2015.11.07 取材:写真・記事/RanRan Entertainment
中島らも作の舞台『ベイビーさん ~あるいは笑う曲馬団について~』が、11月7日(土)、東京・Zeppブルーシアター六本木において舞台初日を迎えた。
日本が第二次世界大戦に突入しようとしていた昭和16年。
満州の新京で、とあるサーカス団が軍隊の慰問をするため、八代大佐率いる一同が、その演目が適正かどうか視察に来ていた。
「サーカスではない、曲馬団だ」
ピエロは道化、ライオンは獅子と、士気を鼓舞するための慰問で、間違っても敵性語を使ってはならないと言う八代大佐。そして、食料が不足している時代に、餌を大量に食べる動物に不満をぶつけ始める。
「餌を食わない動物もいるんですよ!」と反論するサーカスの連中が連れてきたのは、一頭の謎の動物だった。
「ベイビーさんで。」
舞台の幕が開けると、まず松尾貴史さん演じる“ピエロさん”が登場する。
圧倒的な存在感とコミカルな演技にぐいぐいと引き込まれ、気付けば舞台と客席が一体となり、そこはもう満州だ。
初日を前にこの“ピエロさん”役を演じることについて「らもさんがご自身で演じることを想定して書いた役なので、どういう人物設定をしていたのか、想像する作業が楽しかったです。」と語った松尾さん。「サーカス団のあらゆる娯楽を盛り込んで良いという状況設定にいろんな工夫があり、稽古場で実際にやってみて組み立てていくプロセスが、無邪気に楽しめました。」とのことだったが、劇中でのサーカス団が演目を披露する場面では、アクロバティックな動きやダンス、殺陣などが盛りだくさんで、見ごたえ充分だ。
サーカスに視察に来た“内海少尉”を演じるのは、主演の池田純矢さん。内海少尉は、軍人としての自分と本来の自分の間で葛藤がある難しい役だが、「お芝居の質的にも、身体的にも、どちらかというと普段は発散する役どころの方が多かったのですが、今作ではどちらにも大きな縛りがあり、自分を抑圧することが課題でした。“何もしない、しかし、そこに在る”というのがどれほど難しいか、痛感したように思います。」と語ってくれた。「逆に不自由の中に生まれる自由を見つけたときは何よりも嬉しかったです。」とのことだが、硬い表情をして軍人としての自分の役割を果たそうとする内海少尉が、サーカス団と出会い、団員たちと関わっていく中で変化していく様は、この舞台の見所のひとつと言える。是少しずつ変化していく池田さんの表情にも是非注目していただきたい。
そして、本作の演出を担当したG2さんは、いつかこの「ベイビーさん」の演出を、と望んでいらっしゃったそうだが、今回は特に、人の集まりの大切さと素晴らしさを感じたそうだ。「二十代の若者を三人も迎えたカンパニーは自分にとって珍しいし、ダンスも殺陣も役者兼任でがんばってくれました。ベテランも手を抜いていません。スタッフは実現不可能とも思える演出プランを具現化してくれました。」とのこと。
「手を抜かず、余計なことをせずテキストから感じたままを頼りに稽古場で芝居を作ってきました。あとはお客さまにどう感じていただけるか……とても楽しみです。疲れた心の栄養補給にお勧めの一品。理屈抜きに楽しめる作品になったかと思います。」
人の集まりの大切さと素晴らしさとのことだが、それは劇中の中でも随所で感じることができる。鈴木勝吾さん演じる“少年(ボーズ)”の純粋さ、ひたむきさ、そしてそれに対するサーカス団の温かさに触れれば、自然と熱いものが込み上げてくる。
ベイビーさんの存在、内海少尉、そしてサーカス団。
人々が自然に舞台上で生きているようなその空間で、少し不思議な感覚を感じながらも、とても心地よい。観客は自由な視点で作品を楽しめるが、どんな視点で見ても必ず幸せと元気を貰える。そんな作品だ。
『ベイビーさん ~あるいは笑う曲馬団について~』は11/14(土)まで、Zeppブルーシアター六本木にて公演中!