取材:記事・写真/RanRanEntertainment
第54回カンヌ国際映画祭にてレイル・ドール賞とエキュメニック新人賞をW受賞した『UNloved』や、『接吻』で知られる万田邦敏監督による『愛のまなざしを』が11月12日(金)から公開される。本作は、妻を亡くしたことで生と死の間を彷徨うように生きていた精神科医と、彼の前に患者として現れた、彼を救済するかのような微笑みをたたえた女による愛憎サスペンス。精神科医・貴志を仲村トオル、貴志からの愛を渇望する女・綾子を杉野希妃が演じる。今回は、杉野に綾子の役作りについてや万田監督との撮影についてなどを聞いた。
――本作は、『UNloved』『接吻』に続き、万田監督と脚本の万田珠実さんの3度目のタッグとなる作品です。最初に脚本を読まれた時、どんなことを感じましたか?
私はもともと、万田監督が演出されている作品は全て好きだったのですが、その中でも、特に万田珠実さんが脚本を書かれている『UNloved』と『接吻』が好きでした。自我が強く、自分が信じたものに対して突進していくという女性像にすごく惹かれたんです。それで、監督とはいつか一緒にお仕事をさせていただきたいと思っていたので、まず、ご一緒できるということがすごく嬉しかったです。
脚本を読ませていただき、綾子という女性はリアリティがあるようでない、実体が見えづらい女性だという印象がありました。実は共感できる部分がほとんどなかったんですよ。こんな虚言を吐く人が世の中にいるのかな? と思ったんです(笑)。それで、珠実さんとお話をさせていただいた時にそのことを話したら「共感はしなくていい」とおっしゃっていたので、なるほど、と。演じる上では、完全に理解して、共感する必要がないんだと腑に落ちて、すごく気持ちが楽になりました。撮影を終えた今でも、綾子という人物に対しては、愛憎があり、放っておけないような不思議な感覚があります。彼女が根底に抱えているのは孤独で、誰かに認められたいがゆえに嘘をつく。それが彼女の生きる術だったんだと考えると、愛おしくもあり、でも未だに憎たらしくもあり…(笑)。今まで演じた中で、一番強烈なキャラクターでした。
――綾子を演じる上で、特にどんなところを意識したのですか?
監督が現場に入る前に、常々「自分はナチュラルな芝居というのがものすごく嫌いだ」ということをおっしゃっていたんです。今は、「あのー」とか「うーん」とか間(ま)がある日常会話的な芝居をさせる作品がすごく増えてきていますが、「自分の作品にはそういうのは一切必要ない。自然さは意識してほしくない」と。なので、そこは大前提として考えていました。
珠実さんの脚本は、独特な言い回しも多いので、「言いにくいセリフは語尾を変えてもいいよ」とおっしゃってくださっていたんですが、私は珠実さんの書くセリフがすごく美しいと思っていたので、一字一句変えたくなかった。でも、不自然さを感じるところもあり、その違和感をどう消化していくのかの戦いだったような気がします。最終的に、私の中では、田宮二郎さんと若尾文子さんが演じているのを想像しながら読むと、すんなり読めるようになりました(笑)。
――憧れていたという万田監督の現場はいかがでしたか?
多くの現場では、リハーサルではまず役者が自由に動いて、監督が違和感を感じる部分があったら修正するというやり方が多いのですが、万田監督の場合は、自然な動きをしようとすると「待って、待って。動かないで」ってストップをかけるんです(笑)。万田監督は、その場で思いついた独特な動きをきめ細かく指示してくださり、役者がそれを体現してどういう化学反応が起こるかを観察されているようでした。私にとっては、監督の言った通りに動いて、動きとセリフを自分に馴染ませるという作業はすごく新鮮で、楽しんで演じることができました。
それから、監督は、愛憎劇を描いていても、目指されているものはアクション映画なんじゃないかなと思いました。編集でも、“間(ま)”とか“余韻”はズバズバ切っていくんです(笑)。でも、そこまで大胆に動かすことによって生まれる何かがあると、今回知ることができたので、今後の自分の監督作品にも影響があるんじゃないかなと思います。
――では、綾子が愛する貴志を演じた仲村トオルさんの印象は?
仲村さんは、佇まいがブレずに、とてもおだやかで安心感のある方でした。撮影のスケジュールが突然変更になって、その日に撮る予定のなかった長ゼリフのシーンを撮影することになっても落ち着いて「分かりました」と対応されていて…ご本人は「内心は戸惑っていた」とおっしゃっていましたが、何事も冷静に対処されて、慌てず、どっしりとされている印象でした。
――撮影で印象に残っているシーンやエピソードは?
綾子が「私たち、二人でいるのに三人なのね」とつぶやく、貴志とのシーンです。撮影に入る前の打ち合わせでも、監督が「ここが一番どん底に落ちるシーンだから」とおっしゃっていて、リハ中から感情が入り込んでしまって、涙が止まらなくなってしまったんですよ。リハが終わり撮影直前に監督から「このシーンは泣く必要ないから。泣かなくていい」と言われたんですが、もう感情的にもどうしても涙が止まらなくて…(笑)。そういう意味でも印象的でした(笑)。
全体的には、撮影自体は本当に楽しんでできました。監督もきっと楽しんで撮っていらしたと思います。短い日数での撮影でしたが、終始、和やかな雰囲気でした。ただ、終わった後に綾子の情念みたいなものが取れなくて…(苦笑)。撮影は一昨年の9月に行ったのですが、その年は年末まで精神的にはどん底でした。
■あらすじ
亡くなった妻に囚われ、夜ごと精神安定剤を服用する精神科医・貴志(仲村トオル)のもとに現れたのは、モラハラの恋人に連れられ患者としてやってきた綾子(杉野希妃)。恋人との関係に疲弊し、肉親の愛に飢えていた彼女は、貴志の寄り添った診察に救われたことで、彼に愛を求め始める。いっぽう妻(中村ゆり)の死に罪悪感をいだき、心を閉ざしてきた貴志は、綾子の救済者となることで、自らも救われ、その愛に溺れていく…。しかし、二人のはぐくむ愛は執着と嫉妬にまみれ始め、貴志の息子・祐樹(藤原大祐)や義父母との関係、そしてクリニックの診察にまで影響が及んでいく。そんな頃、義弟・茂(斎藤工)から綾子の過去について知らされ、さらに妻の秘密までも知ることとなり、貴志は激しく動揺するのだった。自身の人生がぶれぬよう、こらえてきた貴志のなかで大きく何かが崩れていく。失った愛をもう一度求めただけなのに、その渦の中には大きな魔物が存在し、やがて貴志の人生を乗っ取り始める。かたや綾子は、亡き妻にいまだ囚われる貴志にいらだち、二人の過去に激しい嫉妬をいだく。彼女は貴志と妻の愛を越え、極限の愛にたどりつくために、ある決断を下すのだった――。
映画『愛のまなざしを』
2021年11月12日(金)より全国公開
出演:仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐
万田祐介 松林うらら
ベンガル 森口瑤子 片桐はいり
監督:万田邦敏
脚本:万田珠実 万田邦敏
プロデューサー:杉野希妃 飯田雅裕
企画:和エンタテインメント
配給:イオンエンターテイメント 朝日新聞社 和エンタテインメント
製作:「愛のまなざしを」製作委員会
(ENBUゼミナール 朝日新聞社 和エンタテインメント ワンダーストラック イオンエンターテイメント はやぶさキャピタル)
(c) Love Mooning Film Partners
公式HP:https://aimana-movie.com/
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後編~