取材:記事・写真/RanRanEntertainment
在宅医と患者、そしてその家族を描いた映画『痛くない死に方』が2月20日(土)より公開される。本作は、在宅医療のスペシャリストであり、実際に尼崎市で在宅医として活躍している長尾和宏氏によるベストセラー「痛くない死に方」「痛い在宅医」をモチーフに高橋伴明監督が映画化した作品だ。本作で、長尾氏をモデルとした在宅医・長野浩平を演じる奥田瑛二に、本作を通して感じた終末期への思いや死生観を聞いた。
――本作のオファーを受けたときのお気持ちを教えてください。
いつもそうなんですが、僕は「映画の話が来ています」と言われたら、必ず最初に、監督は誰が務めるのかを聞くんです。今回も同じように聞いたら、「高橋伴明さんです」というので、脚本も見ずに「やる」と即答しました。伴明には絶大な信頼を持っていますし、彼が今度は何を撮るんだろうという興味もありますから。それに、主役が柄本佑だというのだから、断る理由はない。
――その後に、脚本を読まれてどんな感想を持ちましたか?
この作品は、命の話です。命=終活、人生、それから医師の成長が描かれています。僕が演じるのは、それらをサポートする役。これは真剣に取り組んでいかないといけないなというのが最初の印象でした。脚本を読み進めていくと、人生の喜びや厳しさを織り交ぜて描かれているのが印象的でした。特に、宇崎(竜童)さんが演じた本多彰という男の生き様は、同世代の者として感銘を受けましたね。変な言い方ですが、ある種の爽快感がありました。
それから、演じる上では、長野の医師としての姿勢がポイントになると感じました。それを象徴しているのが「生きることは食べること」と「患者を診るんじゃなくて人を見ろ」という2つのセリフです。この言葉こそが役の本質であると感じたので、特にこのセリフを大事にしようという思いで撮影に臨みました。
――長野という役は、長尾先生がモデルとなっているということでしたが、長尾先生とは撮影前にお会いしましたか?
衣装合わせの時にお会いしました。ちょうど、「長尾先生はジーパンを履いていることが多いから、ジーパンでいく」という話をしていて、格好つけても仕方がない役柄だし、野暮ったさがどこかにあってもいいのかなと思って役柄をイメージしていたら、実際に長尾先生がいらしたので、「なんだ、二枚目な方じゃないか」って(笑)。それで、先生がいらっしゃる前で衣装合わせを行って、あのスタイルになりました。それから、後日、役作りの一環として、佑と一緒に桜新町のクリニックで遠矢純一郎先生の医療指導を受けました。その時に、台本で重要だと思った部分や興味があるところを聞いて、お話させていただきました。
ただ、お会いして指導をしていただいている時に、長尾先生を意識して役を作るのはやめようと思ったんです。近づけるとかそういうことではなく、その人となりを感じ取ればいいんだ、と。なので、長野は長尾先生をモデルにはしていますが、独立した人物だという感覚で臨みました。そうしないと、長野という役が、自分の肉体の中の身になって、肉になって、骨になるということができなくなると思ったんです。この作品は、人の死に関わる話を描いているので、自分の中できちんと咀嚼して演じなければ、形だけになってしまうと感じたので、そこは苦労したところでもあります。
後編~
映画『痛くない死に方』
出演: 柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二
監督・脚本:高橋伴明 原作・医療監修:長尾和宏
制作:G・カンパニー 配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「痛くない死に方」製作委員会
尺:112min 公式サイト:http://itakunaishinikata.com/
(c)「痛くない死に方」製作委員会
2021年2月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
■あらすじ
在宅医療に従事する河田仁(柄本佑)は、日々仕事に追われる毎日で、家庭崩壊の危機に陥っている。そんな時、末期の肺がん患者である大貫敏夫(下元史朗)に出会う。敏夫の娘の智美(坂井真紀)の意向で痛みを伴いながらも延命治療を続ける入院ではなく“痛くない在宅医”を選択したとのこと。しかし、河田は電話での対応に終始してしまい、結局、敏夫は苦しみ続けてそのまま死んでしまう。「痛くない在宅医」を選んだはずなのに、結局「痛い在宅医」になってしまった。それなら病院にいさせた方が良かったのか、病院から自宅に連れ戻した自分が殺したことになるのかと、智美は河田を前に自分を責める。在宅医の先輩である長野浩平(奥田瑛二)に相談すると、病院からのカルテでなく本人を見て、肺がんよりも肺気腫を疑い処置すべきだったと指摘される河田。結局、自分の最終的な診断ミスにより、敏夫は不本意にも苦しみ続け息絶えるしかなかったのかと、河田は悔恨の念に苛まれる。
長野の元で在宅医としての治療現場を見学させてもらい、在宅医としてあるべき姿を模索することにする河田。大病院の専門医と在宅医の決定的な違いは何か、長野から学んでゆく。
2年後、河田は、末期の肝臓がん患者である本多彰(宇崎竜童)を担当することになる。以前とは全く違う患者との向き合い方をする河田。ジョークと川柳が好きで、末期がんの患者とは思えないほど明るい本多と、同じくいつも明るい本多の妻・しぐれ(大谷直子)と共に、果たして、「痛くない死に方」は実践できるのか。