が世界に向かって歩いていこうとする姿といったものをお見せしたいと思います。明治時代は現代とは価値観が違うとは思いますが、ここで描かれる一つの家族の物語は親近感を感じられると思いますし、そこをうまく表現できると、日本を舞台にしたこの作品ならではの面白さが出るのかなと思います。
――上演決定時のオフィシャルのコメントで、升さんが演じる白河義晃に共感しているとお話されていましたが、義晃の行動は理解できるところが多いですか?
そうですね。最近は、知らないことが多過ぎて(笑)。教えて欲しいと周りに聞くんですが、説明をされても説明しているその言葉すら分からないことがあるんですよ。その言葉が分からないから、言葉の意味を教えてもらう。そうやって遡ってばかりです。知ろうとしているのに、知らないことがどんどん増えていって、途中で諦めてしまうということも多いので、そこは共感できる部分です。もちろん殿様(義晃)は、大きな時代の中での葛藤なので、僕とはスケールが全然違いますが。
――現時点では、演じる上でどんなところをポイントにしたいと考えていますか?
まずは、“殿様でいる”ことが一番大事だと思います。それは、一時代前の殿様です。その殿様が、物語を通して変化していく。なので、最初の“殿様”をしっかりイメージして表現しなければいけないと思っています。
――なるほど。この作品に限らず、役作りをするときには、かなり下調べをされるのですか?
もちろん調べられることは調べます。実在の人物の場合には、調べて知っておかないとどこかで嘘が出てきますので。架空の人物であれば、自分で作っていい部分もありますが、どういう時代で、どういう世界の中に生きているのかということは、しっかりと自分の中に落とし込まなければいけないので、架空の人物であっても、時代背景などは調べますし、落とし込み作業は行います。今回も時代背景がすごく大事な作品だと思うので、時代感は意識したいと思います。それから、共演者の皆さんとのコミュニケーションも大切にしています。稽古の中のコミュニケーションを取っていくと形になっていきますし、その中で変化していくのだと思います。
――マキノさんとは、これまでもご一緒しているそうですが、今回のクリエイトで楽しみにされていることは?
自分のことはさておき、僕の周りにいる人たちに対して、どういう演出をされるのか、それがすごく楽しみです。自分への演出はもちろん、全てマキノくんが思い描いているものになるように聞きながら進めていきますが、僕は演出家さんが他の俳優さんに対して演出している姿を見るのが好きなんですよ。自分への演出だと分からないことも他の人への言葉だと、その人がどういう表現の仕方をしているのかがよく分かるんです。それは自分に返ってくるものだと思うので、他の人たちにどんな言葉をかけているのかすごく楽しみです。
――今回、初共演の方ばかりだと聞いています。新たな化学反応が楽しみでもありますね。水さんはダンスがお得意ということもあり、役柄としても楽しみです。
そうですね。お手本を見せてくれるのではないかと楽しみにしています。きっとめちゃくちゃかっこいいんだろうなと思います。今回、すごく幅広いジャンルの人たちが集まっているというのも楽しみですね。
――ダンスはこの作品の一つのキーワードだと思いますが、升さんはダンスには思い入れはありますか?
30代の頃に始めた「売名行為」というユニットで6年間、それから、その後、自分で立ち上げた劇団MOHERで11年間、ダンスを踊っていました。1つの芝居の中に3曲はダンスが入るという作り方をしていたので、踊っていたというよりは、踊らされていた時代があって(笑)。それ以前に本格的なレッスンを受けたことはなかったですが、20歳で養成所に入ったときに、日舞、それから今はダンスと言いますが、当時は洋風に舞うという意味で“洋舞”と呼ばれるものを習ったことがあります。ステップみたいなものでしたが、それが後々、ダンスに生きていたのかなと思います。ただ、最初はスッと入っていけるのですが、振付師がどんどんレベルを上げていくと、途中でついていけなくなり…。みんなで踊る曲も、僕だけ途中で抜けるということもありました(苦笑)。なので、最後まで手心を加えていただきながら、踊っていましたね。それが47歳の頃まで続いていて、自分の舞台では必ず踊っていたので、ダンス自体はそれほど苦ではないです。ただ、覚えるのが遅いので、できるようになっていくので時間がかかります。
――今回、どのようなダンスシーンがあるのかも楽しみです。ところで、そもそもの話ですが、升さんが俳優を目指したきっかけはいつ頃、どんなことだったのですか?
父親が放送局に勤めていたので、ドラマ、演劇などが普通の家庭よりも身近にあったんです。自宅に劇団四季の俳優の方が遊びに来てくださることもありましたし、中学生くらいからはそうした関係の方の舞台を観に行かせてもらうこともありました。スタジオでドラマの撮影を見学させてもらったこともあったので、テレビドラマの見方が少し変わっていたのかもしれません。なんとなくお客さんとして観るのではなく、「この中で演じている人たちを観る」感覚を抱いていました。当時、明確に俳優になりたいと思ったわけでもないのですが、高3で大学受験の進路指導の面談があったときに、とにかく勉強が嫌いで受験したくなかったので、大学に行かないためには何があるかを考えて、「俳優になる=行かない」と自分の中でなって(笑)。それで、先生に伝えたというのが最初のきっかけです。
――大学受験をしないため、なんですね。面白い。
あのとき、じゃあ受験して大学に行こうと思っていたら、もしかしたら俳優をやっていないかもしれません。違う入り方をしているかもしれませんが。
――演じる楽しさや魅力を感じたのはいつ頃なんですか?
思い返すと、小学校のときに、国語の時間に「誰か読みたい人?」と聞かれると必ず手を挙げて読んでいました。当時から、文字を言葉にして声に出すことが好きだったみたいで、それが演じる、セリフを話すということに自分の中で繋がっていたように思います。その後、俳優になると決めた後は、自分が役を演じる、セリフを話すということが好きという想いだけでやっていたので、20代の頃は「演じるとはなんぞや」ということは全く理解できてなかったと思います。それは違うと言われても、何が違うか分からなかった。「自分ではできている。上手に話していて、OKだ」と思っていたのに、そうではないと言われ…。ただ、芝居は好きで楽しかったです。バイトに行って、稽古に行って、小道具を作ったり裏方の仕事もしながら、本番を迎える。そうしたサイクルは好きでしたが、役者個人としてなかなかうまくできないことにはすごく葛藤していました。
――そうした中で、ターニングポイントは?
25歳の頃に『ガキ帝国』という井筒和幸監督の映画でデビューしたことでした。大阪でオーディションがあったので受けたら、なぜか通って、めちゃくちゃいい役をいただき、長期間その撮影に携わりました。それまでは単発での出演だったり、わずかなシーンで終わることが多かったのですが、長期に渡って1つの役を演じ続けたことで、芝居の楽しさを改めて感じて。自分ではできているとか、できていないということはあまり分かっていませんでしたが、監督からオッケーが出たらそれでオッケーなのだと思うようになりましたし、出来上がった映画を観たときに、自分の出演シーンが多くて感動しました。さらに評価もしていただけたことで、少しだけ自信みたいなものが生まれました。その後、所属していた舞台の作品とNHKの連続テレビ小説で演じた役が総合的に評価されて、大阪演劇フェスティバルの放送演劇新人賞を受賞したのですが、それもまた自信に繋がったポイントかなと思います。その自信があったから続けていられたのだと思います。
――升さんは映画、ドラマなど映像作品でもご活躍されていますが、演劇作品に出演することの面白さはどんなところに感じているのですか?
まずは稽古期間が1ヶ月くらいあることがすごく大きいです。その中で、いろいろなことを試しながら完成に近づいていける。しかも、自分1人ではなく、演出家もいて共演者もいて、一緒に作り上げていくという時間がすごく好きです。映画やドラマは、試す時間がなかなか取れないので、「これが正解だろう。これが無難だろう」という演技をしてしまいがちですが、そのためには自分の中の引き出しがないといけない。舞台の稽古期間は、そうした引き出しをたくさん作る時間でもあるのだと思います。今までやったことがないことをしたり、出したことがない声を出してみたり、そうしたチャレンジが自分に返ってくればいいなという思いでやっているので、稽古は大事ですね。それから、妙な緊張感も好きです。劇場のセットの中に立ってみると、やっぱり稽古場とは全然違うんですよ。誰もいない客席に向かって芝居をしているときの空気も好きですし、本番が始まるときの緊張感、チームで頑張る一体感も好きです。芝居という意味では、同じことをしていますが、全く違う世界かなと思います。
――舞台をやっていて、一番やりがいや達成感を感じる瞬間は?
いろいろなポイントがありますね。初日の幕が開く5分前のワクワクだったり、初日のゴールまでたどり着いた達成感もありますし、お客さまのリアクションを感じたときもそうです。その後の酒も美味しいですしね。長い公演になってくるとどうしても新鮮さが失われて、それが日常になってしまう怖さはありますが、舞台は生き物なので、毎回違いますし、失敗もある。その失敗で何かが起きたりもしますから。そうしたハプニングも含めて、新鮮さをずっと感じながら千穐楽までやり通す達成感もある。なので、随所にあります。
――ところで、2025年がスタートしました。今年はどのような年にしたいですか?
2025年は僕にとって記念すべき年、節目の年です。70歳になる年ですし、俳優になってちょうど50周年の年でもあって。僕の中に俳優を始めてから10年周期で大きく変わるタイミングがあるんですよ。今年はそれがくるタイミングでもあるので、何が変わるんだろうと楽しみでもありますし、自分で変わるための動きをして、それがどういう結果に繋がっていくのかとワクワクしています。ここから10年のスタートなので、また新しいことにどんどんチャレンジしていきたいです。
――升さんが新しいことにチャレンジするためのモチベーションを保ち続ける原動力は?
「初めて」を楽しむことです。自分で何かを新しく始めたり、やったことがない初めての役を演じさせてもらったり、初めましての人とお芝居をする。常にあるんですよ、初めてって。1つの作品に関わったら必ず1つは初めてがあるので、「初めて」を欲しているんだと思います。それに、こんな人がいたんだ、あんな人がいたんだと発見することも原動力の一つです。60歳になるまでは、実際の年齢よりも若い役を演じたいし、若くみられたい、若くいようという意識が強かったんですよ。でも、60歳を超えたときに、映画監督の佐々部清さんと出会ったことがきっかけになって考え方が変わって。60歳になった自分にしかできない表現ってあるはずだと思うようになり、それまでの生きてきた経験値を表現できる年になったと考えるようになりました。70歳になっても、経験値を生かした芝居をし、相変わらず、新しいことを見つけて、それを原動力にしていきたいと思います。
――ありがとうございました! 最後に公演への意気込みと読者にメッセージをお願いします。
長年、劇団を主催してきた経験がどうしても抜けなくて、プロデュースの公演でも、座組の座長というポジションは非常に居心地良く感じています。それはお山の大将ということではなく、みんなとコミュニケーションをたくさん取って、良いチームを目指していくという楽しみです。今回、それをまた新しくできることにとてもワクワクしています。そして、初めましての皆さんと一緒に、まつもと芸術市民館という初めましての劇場・プロデュースという、初めまして尽くしの公演です。『殿様と私』を観ることで、『王様と私』も観てみたいと思っていただけるような作品にしたいと思っておりますので、ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います。
<公演概要>
まつもと市民芸術館プロデュース『殿様と私』
作・演出:マキノノゾミ
出演:升毅 水夏希 久保田秀敏 平体まひろ 武居卓 喜多アレクサンダー 水野あや 松村武
【松本公演】2025年2月13日~16日 まつもと市民芸術館 小ホール
[料金]全席指定・税込 一般:5,500円 U25:2,000円(枚数限定・前売のみ)
【大阪公演】2025年2月28日~3月2日 近鉄アート館
[料金]全席指定・税込 6,500円
https://www.mpac.jp/event/41165/
主催:一般財団法人松本市芸術文化振興財団
後援:松本市、松本市教育委員会
提携:近鉄アート館(大阪公演)
協力:キョードー大阪(大阪公演)
企画制作:まつもと市民芸術館
<お問合せ>
まつもと市民芸術館チケットセンター
TEL:0263-33-2200(休館日を除く10:00~18:00) WEB https://www.mpac.jp/
【サイン入りチェキプレゼント】
<応募方法>
(1)ランランエンタメの公式X(https://x.com/ranranentame) をフォローする
(2)【前編、後編】の両方の記事を、リツートする。
(3)ダイレクトメッセージから「升毅さん希望」と書き、申し込む。
<応募締切>
2025年3月2日 23時59分
<当選発表>
締切後、厳正なる抽選の上、当選者を決定。ご当選者様には、ランランエンタメ公式アカウントよりダイレクトメッセージにて当選連絡をいたします。2日以内にご返信がない場合は当選の権利が移ります。
当選者発表までに少々お時間を頂戴いたします。ご了承ください。
<ご応募について>
※リツイートは、公式リツイートに限定させていただきます。
※X(旧Twitter)アカウントを非公開にしている場合、リツイートを確認することができないため応募対象外となります。
※ご応募後のキャンセル、変更、返品、お届先の変更はできかねますので、ご了承ください。
※当選結果に関するお問い合せは受け付けておりませんので、ご了承ください。
<商品発送について>
※商品の配送は日本国内のみとさせていただきます。お届け日は、指定できません。
※当選者の長期不在や、賞品お届け先ご住所や転居先が不明等の理由により、賞品のお届けができない場合は、ご当選を無効とさせていただく場合がありますので、予めご了承ください。
<注意事項>
※プレゼントの応募によりお預かりした個人情報は商品の発送にのみ使用いたします。
※ご当選の権利は第三者への譲渡や現金とのお引き換えはできません。
※ご応募いただいた時点で、本応募要項に同意いただいたものとみなします。
取材 文・撮影 嶋田真己