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2023年9月12日 17:00

尾上松也×廣瀬友祐が見せる狂気と自己愛 ミュージカル『スリル・ミー』ゲネプロレポート

撮影:田中亜紀

“私”と“彼”、そして一台のピアノのみで繰り広げられる100分間のミュージカル『スリル・ミー』が9月7日(木)に開幕した。ランランエンタメでは、“私”尾上松也と“彼”廣瀬友祐ペアのゲネプロを取材。その模様をレポートする。

本作は、「私」と「彼」がともに起こした犯罪史上に残る残忍な誘拐殺人事件を描いたミュージカルだ。その事件の動機とされているのはただ一つ、スリルを味わいたかったから。しかし、それが真実のすべてではなかった。物語が進むにつれ、やがて本当の動機が明らかになる。

松也は、本作には9年ぶりの出演。「もう一度挑戦したいとずっと願っていた」と語るほど、待望した再出演だ。一方の廣瀬は今回が初出演。二人は、2015年のミュージカル『エリザベート』以来の共演となる。

物語は、5回目の仮釈放審議委員会に「私」が出席するシーンから始まる。静まり返る劇場の中、「私」は客席を通ってステージに上がる。そこで語られるのは、34年前に「私」と「彼」が犯した犯罪について。「私」が静かに時を遡る。

スポットライトがステージに当たった瞬間、松也の持つ圧倒的なオーラがその場を支配したように感じた。過去を振り返る松也の低く落ち着いた声が劇場に響く。その声は、長い年月をさまざまな想いを抱えて生きてきた男に説得力を持たせていた。

その一方で、回想の中で19歳の「私」を演じる松也は、純朴そうな青年としてそこに立っていた。しかし、物語が進んでいくと、その純朴な表情の中に、絶対的な自信と強さが垣間見えてくる。表面的には「彼」に従いながらも、決して「従者」ではない。だとすると、「彼」への愛は、実は「彼」と共にある「私」自身への愛のようにも感じられた。

そんな「私」と対峙する廣瀬の演じる「彼」は人間味を一切感じさせない表情が印象的だった。瞬きをせず、目を見開いたまま、無表情で話す姿はまさに狂人。犯罪への欲求に支配されていくさまは“取り憑かれている”という表現がぴったりだ。「彼」の目には、「私」の姿は一切映っていない。それほど、廣瀬の演じる「彼」は狂気の真っ只中にいた。

そうした狂気の一方で、過剰なほどの色気が、より人間味を消していたように思う。とにかく、「私」に触れる手が美しくてセクシー。物語の冒頭のキスシーンでは、キスの直前、一瞬だけ浮かべた笑みにゾクっとするほどのエロティックさがあった。ただし、そこには「私」への愛情も情熱も友情めいた感情も感じられなかった。結局、彼は自分の世界にだけ生きていたのかもしれない。

今回の公演は、松也×廣瀬のほか、木村達成×前田公輝、松岡広大×山崎大輝の3ペアで上演される。松也と廣瀬のペアは、3ペアの中で一番の年長組だ。だからなのか、総じて大人な印象を強く受けた。それは、甘えや執着、依存といった感情があまり見えなかったからではないかと考えている。二人は、お互いを見ているようで見ていない。お互いに必要としているけれども、思いは自身の内側に向いている…。そんな感触を覚えたペアだった。

キャストが変わると作品の印象が大きく変わるのが魅力でもある「スリル・ミー」。観劇後、重く、胸の中に澱を残したような余韻を感じながら、他のペアも観劇したくなったのはいうまでもない。

「スリル・ミー」は以下の日程で上演。
東京公演:9月7日(木)〜10月3日(火) 東京芸術劇場 シアターウエスト
大阪公演:10月7日(土)〜9日(月・祝) サンケイホールブリーゼ
福岡公演:10月11日(水)・12日(木) キャナルシティ劇場
名古屋公演:10月14日(土)・15日(日) ウインクあいち 大ホール
群馬公演:10月21日(土)・22日(日) 高崎芸術劇場 スタジオシアター

公式ホームページ:https://horipro-stage.jp/stage/thrillme2023/

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