左から)白井晃 葵わかな 木村達成
『セツアンの善人』のプレスコール&初日前会見が10月15日(火)に世田谷パブリックシアターで行われた。会見には、上演台本・演出の白井晃、主演の葵わかな、木村達成が登壇し、初日への思いを語った。
本作は、ドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトの代表作で、1943年にスイスで初演された。神様が地上に降りてきて善人を探すという寓意劇は、今も世界各地で上演を重ねている。
今公演は、世田谷パブリックシアター芸術監督の白井晃が演出を務め、葵わかなが心優しき女性シェン・テとビジネスに徹する冷酷な青年シュイ・タを一人二役で演じる。木村達成はシェン・テが恋に落ちる失職中のパイロット、ヤン・スンを演じる。出演はほかに、渡部豪太、七瀬なつみ、あめくみちこ、小林勝也、ラサール石井、小宮孝泰など総勢17名。
演出・上演台本の白井晃は「世田谷パブリックシアターで、ブレヒト作品は2本目になります。この作品は今に通じるいい作品だと思っていますので、力を込めて皆様に送りたいと思っています」と挨拶。
シェン・テとシュイ・タ役の葵わかなは「ついに明日が初日。すごく挑戦的なものが詰まった作品になっていると思います。お客様からどんなリアクションが返ってくるのか、どんな感想を抱いていただけるのか、すごく楽しみです。稽古場の段階からお客様が入って完成する作品になると考えていたので、明日は一生懸命頑張りたいと思います」と初日直前の心境を語った。
ヤン・スン役の木村達成は、「明日、初日を迎えられることを本当に嬉しく思っています。『セツアンの善人』が持つ独特な不気味さみたいなものが伝えていけたらなと思っています」と久々の舞台に立つ喜びを伝えた。
白井は「ブレヒトが格差の広がる社会構造や、経済のシステムに対して批判的に描いた作品で、宗教の問題も描いています。この世の中で生きていくには善人ではいられない。悪人、クールな人間になっていくしかないと描くこの作品は80年前に上演されたのですが、今にも通じます。言ってみれば今の日本を描いた作品にも見えてきます。こうした重たい問題を、ブレヒトが音楽や歌といったエンタテイメント要素も含みながら、皆様にお届けしているのが魅力」とブレヒト作品の魅力について説明した。
葵は「シェン・テは神様から善人認定をされる役ですが、お金がなくて、生き抜くために娼婦をしていたり、すごくいい人で周りに流されるように見えるキャラクターです。その実彼女の中でも一個一個決断があって、“善人”という信念がある。譲れない部分のせいで生き辛くなっているキャラクターだと思います。もう一人、架空のいとこを作る。それがシュイ・タです。シュイ・タはシェン・テの代わりに、仮面をつけて別の人格になることで生きるために突き飛ばしていくようなキャラクターです。シュイ・タは冷酷な人間と評価されますが、合理的な部分もあって、嫌いになりきれないキャラクターです。」と演じる二役について分析した。
木村が演じるのは失業中のパイロット、ヤン・スン。「パイロットになることを目指して、『セツアンの善人』の中で唯一と言っていいほど、自分の目の前に置かれたものに走っていく男です。お金というものは必要です。それを利用したのか、しないのかわからないのですが、シェン・テを介して、自分の目標に向かって走っていく素直な男だと思っています」
葵は、初の二役を演じることについて「演じ分けは大変ですね。特に男性を演じることは初めてで、女性と男性は体の構造も違うので、自分のこの身長と体格でどうやって(男性を)表すのかはものすごく難しいと今も感じています。それに加えて、シェン・テとシュイ・タのキャラクターの違いがこの作品をすごく面白いものにすると思うので、それぞれの個性は白井さんに教えていただいています。公演期間中も考えていきたいです」と難しい役への取り組みについて明かした。「歌も、今回はミュージカルの歌と違って、シーンの強調という役割があるので、これも今まで自分がやってきたものとは違いました。感覚に落とし込んでいざやるとなると、すごく難しかったです。ようやく最近になって、これかなというものが、白井さんと何となく見つけてきたところです」と演じ分けも歌い分けも難しいと率直な感想を述べた。
おすすめの歌について問われた葵は「白井さん、どうですか?」と白井に振ると、「シェン・テとシュイ・タを使い分けている歌があります。それは世の中に対するシェン・テの思いが籠った歌なので、特に大切」と答えた。
稽古を振り返って、白井は葵のことを、「葵さんとは今回初めてご一緒させていただきましたが、本当にまじめですよね。役を獲得するのに一つずつ積み重ねていって、私がチェックすると全部メモして、次に日に全部消化しているという、本当に俳優の鏡のような人です。本当にまじめで、それは表面的なものでなく、まじめという人格が充満しているような人」と表現した。「難しい役でしたが、葵さんならできるだろうと、かなり負荷をかけた部分がありますが、それを消化してきてくれた」と絶賛。木村については「木村君は3回目で、最初に会った時から、本当に成長してきたなと感じています。役者として確実に大きくなってきていると感じます」とこちらも絶賛。
葵は「今回のようにやることがたくさんなかったら、白井さんとこんなに話すことがなかったかもと思います。初挑戦だからこそ手探りで、一緒に作り上げたいとおっしゃってくださった言葉は忘れられません。その言葉があったからこそ飛び込むしかないと思いました」と振り返る。
木村は「白井さんと3回目ですが、白井さんに言われたことを、白井さんと一緒の舞台でない時にも自分の中で言い聞かせてやってきています。その時のダメ出しをもらわないように今回の稽古に挑んてきたつもりでしたが、ふとした瞬間に出てしまうこともありました。できるだけ、もっともっと役者として次のステージに行けるようなダメ出しをいただくために稽古をしいました」
最後に葵から「ついに明日、初日を迎えることになりました。『セツアンの善人』は80年前に書かれた作品です。白井さんがおっしゃっていたように、現代の社会、日本で生活している皆さんに届く作品になっていると思います。80年前から変わらず流れ続けている人々の願い、悩み、問いがふんだんに詰め込まれています。それを軽快なキャラクター、音楽の力を借りて皆様のそばにお届けできたらと思います。楽しんで帰っていただけたらと思います」とメッセージを伝えた。
『セツアンの恋人』
【東京公演】2024年10月16日(水)~11月4日(月)世田谷パブリックシアター
【兵庫公演】2024年11月9日(土)~11月10日(日)兵庫県立芸術文化センター
主催・公益財団法人せたがや文化財団